夫が長期の海外赴任となります。届け出や社会保障に関することで注意すべきことはありますか?

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今回、回答いただく先生は…
鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール
  • 社会保険の加入に関しては注意が必要です。
  • 非居住者になることで資産運用では制約を受けることがあります。
  • 資産運用の幅を広げるチャンスです。

  松平優香さん(仮名 40歳・専業主婦)のご相談

夫が9月から米国へ長期(5~7年程度)の海外赴任となります。ただ、上の子は中学受験をするつもりでしたので、話し合った結果、単身赴任してもらうことになりました。二重生活となりますが、届け出や社会保障に関することで、何か注意しておくべきことはありますか?

松平優香さん(仮名)のプロフィール

家族構成
本人(40歳・専業主婦)
夫 (38歳・会社員)、手取り800万円
第一子(10歳・小4)
第二子( 5歳・幼稚園年中)
その他
現在、証券会社に夫婦それぞれNISA口座を開設して、いくつかの投資信託や株式などを保有中。

老後の資金に影響する年金とNISAについては要確認。
いずれ使うことを前提にドル預金も検討しては?

1.年金については要注意です。

松平さん、こんにちは。ご主人様の海外赴任が決まり、渡航準備などでお忙しいことと思います。お子様の進路の都合上、二重生活になってしまうとのこと。お寂しいですが、日本での生活を優香さんがしっかり守っていくことでご主人様も安心してお仕事に打ち込めると思います。大変ですが頑張りましょう。

さて、通常、2~3年程度の海外赴任では発生しないような制約も、今回のように長期赴任となると適用されるものもあります。年金がそれにあたります。

ご主人様は会社員ですので、現在は厚生年金に加入されています。海外赴任の際には原則、赴任国の社会保障制度に加入する必要がありますが、そうすると、日本の年金制度と赴任先での二重加入(保険料の二重負担)ということになってしまいます。

そのため、日本はいくつかの国と「社会保障協定」を締結しています。社会保障協定は

  • 保険料の二重負担の防止するため、二国間で調整する。
  • 年金受給資格を取得するために、両国の年金加入期間を通算し、加入期間を満たしやすくする。

ことを目的としており、社会保障協定を発効済みの国に5年以内の赴任であれば、原則日本の厚生年金に引き続き加入し、赴任国の年金制度に加入する必要はありません。
現在、日本は22か国と協定を締結し、うち19か国が発効済みとなっています。

協定発効済み ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア
署名済み未発効 イタリア、中国、スウェーデン

ただし、海外派遣期間が5年を超える場合は、原則として赴任国の社会保障制度に加入し、厚生年金には加入しないこととなっています。ご主人様の場合はこちらに該当します。このことは、ご主人様だけでなく、優香さんにも大きな影響を及ぼします。

というのも、年金制度において、現在優香さんは会社員(2号被保険者)の夫に扶養されている配偶者ということで3号被保険者となっています。
ご主人が厚生年金に加入しない(2号被保険者でなくなる)ということは、優香さんは3号被保険者ではいられなくなるということです。この場合、優香さんは1号被保険者になるため、これまで免除されていた国民年金保険料を納めることになります。これを忘れると優香さんの将来の年金額が減ってしまいますので、くれぐれも忘れないように手続きしましょう。

なお、ご主人様も国民年金に任意加入することができます。任意加入することで日本の年金制度の加入期間および基礎年金部分の年金額に反映されます。(ただし厚生年金ではないため、厚生年金部分の将来の年金額には反映されません)。

もし7年間任意加入する場合、2019年度の保険料水準で検討すると、月額16,410円×12×7=1,378,440円の払込保険料となります。
一方、将来受け取れる老齢基礎年金は、2019年度水準で見てみると、加入期間480月(40年)で年額780,100円ですが、84月(7年)を加入しなかった場合、780,100円×396/480≒643,583円。その差は年額136,517円ですので、約10年でモトが取れる計算です。日本人の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳(2019年簡易生命表より)ということを考えると、任意加入したほうが安心といえるかもしれません。

2.NISA口座については確認が必要です。

また、資産運用の面でも制約を受けることがあります。
現在お二人ともNISA口座を開設し、投資信託などを購入されています。国内に残る優香さんはこのまま何ら制約はありませんが、ご主人様に関しては注意が必要です。

NISAは国内居住者のための少額投資非課税制度です。したがって、従来NISA口座を保有する会社員等が海外赴任等で日本を出国する場合、非居住者という扱いになり、NISA口座で保有している株式や投資信託等は、課税対象の一般口座に払い出さないといけないことになっていました。つまり非課税の恩恵を受けることができなくなるわけです。さらに帰国した後も、再度一般口座からNISA口座に戻すことはできないとされていました。

これが平成31年度の税制改正では、海外赴任等で一時的に非居住者となる場合出国する前日までにNISA口座を開設している金融機関に「継続適用届出書」を提出すれば、非課税口座を継続利用できるようにしました(ただし出国中は新規の買付などはできず、現状を維持するのみ)。

ところが実際は、証券会社ごとにその対応は異なります。つまりそのような対応をしてくれる証券会社がある一方、対応してもらえない場合は、従来どおり一般口座に払い出しをして保有を継続するか、もしくは出国前に売却するといった処理が必要になります。

実は私自身も当然できるものと思っていたのですが、証券会社に問い合わせたところ、対応していないというところもありました。口座開設している証券会社に海外赴任によるNISA口座の継続適用に対応しているかどうかを至急確認していただくと良いでしょう。

3.二重生活をプラスにとらえ、資産運用の幅を広げてみては

単身赴任ということで、優香さんやお子様が米国に旅行することも増えるでしょう。その際、当然米ドルが必要になります。せっかくの機会ですから米ドル預金で外貨投資をしてみてはいかがでしょう。銀行で米ドル建ての外貨預金口座を開設すればすぐに可能です。

為替相場は動くものですから、一度にまとまった額で行うよりは毎月1~2万円ずつ、定期定額で米ドルを購入(口座に預け入れ)していくと良いでしょう。外貨を資産に加えるのは分散投資にもなりますし、為替の動きに敏感になります。また、ドルで使うことを前提としていれば、為替差損益を気にする必要もありません

基本的に世界のマーケットは米国中心で動きます。このような状況であれば、おのずと米国の動きが気になると思いますし、マーケットニュースなどにも興味が出てくるかもしれません。また、米国で暮らすご主人様のリアルな肌感覚も金融・経済を知るのには重要なヒントになるはずです。ぜひ二重生活を前向きに楽しんでいただきたいと思います。


夫が海外で働いています。 年金や住居、保険など、将来の対策を教えてください。
海外赴任で家族と離れて暮らしています。 教育資金がかかる中、どのように老後資金を準備すればよいのでしょう。
将来海外移住を計画しています。移住しても年金はもらえますか? どんな手続きが必要ですか?