加入している個人年金保険に贈与税が課税されるといわれました。見直しは必要でしょうか?


今回、回答いただく先生は…
井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール
  • 生命保険も損害保険も基本的に非課税ですが、一部例外のものは課税対象となります。
  • 課税対象となるものは所得税・相続税・贈与税のいずれかの対象ですが、贈与税は税額が高くなりがちです。
  • 贈与税の課税対象となる契約については、早めの検討が大切です。

  桐野 和人さん(50歳 仮名)のご相談

このたび保険の見直しをしようと加入している契約内容を確認してもらったところ、10年前に加入した個人年金保険には贈与税がかかるといわれました。
契約の見直しをするのが良いでしょうか?その場合、どのように見直すのが良いのでしょうか?

相談対象の保険契約

保険商品 個人年金保険(10年確定年金)
※個人年金保険料税制適格特約付き
契約日 2011年9月1日(妻40歳時)
保険料払込期間 2036年まで(妻65歳時まで)
年金受取期間 2036年から10年間(妻65歳時~)
契約形態 契約者(保険料負担者):和人さん(夫)
被保険者:直美さん(妻)
年金受取人:直美さん(妻)
死亡給付金受取人:和人さん(夫)
保険料 月払い保険料3万円(年間36万円)
年金額 93万円(×10年間=930万円)
※65歳時に一括受取に変更する場合:910万円

桐野 和人さん(仮名)のプロフィール

家族構成
家族 職業等 年収
本人:和人さん(51歳) 会社員 約920万円
妻 :直美さん(50歳) パート 約90万円
※今後はフルタイム勤務に戻ることも検討中
長女:明日香さん(16歳) 高校生

贈与税の課税対象契約をなかったことにすることはできませんが、負担税額を減らすことはできます。

桐野さん、ご相談ありがとうございます。
保険商品にかかる税金はとても複雑なので、理解するのはなかなか大変です。
さて、ご相談の個人年金保険ですが、残念ながら贈与税の課税対象となってしまいます。どのような経緯で加入に至ったのかはわかりませんが、以前によく見受けられた注意の必要な契約形態です。見直しは早ければ早いほど有利ですので、以下の考え方に沿って、早々に検討してみてください。

保険商品にかかる税金の基礎知識

理解を深めていただくために、保険にかかる税金についてなるべく簡単にご説明いたします。とっつきにくいかもしれませんが、知っておくと役に立つ知識です。

まず、基本的に、保険商品は経済的に困った際に保険金等が支払われるものなので、社会的な配慮から、個人が受け取る場合は一部例外を除き、殆どが非課税です。つまり、契約形態に関わらず税金は発生しません。例えば、医療保険やガン保険、介護保険、就業不能保険等々の各種保険金や給付金、生前に受け取る高度障害保険金など多くの保険金等が該当します。火災保険、自動車保険、傷害保険等の損害保険商品も同じです。では、一部例外は何か? それは死亡保険金と貯蓄商品に類似する保険金等(満期保険金、年金、解約返戻金)だけです。逆にいえば、死亡保険金、満期保険金、年金、解約返戻金以外は、受け取っても非課税です。

次に、この課税対象となる保険金等にどのような税金がかかるのかは、下表のとおり、保険契約における当事者の関係によって変わってきます。まずは保険契約の当事者についてご説明します。

◯保険契約の当事者

契約者 保険会社と契約をする人で契約に関わる権利や義務のある人
一般的に、契約者が保険料負担者として保険料の支払いをする
被保険者 保険金等の支払い事由の対象となる人
死亡保険の場合  :被保険者が死亡すると保険金が支払われる(契約は終了)
医療保険等の場合 :被保険者が所定の病気やケガを負うと給付金が支払われる
個人年金保険の場合:被保険者が年金受取開始の時に生存し、その後も生きている時に年金が
支払われる、受取中に死亡した場合は年金種類により対応が異なる
年金受取開始前に死亡すると死亡給付金が支払われる(契約は終了)
受取人 被保険者が保険金支払事由に該当した場合に保険金や給付金等を受け取る人

※医療保険・ガン保険・介護保険・就業不能保険等々の生前保障保険は被保険者が受取人となるのが一般的

つまり、契約者とは保険会社にお金を払う人、受取人とは保険会社からお金をもらう人です。誰が負担したお金で誰がお金を得るのかで、次のように課税関係が変わります。

契約者 受取人 課税関係
A A 所得税・住民税
A B 相続税または贈与税

上記の①の契約形態は、Aが受け取る保険金等はA自身で保険料を負担していました。ですので、この保険金等は所得税・住民税の課税対象となります。一方、②の契約形態は、Bが受け取る保険金等はAが保険料を負担していたものなので、AからBへの相続または贈与とみなされます。この場合、Bが保険金等を受け取った理由がAの死亡による場合(Aが被保険者でもある死亡保険の場合など)は相続税の対象となり、そうでない場合は贈与税の対象となります。

桐野さんの個人年金保険契約は、奥さまの直美さんが65歳になると貯蓄商品と類似する年金が開始される契約であり、契約者が和人さん、年金受取人が直美さんなので、和人さんから直美さんへの贈与とみなされます。なお、年金受取開始前に直美さんが亡くなった場合、死亡給付金受取人である和人さんが受け取る死亡給付金は、受け取った年の和人さんの所得税・住民税の課税対象となります。
また、この契約は確定年金(被保険者の生死に関係なく年金受取が保証されるもの)なので、万一、年金受取期間の途中で直美さんが亡くなられても、すぐに契約は終了せず、残りの年金受取期間分も年金が支払われます(年金現価を一括受取することも可能です)。

個人年金保険料控除の対象となる個人年金保険の見直し方法はひとつ

さらに、この個人年金保険契約は、以下の要件を満たしていますので、「個人年金保険料税制適格特約」が付帯されており、年間支払保険料のうち、一般の生命保険商品の枠とは別に個人年金保険料控除として5万円が生命保険料控除の対象になっています。このような契約形態にされた背景には、保険料は収入のある和人さんが負担するのだからという理由、それに和人さんの給与に対する税金を少しでも安くする理由もあったのでしょう。

◯個人年金保険料控除の適用要件

  1. ① 年金種類が終身年金、または60歳以後に10年以上の受取期間のある確定年金等
  2. ② 保険料を10年以上に定額で支払う
  3. ③ 被保険者が年金受取人と同一人
  4. ④ 契約者が年金受取人と同一人か配偶者関係にあること

ところで、個人年金保険料税制適格特約が付帯された個人年金保険は、年金受取人を変更することはできません。これは上記要件のうち③を満たさなくなるためです(個人年金保険料税制適格特約だけを外すことはできません)。もちろん、個人年金保険に限らず保険商品では被保険者の変更はできません。したがって、契約当事者の名義変更による見直しとして、契約者を和人さんから直美さんに変更する以外の方法はありません。この際に留意点が2点あります。

1点目は、新契約者となる直美さんが保険料を負担していくこと。具体的に、保険料引き落としのための預貯金口座やクレジットカードを直美さん名義のものに変更することです。これをしないと、契約者を変更しても実質的な保険料負担者は和人さんのままとみなされてしまうためです。この際に、保険料相当額を和人さんから直美さんに贈与していく方法を併用することも考えられますが、同じ家計の中でのやりくりでしょうから、そこまで神経質になる必要はないでしょう。とにかく契約者が保険料を実際に負担しているという証を残すことが重要です。
2点目は、名義変更後の個人年金保険料控除の適用が和人さんから直美さんに移ることです。現状、所得税の負担のない直美さんに個人年金保険料控除が適用されても、所得控除によって税金が安くなる恩恵はありません。今後は直美さんの収入増加を検討されておられるようですが、所得控除の効果は、「所得控除後の課税所得×実質所得税率」に比例し、かつ、その所得税率は高所得であるほど高い税率である関係から、いずれにしても、契約者を変更することで節税へのインパクトは薄くならざるを得ないでしょう。

贈与税の課税を懸念する場合は早めに手を打ちましょう

とはいえ、贈与税の負担額は想像以上に大きいものです。
個人年金保険の契約で贈与税の課税対象となる金額は、年金受取が開始する時の、その年金受取に関する権利評価額です。厳密には3パターン(一括受取額、解約返戻金相当額、年金額から逆算した一時金相当額)の価額を計算し一番高い額が適用され一括課税されます。今回は年金受取開始時に年金を一括受取する場合の一時金の価額(910万円)を一例に試算します。
贈与税の計算では、年間の基礎控除額110万円が認められていますので、実際の贈与税額は対象となる金額から基礎控除額を引いた額に所定の税率等を加味して計算します。
これを具体的に計算したのが以下です。負担する贈与税は195万円に及ぶことが想定されます。

  • 贈与税の対象となる金額(910万円)−基礎控除額(110万円)=課税価額(800万円)
  • 課税価額(800万円)に対する贈与税額=約195万円

ただし、これは今の契約を年金受取開始時まで放置していた場合です。もし、途中で契約者変更をしても、それまでの贈与税対象分は免れませんが、変更後分は軽減できます。以下は、契約上の保険料払込期間25年に対し、契約後10年経過時点で契約者変更をした場合の試算です。
桐野さんのケースでは、実際の贈与税の発生は免れませんが、かなり軽減させることが可能となります。

  • 贈与税の対象となる金額(910万円×0.4※=364万円)−基礎控除額(110万円)=課税価額(254万円)
    ※贈与税の対象となる保険料払込期間10年÷総保険料払込期間25年=0.4
  • 課税価額(254万円)に対する贈与税額=約28万円

上記はあくまでも概算額ですので、実際の税額の計算は税理士等か保険会社に試算を依頼してください。ですが、ポイントは、贈与税の対象となる金額は保険料支払総額に対する贈与税対象保険料の割合に応じて変わるということ。そして、贈与税額は課税価額に比例して税率も高くなるということです。つまり、贈与税の課税対象となる契約形態を放置すればするほど、税金の額が肥大化するのです。
また、厳密には、先述した生命保険料控除による税効果と比較検証する必要はありますが、贈与税の税率は相対的に高いので、現状の契約者がよほど高所得者でない限り、贈与税負担の方が重くなり、早期の契約者変更が無難と考えます。
ちなみに贈与税が課税されるのは、契約時や名義変更時等ではありません。年金受取開始時という、待ちに待った一番嬉しい時に、その年金受取権利に対し過去の保険料負担履歴を調べられた上で決定されます。
手を打つならば早ければ早いほど有利でしょう。


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