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昨年、東日本大震災の義援金の寄付をしました。
確定申告をするとよいと聞きましたが、どうすればよいのでしょうか。
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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毛利 隆志さん(仮名 36歳 会社員)のご相談
昨年、東日本大震災の義援金に対して、わが家でもささやかながら寄付をさせてもらいました。その際に、領収書を取っておくと税金の面で有利になると聞き、保管しています。しかし、会社員で確定申告をしたことがなく、どうのようにすればよいかわかりません。アドバイスをお願いいたします。
毛利 隆志さん(仮名 36歳 会社員)のプロフィール
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確定申告すれば実質負担は大幅に下がります。
手続きは誰にでもできるものですので、活用しましょう。
手続きは誰にでもできるものですので、活用しましょう。
1.まずは、税金の制度を確認しましょう。
昨年の東日本大震災の被害は、言葉では言い表せないほど深刻なものでした。被災地のために何かをしたいものの、できることは限られ、義援金や寄付金の提供をされた方も多いと思います。毛利さんご一家もできる範囲の支援をということで、寄付をされたのですね。この思いはきっと被災地にも伝わっていることと思います。
国としても、多くの方々が寄付をしやすいように、税金の優遇制度を設けています。さらに今回の東日本大震災の後は、被災地支援のための寄付について、制度を拡充しています。せっかく、このような制度があるのですから、有効に活用しましょう。
言葉の問題として、日本赤十字社や中央共同募金会などを通じて被災者の方々に直接渡るお金を「義援金」、被災地を支援する団体や自治体に渡すお金を「寄付金」といいます。ただ、税金の制度ではどちらも「寄付金」として同じ扱いをしています。国が認めた一定の団体に「寄付金」が提供されていると、決まった計算で求められた金額だけ、国に支払う所得税などが安くなります。会社員の場合は、毎月の給与から所得税が引かれていますので、確定申告をすると、その分の税金が戻ってくるようになります。
では、寄付金を提供したことによって、どのくらい税金が戻ってくるのか。その前に、税金の制度を確認しておきましょう。給与の額に税率を掛けたものが所得税の金額というわけではなく、その前にいろいろな金額を引いた残りに税率を掛けるようになっています。
自営業の方であれば、売上などの収入から経費を引いた残りが自分の「手取り」となります。税金の世界では、この「手取り」のことを所得と呼んでいます。会社員など、お勤めの方の場合は給与が収入になり、そこから給与所得控除を引いた残りが所得となります。給与所得控除は、会社員の必要経費として国が決めた金額です。会社員は確定申告をしませんので、給与の一定割合を必要経費と一律に決めているのです。
収入(給与・ボーナスなど) - 給与所得控除 = 給与所得
副業や不動産の売却など他に収入のない人は、この給与所得がその人のすべての所得(総所得)となります。次に、総所得(この場合は、給与所得)から所得控除というものを差し引きます。所得控除というのは、その方、そのご家庭の状況に応じて、負担が大きい場合に税金を考慮しましょうという制度です。この金額を引いた後の金額に税率を掛けますので、この金額が多くなると、所得税が安くなるわけです。例えば、配偶者が専業主婦で収入がない場合には38万円を引くことができます。高齢の親と同居している場合は一人につき58万円が引けます。子ども手当の創設で、中学生以下の子供がいると38万円を引くことができた制度が廃止されました。昨年から所得税が少し上がったのに驚いた方も多いでしょう。この所得控除の中にいろいろな項目があり、寄付をした場合に受けられる寄付金控除もその一つです。
総所得(給与所得) - 所得控除 = 課税総所得
※所得控除の中に、扶養控除や寄付金控除、社会保険料控除などいろいろな項目がある。
この課税総所得に対して税率を掛けます。税率は超過累進課税となっており、金額が高くなるとその部分には高い税率が適用されます。簡単な早見表を見て計算するのが便利です。確定申告の説明書にも掲載されています。
課税総所得 × 所得税率 = 税額
ここで終わりではありません。さらに、ここで算出された税額をさらに少なくする制度もあります。これが税額控除です。税額控除は、税率を掛ける対象を小さくするのではなく、税金の金額を直接小さくします。それだけに、所得控除より税金が安くなる効果が高くなります。この点を覚えておいてください。
税額 - 税額控除 = 納税額(実際に納める税金の額)
2.寄付金に対する減税制度を見てみましょう。
それでは、寄付をした場合に、どのくらい税金が安くなるのか、戻ってくるのかを見てみましょう。
寄付金控除(所得控除)
その年中に支出した寄付金の合計額 - 2,000円 = 寄付金控除額
つまり、2,000円を超える寄付をした場合に、その超えた金額を寄付金控除として、総所得から差し引くことができるというわけです。実際に安くなる、つまり戻ってくる税金の金額は、この金額に所得税率を掛けた金額と考えるとよいでしょう。例えば、所得税率が20%の人が3万円の寄付をした場合、
30,000円 - 2,000円 = 28,000円 (寄付金控除の金額)
28,000円 × 20% = 5,600円
となり、5,600円の税金が戻ってくることになります。税率が10%の人であれば、2,800円、5%であれば1,400円です。毛利様の場合は、社会保険料など所得控除をきちんと計算してみないと正確な金額は申し上げられませんが、日本赤十字社への義援金で5,600円程度戻ってくることが考えられます。
寄付金控除の対象となる寄付金・義援金の先は、国によって定められており、主なものに以下にあげた機関があります。
- 日本赤十字社、中央共同募金会
- 地方公共団体
- 報道機関などを通じて被災地の地方公共団体に拠出されるもの
- 認定NPO(特定非営利活動)法人
- 指定を受けた公益社団法人、公益財団法人、その他の団体
- 特定公益増進法人、特定公益信託財産
なお、寄付金控除の金額には上限があります。東日本大震災に関連するものは上限が拡大されており、その他の寄付とあわせて、所得金額の80%までとなっています。
寄付金特別控除(税額控除)
(認定NPO法人・一定の公益財団法人に対して支出した寄付金の合計額 - 2,000円)
× 40% = 寄付金特別控除額
こちらは、税額控除ですので、算出された金額の分だけ所得税を少なくできます。認定NPO法人や一定の要件を満たす公益社団法人に対する寄付は、上記の寄付金控除(所得控除)と比べて有利な方が選択できます。年収が2,000万円を超えるような人でなければ、こちらの寄付金特別控除(税額控除)を選んだ方が有利です。毛利様が寄付をされたNPO法人が認定NPO法人であれば、
10,000円-2,000円)×40%=3,200円
となり、3,200円が戻ってくるといえます。
こちらも上限があり、東日本大震災に関連するものは、その他のものとあわせて所得の80%までの寄付金となっています。また、控除できる金額は税額の25%までです。
今までの話は、国に納める所得税の話でした。これからは、都道府県と市区町村に納める住民税が戻ってくるという話です。
「ふるさと納税」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。住民税を現在の住所地の自治体ではなく、出身地などの好きなところに納税できるという制度です。実際は、どこかの自治体に寄付をすると、その分地元の自治体へ納める住民税が軽減されるという仕組みになっています。対象となるのは以下のものです。
- 地方公共団体への寄付(ふるさと納税)
- 日本赤十字社・中央共同募金会の東日本大震災義援金
- 公益増進法人、NPO法人などで自治体が指定した団体
こちらも、所得の金額を少なくするのではなく、住民税から直接差し引くことができますので、税額控除といえます。控除するのは、次の2つの式で計算された金額の合計です。
1)(自治体・日本赤十字社への寄付金額-2,000円)×10%=基本控除額
※寄付金額は、総所得金額の30%が上限です。
2)(自治体・日本赤十字社への寄付金額-2,000円)×(90%-所得税率)=特例控除額
※控除できるのは、住民税の所得割額の1割まで。
例えば、課税総所得600万円の人(所得税率20%)が義援金に3万円を寄付したとします。
基本控除額は
(30,000円-2,000円)×10%=2,800円
特例控除額は
(30,000円-2,000)×(90%-20%)=19,600円
となり、住民税は22,400円(=2,800円+19,600円)の減税です。所得税とあわせると、28,000(=5,600円+22,400円)の減税となります。
3万円の寄付をしても、所得税と住民税であわせて28,000円が戻ることになり、実質的な負担は、2,000円のみとなっています。式がわかりにくいのですが、住民税の所得割の1割までなら、2,000円の負担で、好みの自治体に納税することができる、という主旨です。今回、その対象に東日本大震災の義援金が加わりました。
毛利さんの場合も、所得税や住民税の減税制度を利用すると、日本赤十字社の義援金への寄付は2,000円の負担で済みます。NPO法人への寄付は、県と市それぞれで対象になっているか確認をする必要がありますが、所得税の減税が税額控除となっており、実質6,800円(=10,000円-3,200円)の負担です。全体で4万円の寄付をしたのですが、実質的な負担は8,800円となっています。これでは、かえってあまり寄付をした気にならなくなってしまうかもしれませんが、戻ってきた税金をまた、被災地への貢献になる使い方をすればよいでしょう。
3.確定申告に挑戦してみましょう。
確定申告の期間は、原則は2月16日から3月15日までとなっていますが、税金の払い戻しを受けるだけの方は、5年以内であればいつでもできます。
確定申告は税務署に必要書類を届出ることによって行います。所得税の申告となりますが、それを行えば、住民税の申告も完了したことになります。所得税の還付は、確定申告書類に記載した銀行口座に振り込まれてきます。住民税は、寄付を行った翌年、つまり確定申告をした年の6月から引かれる分に反映されます(控除される分、引かれる税金が少なくなります)。
確定申告の用紙は税務署にあります。確定申告の期間は、特別の会場で受け付けていることが多くなっています。また、国税庁のホームページでもダウンロードすることができます。確定申告の用紙は、計算の流れに沿って記入していくようになっており、初めての人でも、じっくり取り組めば必ず作成できるようになっています。わからなかったら確定申告会場で税務署員が教えてくれますので、税理士に依頼しなければできないということはありません。また、インターネットで作成して、それをプリントアウトして郵送することもできます。
確定申告には、控除の対象となっている機関に寄付をしたことを確認できる書類を添付して提出するか、提出の際に提示をする必要があります。確認できる書類とは、寄付した先が発行した領収書や受領証などです。日本赤十字社や中央募金会の義援金は、振込票の控えでも大丈夫です。
今回は、寄付をした場合の減税額と確定申告について見てきましたが、それ以外にも確定申告をすると、税金が戻ってくる場合があります。
- 医療費が10万円以上かかった。
- 住宅ローンを組んだ。
- 昨年退職をして、再就職をしていない。
- 株式の損失を来年以降に繰り越したい。
- マイホームを売却した。
など、いろいろなケースがあります。
せっかく税金を取り戻せる機会をみすみす見逃すのはもったいないものです。少しの手間で、数万円も戻ってくることもありますので、この時期には該当するものがないか確認してみましょう。