郊外で戸建てに住む両親が相続の心配を始めました。 贈与による相続対策は有効でしょうか?

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今回、回答いただく先生は…

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • そもそも相続対策が必要であるのかどうかの確認を!
  • 贈与をしてくれる親等のライフプランを第一優先に!
  • 贈与を検討する際は、効果や目的を検証し、有利な贈与者から行う

  永野泰子さん(48歳 仮名)のご相談

最近、別居の私の実の親が相続税を心配して贈与を検討しています。親も私も相続税や贈与税にそれほど詳しくないのですが、贈与による相続対策はどういう場合に有効なのでしょうか?

永野泰子さんのプロフィール

家族構成
家族 年間収入 現在の貯蓄額
本人
48歳
280万円
(会社員)
900万円

50歳
420万円
(会社員)
長男
20歳

学生
実父
78歳
・夫婦だけで持ち家(戸建て)に2人暮らし(泰子さん家族と別居)
・年金収入
・主な財産は自宅の他は預貯金等の金融資産
実母
75歳
実妹
45歳
・泰子さん家族や両親と別居
・夫と子ども2人の4人暮らし

※夫の親や兄弟は、今回は考慮せず

自宅の相続は評価額が低く抑えられるなどで基礎控除枠に納まる場合もあるので、
贈与を検討する場合は、その効果や目的をよく考えてから実行しましょう

贈与による相続対策は不要な場合も?!

永野さん、ご相談ありがとうございます。
相続税に関する税制改正がたびたびあり、最近は税金の負担に不安を感じる方も少なくはないようですね。確かに贈与は将来の相続に備えて講じておく対策の1つですが、効果の有無や程度は様々です。相続も贈与も法律に規定されているので実際にはとても複雑ですが、まずは要所を押さえていきましょう。

相続税とは?
亡くなった人(被相続人)の遺産を相続した人が、取得した遺産の応分に負担する税金

  • 遺産の種類により相続税の課税対象となる評価方法が異なります
    ※例えば、不動産は一般的に売買実勢価額より低い評価金額となり、かつ、自宅の宅地を所定の相続人が相続する場合は、さらにその2割(8割引き)で評価する等の軽減特例を適用可能
  • 誰でも遺産を相続することは可能ですが、“法定相続人”以外が負担する相続税は2割増しとなります
  • 「3,000万円+法定相続人の数×600万円」の“遺産に係る基礎控除額”を課税対象となる財産から差し引けるので、相続税の課税対象財産の評価額がこの控除額以下であれば、相続税はかかりません
  • 遺産に係る基礎控除額を超える課税対象財産がある場合でも、相続人ごとに軽減措置や控除制度等があるため、結果的に相続税の納税額がゼロになる場合もあります

贈与税とは?
財産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との合意により、受贈者が負担する税金

  • 基本的に贈与税は、相続税逃れを防ぐための補完的制度のため、税率は相続税より高めに設定されています
  • 原則、受贈者1人当たり年間110万円の“基礎控除額”を超える金額が課税対象となります(暦年贈与)
    ※別途、暦年贈与の代わりに、通算2,500万円までの贈与を相続時まで繰り延べる相続時精算課税制度を贈与者ごとに選択させることも可能ですが、贈与時の価額が相続税の課税対象となるなど制度が複雑で、実際に活用されているケースが少ないため、詳細は割愛します。
  • 各種“贈与税の特例”を適用できる場合は、各々の非課税金額が“基礎控除額”に加算できます

いかがでしょうか?
相続税の計算では、“遺産に係る基礎控除額”を差し引けますし、多くの家庭で遺産の大半を占める自宅不動産の相続税評価は、上述のとおりそれほど高額にならない場合もあります。
もし、そもそも相続税がかからないのであれば、わざわざ節税対策で贈与を検討する必要はないですね。

贈与が有効な3つの場合

贈与とは、生前に、渡したい相手を指定し、その相手に有益な財産移転できることがメリットです。次のような場合には、そのメリットを活かし、贈与が有効な手段になることもあります。

  1. 相続税負担が深刻になると思われる場合
    泰子さんのお父様の相続の場合、法定相続人は配偶者(お母様)と子(泰子さんと妹)の3名なので、相続税の計算における“遺産に係る基礎控除額”は、4,800万円(3,000万円+3名×600万円)です。
    相続財産がこの額より多いと見込まれるのなら、生前贈与で財産を減らしておくことも一考です。
    また、相続対策において深刻になるのは2次相続時といわれています。
    仮にお父様が亡くなられた後のお母さまの相続(2次相続)では法定相続人が1名減っている状態です。“遺産に係る基礎控除”の金額が1名分減額されるのに加えて、相続税の算出において何かと恩恵の大きな、被相続人の配偶者に対する特例措置を適用できず、結果として多額の相続税が生じる場合もあり得ます。
    例)課税価格の合計額が1億円、配偶者と子1人が相続人の場合
    ※実際の相続税の納税額が遺産分割の方法によりどのように変わるかを示す事例であり、永野さんのご相談のケースとは異なる架空の事例でのご説明となります。
  2. 遺産分割で揉めると思われる場合
    財産が多くなくても、また相続税の心配がなくても、遺産の公平な分割が難しい場合には注意が必要です。例えば、遺産が自宅と預貯金だけの場合でも、相続人間で揉めるケースは、実は少なくないようです。
    「贈与した代わりに相続では了承してね」という趣旨を生前に伝えていたり遺言を残していたりしても、厳密には対策として完全ではありませんが、それでも何もしないよりは有効となるかもしれません。
  3. 贈与をする相手のライフプランに役立つ場合
    相続対策といった節税云々よりも、家族の生活に役立てると見込まれる場合には贈与は有効です。
    ご家族の結婚や住宅取得、子育てにかかるお金などを援助することで、そのご家族のライフプランにとって有益であるのならば、活きたお金の使い方ができると思われます。こうした場合には、「住宅取得等資金の贈与」、「結婚・子育て資金の贈与」、「教育資金等の贈与」などの各種非課税措置が設けられていますので、要件を満たすのなら、特例制度を活用するのが良いでしょう。

もし贈与を検討する場合でも、優先順位が大切です!

それでは、贈与を検討する場合、家族の誰に贈与するのが良いでしょうか。
答えは、相続で有利な順位の、逆から考えるのが1つのポイントです。
つまり、最優先は孫、次に子、最後に配偶者とします。
相続において、法定相続人となる最優先順位は被相続人の配偶者と子です。さらに配偶者は相続税の優遇措置や遺産分割の優位性等において、一番手厚い恩恵を受けられます。ですが、2次相続時に相続税の負担で困らないためにも、必要な金額を超える財産を安易に配偶者へ移転させないのが賢明といえるでしょう。

こうした財産配分は、相続時に子の取得する分を多くすれば十分な場合もありますが、どうせ贈与を検討しているのなら、相続のもっと前から実行しておけば安心ですね。よって、贈与は、配偶者より子を優先するのが無難。さらに、本来は相続人にはならない孫を、子よりも優先しておこなえば、相続税の課税を1世代飛び越える効果も期待できます。単純に、相続の起きる時期や回数から考えても、この順番が妥当といえますね。
もし、泰子さんのご両親が贈与を検討されるなら、その相手は、泰子さんや妹さんのお子さんを優先するのが良いといえるでしょう。

※ただし、贈与はいつでも誰にでも自由におこなえるのが利点ですが、贈与をした相手が相続で財産を受け取ってしまうと、その3年以内の贈与が相続税算出の持ち戻し対象になり、法定相続人以外が受け取る相続財産には相続税額が2割増になる点には注意する必要があります。

最後に、ご両親の資産を贈与することは、ご両親の今後の生活費を減らすことに繋がります。今後は、長生きのリスクにより、老後生活資金の確保が何より大切でしょう。子や孫への贈与や相続対策を煽る情報等に惑わされず、何よりも優先すべきは、ご両親のライフプランといえます。