自転車保険の加入が義務化されたと聞きました。自転車保険は家族全員に必要なのでしょうか?


今回、回答いただく先生は…
 
井上 信一先生(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 経済的ダメージを負うリスクから考えると、自転車保険は家族全員必要です
  • 単体の自転車保険でなく、リスクに応じて個別の保険で備えていく方法もあります
  • 補償(保障)の空白を生まないように注意しましょう

  加藤 夏美さん(40歳 仮名)のご相談

住んでいる地域で自転車保険への加入が義務になっていると知り驚いています。
確かに交通事故は怖いと思いますが、強制加入の自賠責保険や自動車保険に加入している夫や、未成年の子も、自転車保険は必要なのでしょうか?
また、自転車保険を選ぶとしたら、どのような点を考慮すれば良いのでしょうか。

加藤 夏美さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成 日常的に使用している乗り物など
本人(40歳) 会社員 自転車(電動アシスト付き自転車)
夫(42歳) 会社員 乗用車、原付(原動機付き自転車)
長男(10歳) 小学生 自転車(マウンテンバイク)、スケボー(遊具)
長女(5歳) 未就学 キックボード(遊具)

最も注意したいのは損害賠償リスクです。家族全員が生涯に渡る補償を備えられるよう保険の加入を工夫しましょう。

自転車保険の義務化の流れ

加藤さん、ご相談ありがとうございます。確かに、自転車保険の加入義務化が進んでいます。
厳密には、これは都道府県等の自治体が定める条例によるもので、現在のところ明確な罰則規定はありません。また、条例のない都道府県も僅かに存在はします。しかし、2015年から始まった義務化の流れは年単位ペースで各自治体へ広がっており、2023年4月1日時点では、32都府県で条例による自転車保険への加入を義務化、10道県で努力義務化する条例が制定されています。また、その必要性を受けてか、府県等に先行し、政令指定都市単位で義務化をしてきたケースもあります。ゆくゆくは全国一律で何らかの規制・規則が作られ、違反した場合の罰則規定も設けられるかもしれません。

参照(2023年5月23日時点):国土交通省 自転車損害賠償責任保険等への加入促進について

さて、自転車保険加入の義務化が広がっている背景ですが、2000年代になってから、自転車事故による損害賠償額が数千万円~1億円弱といった高額請求の判決事例が相次いでいることが理由とされています。自転車による交通事故は以前からも数多く存在していたものと思われますが、近年の健康ブームで自転車の社会的ニーズが高まっていることや、相応のスピードが出るスポーツサイクルや電動アシスト付き自転車、重量があり衝突時の衝撃が大きいマウンテンバイクなど、多種多様な自転車が一般道路で走行するようになっていることも無関係ではないと考えられます。

懸念すべきは家計を根底から崩すリスク

自転車事故のシーンとしては、「自転車 対 歩行者」、「自転車 対 自転車」、「自転車 対 自動車」、「自転車単独」等のケースが考えられます。まずは、事故が起きた際に、家計がどのような経済的ダメージを被るのかを整理し、次にそうした各々のリスクに対応する保険を考えていくのが、加入のムダやモレを防ぐ合理的な手順です。ライフプランを考える上で、想定外の事態で起こり得るリスクに対する備えも同時に考えることが大切です。
自転車に限らず自動車や乗り物等での事故で考えられる経済的ダメージは、以下の3つのリスクに大別することができます。

  1. 損害賠償リスク:他人に対して負う対人・対物損害賠償責任の費用の発生
  2. 死亡・高度障害、介護・医療費用リスク:家族の収入途絶や収入減少、介護・治療費用の発生
  3. 資産損害・追加費用リスク:代替車両の購入費、修理費、事故時の付帯費用等の発生

このうち、最も甚大かつ家計を根底から破綻させるインパクトのあるダメージは、自分や家族が加害者(または一定の有過失責任)となることで被害者に負う、①の法律上の損害賠償リスクです。
例えば、小学生の子どもが自転車の運転中に歩行者に衝突し、その親が9,000万円を超える損害賠償金の支払いを命じられた、といった判決事例も既にあります。ある日、ほんの不注意で住宅ローンを遥かに超える賠償金の支払いが生じたとしたら・・・、そこからの家計再建は気の遠くなるほど厳しい事態といえるでしょう。

実は、義務化となる自転車保険とは、自転車損害賠償責任保険等とも呼ばれる対人・対物損害賠償を補償する保険です。まずは、家族全員がこのリスクに対する備えを持っておく必要があります。
ただし、同様の補償をする保険に既に加入していれば追加で加入する必要はありません。逆に、同様の補償をする保険に重複加入しても保険金が各々で支払われることはないので無駄になります。また、対人・対物の損害賠償責任は、乗り物の運転による以外にも日常生活のあらゆる場面で生じる可能性があるので、幅広い事故を補償する必要があります。これに備える、1つの保険契約で家族全員の日常生活上の損害賠償責任をカバーしてくれるのが『個人賠償責任保険』です。
ちなみに個人賠償責任保険では、乗用車や原付での事故は対象外(自賠責保険や自動車保険の対象)なので、自動車保険とは別に加入しなければなりません。その代わり、もっぱら自力走行がメインで免許証不要の自転車等の乗り物(電動アシスト付き自転車、スケボー、キックボード等)での事故は対象とされています。

次に、家族の心身に降りかかる②の死亡・高度障害、介護・医療費用リスクについてですが、当然のこと、病気や、自転車事故以外のケガが原因となることもあります。よって、家計の生計維持者やその配偶者を対象とする『生命保険(終身保険や定期保険等)』、『所得補償保険や就業不能保険』、『介護保険』、『医療保険』等に加入していれば、改めて追加する必要性は高くありません。ただし、入院や手術を伴わないケガやお子さんの補償までを備えたい場合は、損保分野の『傷害保険』の追加加入を検討することになります。

最後に、③の資産損害・追加費用リスクはダメージが少額で済むことも多いので、必要に応じて検討すれば事足りるでしょう。しかし、実際に事故を起こすと相手側との賠償額の決定など、和解するまでの手間は想像以上にかかるもの。昨今の『個人賠償責任保険』では、相手との示談交渉サービスを付帯するものが一般的ですが、こちらの過失責任が全くない一方的な被害者の場合は、相手に補償すべき賠償金が生じないため、保険会社は動いてはくれません。そうした際に、代わりに働いてもらう弁護士等に支払う報酬を補償する『弁護士費用保険』等で備えれば、資金的に心強いかもしれません。

補償(保障)の空白を生まないことが何より大切

保険の必要性を家計が被るリスクから整理すると、自転車による事故だけを想定すべきではないことがよくわかります。また、この備えは家族全員に必要であることも理解できるでしょう。
自転車保険の加入義務化を受け、保険会社各社からは実に多様な保険商品が販売されています。多くは各種保険商品(個人賠償責任保険と傷害保険、商品によってはさらに付帯費用保険等)を組み合わせ、自転車保険としてパッケージ化した商品です。また、自治体によっては交通災害共済(損害賠償補償はナシ)や、公益財団法人 日本交通管理技術協会のTSマーク(自転車向け保険)、一般財団法人 全日本交通安全協会の自転車会員保険などを推奨する場合もあります。家族の全員が対象となるような自転車保険に加入すれば、先述した3つのリスクを1つの保険で分かりやすくカバーすることも可能です。
ただし、中には傷害等の補償や付帯費用等の補償を自転車事故に限定する保険もあるので注意が必要です。また、日常生活における損害賠償リスクへの備えは生涯に渡って必要なため、自転車保険の更新を怠ったり自転車に乗らなくなったから辞めたりして、補償の空白を生んでしまうことは絶対に避けねばなりません。

リスクに応じて個別の保険や特約で準備、あるいは既加入保険の補償範囲の見直し等で備える方法もあります。個人賠償責任保険は、昨今では自動車保険や傷害保険などの他の保険に特約で付帯(一部ではクレジットカードにも自動付帯)するのが一般的ですが、家族のライフスタイルが変わっても生涯に渡り契約を継続する可能性の高い火災保険等に追加しておけば安心です。
また、お子様の自転車事故以外でのケガの補償が心配なら家族全員を対象とする家族傷害保険等に加入するか、自動車保険(人身傷害保険)の補償範囲を家族全員に広げ、自動車乗車中以外の事故も対象とすることで対応も可能です。商品によっては、弁護士費用等の付帯費用についても、日常生活全般に補償範囲を広げて自動車保険に付帯できるものや、火災保険などに付帯できる場合もあります。

リスクに対する備えとしては、保険による経済的ダメージへの補償だけでなく、その予防も大切です。
また、一般的に、個人賠償責任保険は被害者保護の観点から、重大な過失による事故も補償対象となりますが、その他の、例えば自身や家族のケガ、車両等の破損、付帯費用等は、重過失の場合は補償されません。
道路交通法では自転車は軽車両と扱われています。信号無視や歩道の走行などの法令違反とならないよう、日頃から家族全員で安全運転の確認をしておくことが大切です。もちろん、ケガから体を守るためにも、努力義務化されたヘルメットの着用も検討したいですね。


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