3歳と1歳のこどもがいてこれから教育資金も準備しなければなりません。資産運用にどのくらいお金をかけられますか?


今回、回答いただく先生は…
 
井上 信一先生(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 貯蓄で確保したい適正額は家計で異なりますが、それを考える視点はいくつかあります
  • 貯蓄と投資との壁を外せば、もっと柔軟なお金の使い方を考えることができます
  • 少なくとも一度は長期的・包括的なシミュレーションで家計の余裕資金を確認しましょう

  赤間 直人さん(33歳 仮名)のご相談

家計のためにも、お金を増やす投資や資産運用に目を向けたいと考えています。どれくらい貯蓄を確保した上で、投資等の資産運用にお金をかければよいでしょうか?

赤間 直人さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成 収入 貯蓄額
本人(33歳) 会社員 380万円 200万円
妻(28歳) パート 100万円
長男(3歳)
長女(1歳)

貯蓄商品と投資商品との壁を柔軟にとらえれば、各々の適性を活かしたお金の使い方を考えられます。日常的な支出は貯蓄、長期の資産運用は投資と固定的観念に縛られず、柔軟に考えましょう。

貯蓄で確保したい適正額は生活費の3カ月~1年分とは限りません

赤間さま、ご相談ありがとうございます。
貯蓄と投資(資産運用)を考える場合、まず大切なのは、家計のライフプランを明確にし、それを準備する手段として適した金融商品にお金を配分するとともに、生活資金の最低限のプールやリスクマネジメントを考慮して備えることです。例えば、住宅の購入やお子さまの教育費、さらに老後の生活を考える場合、確実に積み立てられる金融商品を利用するのが一般的です。財形貯蓄制度(特に住宅財形や年金財形)等のようにお得で利便性のある貯蓄商品による制度や、こども保険等の保険商品が考えられるでしょう。
とはいえ、これらを全て備えてからでないと、変動リスクのある投資商品等による資産運用ができないというわけでなく、後述するように、老後資金や生活費の一部の資金を投資商品に配分する考え方もできます。

ただし、生活資金の最低限のプールは貯蓄商品に置いておきたいもの。

一般的に、貯蓄として確保しておきたいお金は、「生活防衛資金」や「予備資金」などとも呼ばれることもあり、実に多くの方がその適正額に関心を持っておられるようです。お金のご相談をお受けする際に話題となることも少なくはありません。

マネーに関する雑誌やニュース等では、この額として、生活費の月額に対し最低でもその3カ月分、6カ月分~1年分あれば理想的との記事をしばしば見かけます。しかし、これは1つの目安に過ぎず、家族の人数やお金の使い方(消費性向)等で変わってくるものです。

そもそも、この生活費には食費・雑費や住居費のほか、衣服や嗜好品、レジャー等で日常的にかかるお金以外に医療費等を含むのが一般的です。ですが、毎月発生する費用だけではないので、基準を月額の生活費とするのでなく、年間支出額の1/4~全額等と計算するのが妥当です。年間支出額は、〇〇費と明細を積み上げていかなくても、極めて簡易的な方法ですが、下記例のように、「年間収入-年間収支」でざっくりと把握できます。給与振込口座の通帳履歴等で追う場合、「年間収入」は1年分の給与振込金額の合計額、「年間収支」は通帳残高の1年経過後の差額で確認できます。

(例① 夫婦合算の年間収入が400万円、1年経過後に夫婦の通帳残高が合計20万円増えていた場合)
年間収入(400万円)-年間収支(黒字20万円)=年間支出380万円
(例② 夫婦合算の年間収入が400万円、1年経過後に夫婦の通帳残高が合計20万円減っていた場合)
年間収入(400万円)-年間収支(赤字-20万円)=年間支出420万円

さて、生活防衛資金で確保したい金額の前提は、日常的な支出が現金払いかクレジットカード等のキャッシュレスであるのかを問わず、その決済口座である普通預貯金口座に給与等の収入が毎月入ってくることです。転職や傷病等のイレギュラーな事情を考える場合でも、ごく短期間に限り収入が見込めない状況が前提となります。この程度であれば、日常的なお金のプールでもある普通預金口座には、生活費の2~3カ月(年間支出額の1/6~1/4)分もあれば充分でしょう。

もし傷病等で働けない状態が長期に渡り、やがて会社を辞めざるを得ないような事態までを想定するなら、これはもう生活防衛資金で準備する範囲を超え、別途、生命保険や損害保険で準備すべき領域となります。

参考:保険を検討したいのですが、どのように考えていけば良いのでしょうか?

お金を使うためでも貯蓄と投資とでその適正は異なる

ここで、あらためて貯蓄商品と投資商品の商品性、つまり適性や役割について考えてみましょう。
どちらにも共通するのは、必要に応じていつかお金を引き出す、あるいは換金し、お金を使うためにあるということです。将来のための広義の資産運用や資産形成目的としては、貯蓄商品と投資商品のどちらも活用できます。
ただ、使うためのお金の置き場としては、いったん換金しなければダイレクトに決済目的には使えない投資商品より、普通預貯金のような決済性預貯金が圧倒的に利便性でも即金性でも上回ります。クレジットカード等のキャッシュレスでの決済に利用されるのも、基本的に預貯金口座です。
一方、投資商品は将来価値が変動するのが貯蓄商品(外貨建て預金等を除く)と大きく異なる点であり、その利殖性を期待されるのが特徴といえます。

商品バリエーションの比較としては、貯蓄商品のそれは特徴がやや異なる派生商品に過ぎないものであるのに対し、投資商品は圧倒的にバリエーションが豊富です。投資用不動産等の一部の特殊なものを除外し一般的な金融商品(有価証券)だけで考えても、国内(または円貨建て)・国外(または外貨建て)の個別株式、債券、投資信託など、想定されるリスクや仕組みなどの点でまったく異なる資産から選ぶことが可能です。
運用期間(保有期間)については、財形貯蓄や確定拠出年金(iDeCoを含む)等のように利用できる年齢に制約のある一部制度を除けば、貯蓄商品も投資商品も、基本的には自分でその長さを選べます。この運用・保有期間は長ければ長いほど利殖効果が高いと思いがちですが、長引く低金利で預入期間の長い定期預貯金等でも期待できるような利率が適用されません。投資商品については、価格が値上がりし続けるようなケースであれば、理屈の上では複利効果で大きな利殖を生んでくれるものの、殆どの投資商品は将来の価格変動を予想することができないため、運用期間と利殖効果との相関性はないと考えるべきでしょう。長期で運用・保有するほど投資リスクが低くなるということも的確とはいえず、逆に投資した資産額がどう変化していくのかは遠い将来になればなるほど不確実性を増すものです。

このように考えていくと、貯蓄商品は日常使いのお金の便利な置き場であり、投資商品とは自由に選んで資産を増やせる(かもしれない)という点に帰着します。しかし、どちらも、いつかは使うためのお金であることに変わりはなく、貯蓄や投資自体が目的となるものではありません。とくに投資商品による資産運用を検討する際にはこの点を心掛けておきましょう。

資産運用リスクを低減する3つのポイント

投資商品の適正である利殖性を期待できる点に注目し、いま手元にあるお金の一部を資産運用による方法で育て、将来の老後資金の一助に充てる、というのが多くの方が考える投資商品の利用目的といえるでしょう。そのためには、万一、運用が上手くいかなかった事態に対するリスク低減策を考えておくことが大切です。将来のことは誰にも予測はできませんが、運用を始める時点に自分自身でコントロールできることもあります。

その1つめとして、一度に多額の投資商品を購入せず投資のタイミングを分散すること。いうまでもなく運用の成功とは、配当金等の収益もありますが、基本的にはその商品の買値よりも高い売値で換金することです。ところが、買値のタイミングが高いのか安いのかは判断がつかないため、投資可能なお金を一度にまとめて使うようなことは避け、毎月等の積立投資や、毎年等の小口に分けて投資するのが無難です。家計において投資に回せる額は刻々と変動するものですが、少額ずつの小分け投資であれば大きな問題を抱える事態は軽減できるでしょう。
自分でコントロールできるリスク低減策の2つめは、投資商品にかかる手数料等のコストが安いものを選ぶこと。当然のことながら、同じような運用成果でもコストの多寡によって手残り額は異なり、実際の運用成果に大きく影響するものです。とくに投資信託等においては、売買時だけでなく保有期間中にもコストがかかるので、その期間に比例してコストの多寡による実際のパフォーマンスが大きく変わっていきます。
最後の3つめは、有利な制度を使って資産運用をおこなうこと。例えば、パート等の方だけでなく会社員等の方でも、条件が合えば個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用することができます。この制度では、運用に充てる掛金の全額が、社会保険料等のような所得控除の対象となり、掛金額に比例して所得税・住民税を減らせる効果があります。これだけでも、既に一定の運用成果を約束されているようなものですが、さらに運用期間中には課税の繰り延べ措置があるほか、実際に運用額を受け取る際にも税制上で有利な施策が適用されます。ただし、確定拠出年金制度で選べる投資商品は、基本的に投資信託に限定されるため、投資商品の適正でもある豊富な選択肢を最大限に発揮することはできません。
投資信託だけでなく個別株式を利用したいのであればNISA制度の一部枠も大いに注目できます。この制度は、一般的な資産運用に必須の税金を不問にするのが大きな特徴で、運用益が出た場合や配当金・分配金を受け取る場合でも税金の負担が生じません。逆に、損失が生じている場合の税制上のフォローはないのですが、2024年の新規投資分からは、非課税となる期間が無期限となるほか、投資可能な金額も拡大されることになっています。まずはこうした有利な制度に乗り、投資額に余裕が出てきたところで諸制度では選べなかった商品を検討してみてはいかがでしょうか。

投資商品にはもう1つ別な活用方法も考えられます。それは、嗜好品の購入、家族の外食や旅行などの費用を、投資による運用成果で賄うという方法です。たとえ運用に失敗して投資した資金が減り、計画がダウングレードすることになっても一定の満足感は得られるのであれば、チャレンジしても良いのではないでしょうか。

参考:物価が上がって生活が苦しくなっています。節約以外で家計を見直す効果的な方法はありますか?

貯蓄と投資は、想像するほど境界線があるものではありません。また、老後資金目的の場合にもいえますが、肩肘張るものでもなく、もう少し気軽に行うことが投資を身近に感じることになり、それが積み重なって実践での経験値に繋がるものではないでしょうか。

最後に、将来価値の予測不能な投資商品等での資産運用へ、手持ちのお金のうちどの程度までを割いても問題になりにくいのか、それを長期的かつ包括的に検証するためにキャッシュフロー表で検証することもお勧めします。
キャッシュフロー表とは、現状の家計の収支状況や金融資産に対し、将来の収入推移、および希望するプランの支出推移をもとに、長期的な収支状況の推移に伴う金融資産残高の増減をシミュレーションするもので、いまの手元資金のうち、どの水準額までなら収支の影響を受けても一定額を維持できるのか、つまりは長期的な資産運用に回しても希望するライフプランに影響を受けない額であるのか、その目安を把握することが、ある程度は可能です。
必要事項を自分で入力していくことで、WEB上にて無料で作成できるシミュレーションサービスも昨今では数多くありますので、FP等に有料作成を依頼する前に、まずはそちらを試してみることをお勧めします。


企業型確定拠出年金における運用のポイントは?
新しいNISA制度はどう変わる?これからNISAを始めるタイミングは?
iDeCoのルールが変更になったそうですが、パート主婦の私にも関係あるのでしょうか。

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