医療費を申告すると、税金が少なくなりますか? 投資信託の損失はどうですか?


医療費を申告すると、税金が少なくなりますか?
投資信託の損失はどうですか?

村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール
  • 会社員・公務員でも確定申告をするとよいケースがあります。
  • 医療費が10万円以上かかったら、確定申告で所得税が戻ります。
  • 株式・投資信託の損失は、投資信託の分配金・株式の配当とだけ相殺できます。

細川 佳彦さん(仮名 48歳 会社員)のご相談

今年、実家の母親が入院し、負担した治療費が32万円かかりました。医療費の領収書を取っておくと税金が戻ってくるといいますが、どのようにすればよいでしょうか。
また、治療費を捻出するために、以前に銀行で勧められて買った投資信託を売却しました。6万円の損失となりましたが、この分は税金が戻ってくるのでしょうか。
会社員のため、今まで確定申告もしたことなく、税金については関心がありませんでした。

細川 佳彦さん(仮名 48歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : ご本人 48歳 会社員 年収500万円
妻    45歳 パート 年収100万円
長男   15歳 中学生
※実家の母親 73歳

10万円を超えた医療費は、確定申告をすると所得税が還付されます。
投資信託は税金の還付はありません。

1.医療費が年間10万円以上になると、所得税の還付が受けられます。

税金の徴収は、政策的な意味からいろいろな仕組みが設けられています。税金は1年間の所得に対してかかるのですが、どこまでを所得とし、どの部分を所得から除くのかが細かく決められています。自営業者などは翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告をして、納税をします。会社員や公務員のように給与をもらっている人は、年末に勤務先で細かい計算(年末調整)をしてくれますので、翌年に確定申告をする必要はありません。しかし、場合によっては確定申告をすることで税金の金額を減らし、既に支払った分を戻すことができます。これを怠ると、取り戻せたお金をみすみす失うことになりかねません。年末の今の時期には、該当するものがないか確認してみましょう。

給与所得者(給与をもらっている会社員や公務員など)が確定申告をするとお得になる代表的なものが、「医療費控除」の申告です。1年間に支払った医療費のうち、10万円を超えた金額の分だけ、所得を減らすことができる制度です。所得を減らすと、国へ納める所得税が少なくなります。所得税は給料から源泉徴収されていますので、引かれ過ぎた分は、確定申告をすることで戻してもらえるのです。
例えば、1年間にかかった医療費が30万円であれば、10万円を超える金額、つまり20万円を所得から差し引くことができます。年間の給料が500万円とすると、サラリーマンの必要経費である給与所得控除などを引き、所得税の税率は概ね5%程度です。ということは20万円×5%=1万円、税金が安くなります。20万円が戻ってくるわけではありませんが、それでも手続きをするだけで1万円を手にすることができるとなると、やる価値はありますね。

医療費控除の分、税金が少なくなる

都道府県や市区町村に納める住民税は10%なので、2万円違ってきます。税金は翌年にかかりますので、戻ってくることはありませんが、引かれる金額が少なくなります。
制度の詳細を見てみましょう。給与所得控除を引いた総所得が200万円に満たない場合は、10万円の代わりに「総所得×5%」の金額とします。夫婦共稼ぎの場合は、総所得の多い方に適用したほうが得になります。医療費の対象になる人は、「生計を一にする配偶者や親族」となっており、親の生活費のほとんどを仕送りをしている場合も含まれます。
対象となる医療費は1月1日から12月31日までの間に支払った医療費です。ただし、健康保険の高額療養費や生命保険などの保険金が出た分は差し引きます。出産費用も対象になりますが、出産育児一時金・家族出産育児一時金の分は差し引きます。ちなみに、200万円が上限となっています。医療費の範囲は細かく決まっており、不明な場合は税務署への確認が必要ですが、下記の表を参考にしてください。

医療費控除の対象

医療費控除の対象となるもの 対象とならないもの
治療は前年だが、今年支払った医療費 治療は今年だが、来年支払う医療費
虫歯の治療費 美容整形
レーシック手術 眼鏡の購入費
風邪薬 ビタミン剤
通院のための交通費 通院のための自家用車のガソリン代
電車やバス利用が困難な場合のタクシー代 自家用車で通院した場合の駐車場代
疾病を発見し、治療した場合の健康診断 疾病の見つからなかった健康診断
介護保険の施設・居宅サービスの自己負担額

手続きとしては、まず医療費などにかかった領収書を保管しておく必要があります。確定申告の際に添付して提出する必要があるからです。よく「病院の領収書を保管しておくとよい」というのはこのためです。年間で10万円以上にならなければ、意味はありませんが、いつ大きな病気やケガをするかはわかりません。領収書のない交通費などはきちんと記録を残しておきましょう。
年が明けたら確定申告をしますが、税金の還付(前年に引かれすぎた分を戻してもらう)だけなら1月4日から受け付けていますので、早めに行くとよいでしょう。職員も丁寧に対応してくれます。領収書と源泉徴収票、印鑑を持って行けば、税務署で教えてもらいながら記入できます。還付される金額は、銀行口座に振り込まれますので、口座番号を控えておくことも必要です。パソコンで作成して、書類と領収書を郵送することもできます。パソコンで作成する場合はインターネットで国税庁のサイトをご覧ください。

申告書の説明を読みながら、番号に従って記入していくとでき上がるようになっていますので、やってみるとそれほど難しくはありません。多く引かれた税金を少しでも取り戻すためにも、ぜひチャレンジしてみてください。

2.投資信託の損失は他の所得とは合算できませんが、 分配金・配当だけは例外です。

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次は、投資信託の売却損の取り扱いについてです。その前に、株式投資信託の税制について確認します。
投資信託は、MMFなどの「公社債投資信託」と株式や海外の債券などで運用している「株式投資信託」に分かれますが、「株式投資信託」は、株式と同じ扱いになります。株式投資信託(株式を含む)において、税金の対象となるものは2つあります。値上がり益と分配金(株式の場合は配当といいます。)です。この2つは、基本的に扱いが異なりますので、分けて考えることが大切です。
株式投資信託や株式の値上がり益は、給与や年金などの他の所得とは全く切り離して、別個に計算して確定申告をすることになっています。1年の間にはいろいろな株式投資信託や株式を売買することがあります。それらの中には利益となったものもあれば、損失となったものもあります。年が明けた時点で、前年の株式投資信託と株式の利益・損失を合算します。プラスとマイナスを差し引きして、残ったプラスが1年間の値上がり益であり、税金の対象となります。2月16日から3月15日の間に確定申告をして、他の所得とは別に納税します。税率は平成23年までは10%、それ以降は20%となっています(政府・国会の動向で変わる可能性があります)。もちろん、年間を通算して利益とならなければ税金はかかりませんが、給与など他の所得と合算することもできません。
つまり、株式投資信託や株式による売却損の金額を他の所得から差し引くことはできないのです。その代わり、損失を翌年以降に繰り越すことができ、翌年の投資信託や株式の売却益と相殺できます。毎年申告をしていれば最大3年間は繰り越すことができます。

特定口座というものがあります。株式投資信託の売買を、特定口座の「源泉徴収あり」にして行えば、確定申告は必要ありません。これは、銀行や証券会社が代わりに年間の利益を計算して徴収してくれているからです。当然、自社で扱ったものしかわかりませんから、複数の金融機関で取引している人は、「年間取引報告書」をもらって、確定申告をすることができます。「源泉徴収なし」の特定口座では税金の徴収がありませんので、確定申告が必要です。特定口座でない、一般口座では「年間取引報告書」もありませんので、自分で利益を計算する必要があります。

では、次は分配金や配当に対する税金の仕組みです。株式投資信託や株式を保有していると、利益の状況に応じて分配金や配当がもらえます。分配金や配当が出た段階で、その金額の10%が源泉徴収されるようになっています。確定申告などわずらわしいという方は、そのまま何もする必要はありません。配当の10%が引かれて、納税が完了するので、「申告不要制度」といいます。今は10%ですが、平成24年からは20%となります。
あえて確定申告を選ぶこともできます。確定申告した場合、原則は “給与などの他の所得と合算して”税額を計算します。税率は累進課税ですので、所得の多い人は高く、少ない人は低くなります。「総合課税」といいますが、この方式では分配金や配当について税金を減らしてくれる「配当控除」という制度が使えます。分配金や配当が出ると、その段階で10%を引かれていますので、所得の低い人などは確定申告をすることで税金が戻ってきます。総合課税にした方が有利であれば確定申告をするとよいでしょう。申告不要制度の方が有利ならば確定申告する必要はなく、例え確定申告をする場合でも分配金や配当を所得に含める必要はありません。

分配金・配当については、実はもう一つ方法があります。それは確定申告をして、株式の年間の損益と合算する方法です。先ほど、株式投資信託と株式の値上がり益(あるいは値下がり損)は他の所得と合算できないと申しました。原則はそうなのですが、株式投資信託の分配金と株式の配当だけは、株式投資信託・株式の値上がり益や値下がり損の計算に組み入れることができるようになっています。この方式を選ぶと得になるのは、年間の売却がマイナスとなっている人です。合算してマイナスであれば、税金はかかりませんから、先に引かれた分配金・配当の10%は戻ってくることになります。なお、今年から配当や分配金を特定口座に振り込んでもらうことができるようになりました。この方式を届け出ておくと、証券会社や銀行で合算して計算してくれるようになっています。年間のトータルがマイナスであれば、税金はかかりませんし、プラスの場合でも税率は10%(平成24年からは20%)ですので、申告不要制度と同じです。不利になることはありません。

投資信託の分配金・株式の配当に対する課税方法

なお、所得の少ない主婦の方などは、配当を申告すると、いくらかでも戻ってくる可能性があります。ただ、税務署に所得があると申告をすることで、ご主人の配偶者控除や会社の家族手当にまで影響が出ることもあります

○確定申告をしない

①申告不要制度 10%が源泉徴収される。後は何もしなくてよい。

○確定申告をする

②総合課税 他の所得と合算して税金額を計算。税率は全体の金額による。 分配金・配当については、税金が少なくなる制度がある。
③申告分離課税 投資信託・株式の利益や損失と合算して計算。 値下がり損がある人は、この方法がお得。 特定口座に分配金・配当が入る手続きをしていれば、 確定申告の必要がない。→ 確定申告をしない

3.細川様のケースでは

以上、医療費と投資信託の取扱いについて、税金の仕組みをご説明いたしました。これを踏まえて、細川様のケースではどのような取扱いになるのかを確認しましょう。

まず医療費の取扱いです。細川様はお母様の生活費の大部分を仕送りされているということですから、同一生計にあたると考えられます。つまり、お母様の医療費は医療費控除の対象になります。高額療養費や生命保険の給付を差し引いた金額が32万円ということですので、10万円を引いた22万円が医療費控除の金額となります。もちろん、お母様の分だけに限りません。ご家族の医療費全てが対象になりますので、あわせるともっと金額が増えるでしょう。また、通院ための交通費や療養のための薬代も含まれますので、領収書を探してみましょう。ある程度の還付が受けられるはずです。ご家族の医療費の領収書を添付して、源泉徴収票と印鑑を持って、税務署に確定申告に行ってください。郵送でも構いません。

投資信託の損失については、他に投資信託や株式で利益を上げているものがあれば、そこから差し引くことができますが、給与などの所得からこの損失を差し引くことはできません。投資信託の分配金はどうでしょうか。投資信託の売却損とあわせてマイナスとなるようでしたら、確定申告で分配金から引かれた税金の還付を受けることができます。しかし、細川様の場合は、投資信託の分配金を特定口座に入るように手続きをされています。既に特定口座で売却損と合算する計算をしていますので、確定申告をしても還付はありません。ただ、来年に備えて損失の申告をしておくことはできます。「もう投資信託はこりごりだ」というのなら、わざわざ確定申告をすることもないかもしれません。しかし、医療費控除で確定申告をされるようなら、あわせて申告をしておくとよいでしょう。年明けに銀行から届く特定口座の「年間取引報告書」を添付します。来年以降に投資信託や株式で値上がり益を得ることができたら、今年のマイナス分を差し引くことができます。

今回は、医療費控除だけの分が還付の対象になります。なお、具体的な税金の計算については税務署または税理士にご確認ください。

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