親の老いが気になりだしました。今後の実家と親の生活について、どのような選択肢がありますか?


今回、回答いただく先生は…
井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール
  • 一方的な一般論ではなく、会話を通して親御さんの価値観に寄り添うことが大切です
  • ありがちな再住替えによる経済的負担の重複には気をつけましょう
  • 住まいについては将来の介護を視野に入れての選択も

  島﨑 信二さん(53歳 仮名)のご相談

実家で暮らす両親の身体の衰えを感じ、そろそろ先々のことも考え始めねばと思っています。両親ともに足腰の具合が悪く転倒による事故の心配もありますが、最近では物忘れも増えているようです。また、将来的に一方が他界すれば独居となってしまい、不安はより大きくなります。
数年前までは、家を売って駅近のマンションに引っ越すと話していた父も、今では自宅が唯一遺せる財産と意識してか、その話をすることがなくなりました。両親ともまだ大丈夫と思っているようなので、あまりアレコレと気にし過ぎるのも気が引けています。これから、家族で話し合っていかねばならないことではありますが、両親の今後の生活や介護の問題に関し、実家の家の扱いを悩んでいます。このような場合、一般的にはどんな選択肢が考えられるのでしょうか。

島﨑 信二さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成など
家族構成 居住形態
本人(53歳) 3人家族(妻、長女) 賃貸マンション      ※親とは別居
姉(55歳) 4人家族(夫、長男、次男) 分譲(所有)マンション  ※親とは別居
父(87歳) 2人家族 戸建て:所有(土地・建物とも父名義)
築年数57年の木造2階建て
母(86歳)

高齢期の生活を「住まい」から考える場合、暮らし方の選択の難しさやお金の問題があります。希望を整理しながら時間をかけ、会話を通して探していきましょう

島﨑さん、ご相談ありがとうございます。
身体に不自由が出ていても、認知度が高く自立心のある親御さんへの向き合い方は悩ましいものですね。将来的に要介護度が高まる可能性を鑑み、親御さんの生活を、特に「住まい」の点から考えてみましょう。ただし、ひとつひとつが非常に濃い内容なので、今回はその考え方と選択肢についてポイントを解説いたします。

高齢期の生活とは、「暮らしと住まいとお金」を同時に考えることです

要介護期後の生活を考えることは、その後の『暮らし』と『住まい』と『お金』を考えることに他なりません。

①暮らしとは?
一般的に後期高齢期の方の『暮らし』とは、「自由・自分らしさ・尊厳」をどこまで維持できるのか、その一方で、「安心」な生活をどこまで確保するか、のバランスが非常に難しいものです。両者は、場合によっては相反する可能性があるからです。住み慣れた自宅で在宅介護を受けながら暮らす際には、心身の状況に応じた「安心」のための整備が不可欠です。施設介護の場合は「安心」に問題はありませんが、どこまで「自由・自分らしさ・尊厳」を実現できるのかがポイントとなります。
②住まいとは?
長年暮らしてきたマイホームであれ、賃貸マンション・アパートであれ、移住先へ転居して暮らしている場合でも、その後の生活を踏まえて考えるべき点は同じです。すなわち要介護期を迎えるにあたり、その住まいで介護保険制度の居宅介護サービスを受ける「在宅介護」か、介護サービスの整った施設に転居する「施設介護」か、究極にはこの2択といえます。
とくに「施設介護」を選択する場合はどういった種類の施設を選び、そこからさらに何処の企業・団体等が運営する施設を選ぶのかで、生活は大きく変わる可能性があります。
③お金とは?
高齢期に就労収入が無ければ、資産収入(金融資産や他の資産から得る収入)や保険収入(公的年金等の社会保険や生損保等の民間保険から得る収入)、そして貯蓄等の取り崩しによって支出を賄っていくことになります。
資産収入や保険収入は支出より少ないのが一般的なので、特に活動の盛んな健常期で定期的に貯蓄等の取り崩しを行っていると、時間の経過とともに貯蓄が「枯渇してしまうのではないか」という不安を伴うものです。
要介護期を迎える際には改めて在宅介護か施設介護かの2度目の住替えの選択を迫られます。また、当面は在宅介護で、いよいよ重くなった際には施設に移る、という選択をされる方は少なくありません。しかし、改修等でお金を費やすと、施設転居後のお金の不安に繫がることにもなりかねません。もちろん、選んだ施設が合わずに別の施設へ再転居するとなると経済的な負担が致命的になります。
かかるお金の額を考えると何度もやり直しができる訳ではないので、親御さんの希望をもとに、まだ元気なうちから長期的視点で慎重に検討することが大切です。

島﨑さんの親御さんのように持ち家の場合、その後の『住まい』としてどのような選択肢があるのかを具体的に考えてみましょう。大きくは、「住み続ける」か「住替える」かの2択ですが、実際は以下の図のとおり、もう少し細分されます。

図表1

自宅に住み続ける場合、リフォーム又は減築・建替え。自宅から住み替える場合、人に貸す又は売却する。リフォーム又は人に貸す場合はリバースモーゲージの選択肢も

いまの自宅に住み続ける場合には「安心」の確保を

現在の暮らしを継続する訳なので、「自由・自分らしさ・尊厳」をある程度は確保できる暮らしが叶います。しかし、身体の衰えから起こり得る事故、今後に考え得る認知度の低下から起こり得る事故、そして何より住宅の老朽化から起こり得る事故等に備えるためにも、「安心」のための対策を検討する必要があります。
これらを実施する際には、いずれも新たな出費を伴うので、公的介護保険制度の居宅サービス(介護住宅改修や福祉用具の購入等)を積極的に活用し、税制の減免措置・地方行政の補助措置等の有無を検討しましょう。

①リフォームを検討する
玄関・廊下・階段・トイレ・風呂場等に手すりを設置したり、滑り止めテープや夜間でも判別しやすい蛍光テープを貼ったりするなど、事故を防ぐためのバリアフリー対策が考えられます。これらは要介護認定を受ければ公的介護保険制度の適用を受けられるので費用は一部負担で済みます。ただし、過保護なバリアフリーは禁物。まだまだ機能する身体の部位はむしろ積極的に働かせましょう。階段等の目に見える明らかな段差は最小限の補助を施すに留める代わりに、目に見えにくい「ミリ単位の段差」や滑りやすい床を解消するのがポイントです。また、認知度が低下すれば火の不始末による火災事故は大きな懸念材料です。ガスコンロのIH化や、石油・電気ストーブ等の局所的な暖房器具は極力控えた暖房を考えましょう。
②減築・建替えを検討する
老朽木造住宅では震災等による建物倒壊リスクは非常に大きく、被害も甚大になりがちです。場合によっては耐震補強策として二階部分を撤去し平屋にする「減築」も一考の価値があります。わざわざお金をかけて床面積を狭くする改築は、家財等の処分の手間も考えれば敬遠されがちですが、実は家具等の処分という終わり支度を進めながら「安心」できる住環境を整えるという点では合理的な一手といえなくもありません。
一方で、ならばいっそ建替えをする、何なら二世帯住宅に建替えるというご希望も少なくはありません。しかし、二世帯住宅に関しては、「共有型」、外階段や内階段等で区分けする「一部共有型」、「完全分離型」等の違いにより登記上の所有権の割り振りが複雑であり、これが諸税制に及ぼす影響も少なくはありません。建築資金の多寡だけではなく、所有権の分離に応じた住宅ローン減税の利用、不動産取得や所有に関する税金、相続税の軽減措置等確認すべきことがたくさんあります。
また、二世帯住宅における最大の問題点は、その住宅が「いつまで二世帯住宅として機能できるのか」。
島﨑さんの場合ですと、島﨑さんご家族3人と親御さんとの二世帯住宅に立て替えたとして、いずれ親御さんが他界された後は、この住まいが島崎さんご夫婦と、将来の娘さんのご家族との2世帯住宅になり得ない可能性もあります。
二世帯住宅を検討するにあたっては、将来的には「人に売りやすい物件なのか?」「人に貸しやすい物件なのか?」といった資産のリセール・バリューまで考えておかなければなりません。

住替える場合はタイミングと適切な住替え先選びがポイント

現在の実家から住み替えを検討する場合は、今の住宅を「売却する」以外にも、「人に貸して賃料を得る」方法もあります。賃貸化については民間の不動産会社や管理会社を介する他にも、『移住・すみかえ支援機構』のような一般社団法人を活用する手もあります。
いずれにせよリフォームや減築を元に戻すことは困難ですし、住み替え時には相応の出費が生じます。
親御さんの心身の状態にあわせて「住み替えのタイミング」をはかること。そして、「適切な住替え先」を確保することがポイントでしょう。
選択肢は様々ですが、その住替え先で在宅介護を受けるのなら、建物そのものだけでなく、介護サービス業者や医療機関を利用しやすく、役所や自治体等との連携が活発な地域性も大切な要素です。

なお、「住み続ける」場合も「住替える」場合も、その資金の捻出方法として、いまの自宅を担保に融資を受ける「リバース・モーゲージ」や、売却後もいまの自宅に家賃を払って賃貸として住む「リース・バック」という方法もあります。いずれも純粋に売却するよりも手元に入る額は少なくなりますし、融資の返済や賃料といった負担が発生します。しかし、住んでいる間はそれ自体ではお金を生まない自宅を有効活用して、暮らしの充実をはかったり、住替えまでのタイムラグを解消する手立てとしたりできます。柔軟に幅広い視点で制度の利用を検討してみるのも良いかと思います。

最後に、子としては親御さんの「老い」を痛感するとやるせなくなるものです。物理的に勤務先等との距離的なハードルが低い場合は、実家での親との同居も選択のひとつ。ですが、自分たち家族にとっても当の親にとっても、それが果たして適切解であるのかはわかりません。
親と適度な距離感を保ちながらも、公的介護保険制度や地元行政の見守り制度等の支援も活用し、ストレスなくセーフティーネットを構築する暮らしも可能です。いざという時に慌てることのないように、少しずつ、会話の中でベターな選択を、親御さんと一緒に探していく姿勢が大切なのでしょう。


親の終活について、進め方のポイントや注意点を教えてください。
都内にマイホームを持ち、地方の実家に戻る予定はありません。空き家問題というのを耳にしますが、何が問題でどのような対策を立てれば良いのでしょう。
実家にリバースモーゲージを検討する際のポイントや注意点について、中立的な見解をお願いします。