将来の相続の心配をしています。妻の税優遇を利用し、財産をすべて妻に相続させれば相続税対策になるでしょうか?


今回、回答いただく先生は…
 
鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール
  • 遺産分割の割合は、相続人全員が承諾すれば、比較的自由に決められます。
  • 相続において配偶者は優遇されますが、留意点も含めて検討すべきでしょう。
  • 今後の状況の変化、制度の変更なども踏まえながら、いろいろな方法を探っていきましょう。

  堀口 和也さん(仮名・58歳・会社員)のご相談

妻と息子2人を持つ会社員です。マイホームや金融資産のほか、祖父からの贈与などもあり、会社員の割には資産が多いほうだと思います。息子たちも社会人となっていますし、私も65歳までは働けるので、今後もまだ貯金の積み上げはできそうです。そのため将来私が亡くなった時の相続税の心配をしています。調べたところ配偶者には相当大きな税の優遇があるようなので、妻に全財産を相続させるという選択肢もあるのかなと考えていますが、そのようなことは可能でしょうか。もし可能であれば、相続税対策としてはそれで良いでしょうか。

堀口 和也さん(仮名)のプロフィール

家族構成
家族 年間収入
本人(58歳・会社員) 手取り800万円
妻(55歳・無職)
長男(27歳・会社員)
次男(25歳・会社員)
一時相続だけでなく、二次相続で相続税を支払うお子様の税負担も考えましょう

1.相続人のどなたかに全財産を相続させることも可能です。

堀口さん、こんにちは。今すぐとは思っていなくても、いつ起こるかわからないのが相続ですよね。確かに相続税の心配をされる場合は、事前に対策を検討しておきたいところでしょう。

最初のご質問である「奥様に全財産を相続させることは可能か」ということですが、これは相続税の有無にかかわらず、「できないことはない」という答えになります。
遺産の分け方については3つ方法があります。
1)指定分割:いわゆる遺言書によって遺産の分け方を指定する。
2)遺産分割協議:法定相続人の話し合いで分け方を決める。
3)法定相続分:民法に規定されている割合。

優先順位は1→2→3の順となります。遺言書は故人の意思ですので最優先されます。もし遺言書がなければ、相続人同士が話し合い、全員承諾すれば分け方を決められます。ちなみに遺言書があった場合でも、相続人全員の合意があれば、遺言書に反する分割をすることもできます。テレビドラマなどでもよく出てくるので耳にしたことがあるかと思いますが、法定相続分というのは遺言書もなく、遺産分割協議でも決まらない場合、最後のよりどころとして民法に定められている割合で分けるもので、実は優先度としては低いのです。

【法定相続分】

ですから、堀口さんが「全財産を妻に相続させる」と遺言書に書くこともできますが、その場合注意が必要なのが「遺留分」という制度です。遺留分というのは、被相続人(堀口さん)の兄弟姉妹を除く法定相続人に対する最低保証のようなもので、今回の場合は、奥様とお子様2人にその権利があります。ちなみに堀口さんが財産を100%相続に回すものとすると、法定相続分は妻:2分の1、子:2分の1子が複数いる場合はさらに按分するので、2人の場合はそれぞれ4分の1ずつ)となりますが、ちなみに遺留分は、相続人全体に対して2分の1。さらに各相続人個別の遺留分は全体の遺留分に各人の法定相続分を乗じた分なので、妻:4分の1(2分の1×2分の1)、子:8分の1ずつ(2分の1×2分の1×2分の1)となります。

【遺留分】

奥様に全財産を相続させるということは、すなわちお子様たちの遺留分を侵害することになるため、お子様が遺留分侵害額の請求をした場合は、奥様はそれに応じる必要があります。もちろんお子様たちがそれでかまわないと承諾されるのであれば、全財産を奥様に相続させることは可能です。同様に遺産分割協議で決める場合でも、お子様たちが全財産をお母様が相続することに異議がなければ、奥様に全財産を差し上げることは可能です。

2.相続税に関する配偶者の特例は、手厚いけれど要注意です。

次に「相続税の心配」の見極めは、ご資産が基礎控除を超えているかどうかです。相続における基礎控除は「3,000万円+600万円×相続人の数」です。堀口さんの場合は奥様とお子様2人が相続人ですので、基礎控除は4,800万円ということになり、それ以上の相続財産があれば相続税がかかる可能性もあります。

堀口さんがおっしゃるように、相続において、被相続人の配偶者の相続財産が1億6千万円までは非課税になる「相続税の配偶者税額軽減の特例」というものがあります。もし堀口さんの相続財産が1億6千万円の範囲内であれば、全財産を奥様に相続させ、相続税が全くかからずに済む可能性もありますが。この特例の利用は安易に考えないでいただきたいのです。

堀口さんの財産は堀口さんの相続が発生した時に法定相続人に継承されますが、さらに将来奥様が亡くなられた時には再び相続が発生します。これを二次相続といいます。この時の法定相続人はお子様2人となり、堀口さんの相続時(一時相続)よりも基礎控除が少なくなります(基礎控除=3,000万円+600万円×2=4,200万円)。

【二次相続】

さらに今度は配偶者がいませんので、相続税を非課税にさせるほどの軽減特例はありません。一時相続から相続財産が大きく減少していれば別ですが、そうでなければ逆にお子様たちの相続税負担が重くなるおそれもあります。数字を使って確認してみましょう。仮に、遺産総額を1億5000万円としてシミュレーションしてみます。

相続税の計算は以下のステップで算出していきます。

ステップ1

各人の課税価格を合計し、基礎控除を差し引き、課税遺産総額を算出する。
※例では法定相続分で相続するものとします。

妻:1億5千万円×1/2=7,500万円
子1人あたり:1億5千万円×1/2×1/2=3,750万円

課税遺産総額

=(7,500万円+3,750万円+3,750万円)-(3,000万円+600万円×3)
=1億5千万円-4,800万円=1億200万円

ステップ2

法定相続分に応じた取得額で各人の相続税(税率は下表参照)から相続税総額を算出します。

 妻:1億200万円×1/2 → 5,100万円×30%-700万円=830万円
子1人あたり:1億200万円×1/2×1/2 → 2,550万円×15%-50万円=332.5万円
相続税総額=830万円+332.5万円+332.5万円=1,495万円

ステップ3

各人の取得割合に応じた相続税を算出します。

  1. ①妻がすべて相続した場合
    1億5千万円<1億6千万円
    相続税総額=0円
  2. ②配偶者と子が法定相続分で相続した場合の各人の相続税
    妻:0円
    子1人あたり:332.5万円
    相続税総額:665万円

<配偶者(母)が亡くなった二次相続>

※母が一時相続で得た相続財産をそのまま引き継ぐとします。

  1. 配偶者(母)がすべて相続していた場合の子1人あたりの相続税額
    課税相続財産=1億5千万円-基礎控除4,200万円=1億800万円
    子1人あたり:1億800万円×1/2 → 5,400万円×30%-700万円=920万円
    相続税総額=920万円×2=1,840万円
  2. ②一時相続で法定相続分どおりに相続していた場合の子1人あたりの相続税
    子1人あたりの課税相続財産:(7,500万円-4,200万円)×1/2=1,650万円
    子1人あたりの相続税額=1,650万円×15%-50万円=197.5万円
    相続税総額=197.5万円×2=395万円
    (相続税率)
    法的相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
    1,000万円以下 10%
    3,000万円以下 15% 50万円
    5,000万円以下 20% 200万円
    1億円以下 30% 700万円

一時相続の相続税と二次相続の相続税を合計すると、
①配偶者が全財産を相続した場合:0円+1,840万円=1,840万円
②一時相続も法定相続分どおりに相続した場合:665万円+395万円=1,060万円
となります。いずれの場合でも配偶者の相続税は0円ですが、お子様が負担する相続税は一時相続でお子様にも相続させた場合の方が総額は780万円も少なく済みます。

このように、相続財産は代々承継されることを思うと、目先の損得だけでなく長い目で見ることも肝要です。さらに、堀口さんの相続のタイミングも、更には二次相続のタイミングもいつになるのかはわかりません(間を置かず1~2年後かもしれません)。お子様にとっては目先の節税より、いつになるかわからない二次相続まで待たず、それぞれのライフイベントで教育や住宅購入資金など、「今」現金が欲しいという時期であれば多少の相続税を払っても使えるお金が欲しいかもしれません。

3.他の特例適用の可能性も探っていきましょう。

今回は「相続税の配偶者税額軽減の特例」を適用することについて検討したわけですが、相続における特例はこれだけではありません。一時相続でマイホームを奥様が相続すれば、「小規模宅地等の評価減の特例」を使えるかもしれませんし、今後お子様たちが新しい家庭を作ってお孫さんができれば、(その頃の税制にもよりますが)何らかの贈与の非課税制度があるかもしれません。

もちろん、相続財産を減らすために無計画に生前贈与を行うことはお勧めしませんし、とにかく少しでも税金を減らしたいということだけに囚われすぎると、無理のある資産委譲になりかねません。また、相続・贈与に関して税制改正が無いとは言い切れませんので、今から決めつけずにいろいろな方向性も探っていくと良いでしょう。


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