相続の制度が変わると聞きました。どう変わるのでしょうか。


今回、回答いただく先生は…
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール
  • 制度改正の概要を理解しましょう。
  • 要件やスケジュール(施行日)なども確認しておきましょう。
  • 自筆証書遺言の作成を検討しましょう。

大谷芳子さん(仮名 65歳・専業主婦)のご相談

相続制度が変わると聞きましたが、具体的にどのように変わるのか理解していません。

我が家に相続税がかかるかどうかわかりませんが、知っておきたいと思います。

大谷芳子さん(仮名 65歳・専業主婦)のプロフィール

家族構成
家族 職業
本人(65歳) 専業主婦
夫(67歳) 無職

※子ども(息子)は結婚して別世帯をもうけている。

相続割合や税に関するものではなく制度の改正。
残された配偶者や遺族にスムーズに遺産が分割できるようになります。

1.制度の概要を理解しましょう。

大谷さん、こんにちは。最近シニア世代の方向けセミナーでは、同様のご質問をよく受けます。2018年の7月に改正民法が可決。相続制度においては約40年ぶりの大改正となったことで注目されています。

今回の改正では、従来課題とされていた点について考慮されたこと、遺言の利便性が高くなったことが特徴かと感じます。順番に確認していきましょう。

①配偶者居住権の創設
今回の改正でも目玉とされているもので、簡単に言うと「被相続人亡き後、配偶者が自宅に住み続けられる権利」です。自宅にそのまま住み続けることは当然と思われるかもしれませんが、法的に厳密に考えるとそうとも限らないのです。事例で説明します。

事例)被相続人:夫 法定相続人:妻、子
相続財産:自宅(評価額2,000万円)、預貯金3,000万円

現行の制度では、遺言書がない場合は、原則法定相続分で分割することとなっています。したがってこの例で遺言書がなく、相続人が配偶者と子の2人の場合は2分の1ずつということになります。

分割のしかたとして、自宅の所有権を100%配偶者に持たせれば、配偶者のその後の居住は約束されますが、その分預貯金でもらえる分は少なくなります。長寿社会において、現金が少ないのは心もとないですよね。
一方、自宅所有権も2分の1ずつとなると、どちらかが持分を処分したい場合など処分しづらくなりますし、配偶者が安心して住み続けられることが脅かされる可能性もあります。

これが改正前の制度の限界でした。しかし改正後は配偶者居住権を創設し、所有権、居住権それぞれの価値として分割し、自宅の権利上の価値を子にも与えることで、実態は変えずに済むのです。

なお、配偶者居住権と所有権がいくらになるかは、居住期間などを考慮するため、一律いくらとか一律何パーセントというわけではなく、ケースバイケースとなります。

②結婚20年以上の夫婦については、居住用不動産(自宅)の贈与が特別受益の対象外となる
結婚20年以上の夫婦間のどちらかがもう一方に自宅を贈与した場合、2,000万円までは控除され、贈与税がかからない(かかった場合でも安くなる)、という特例があります。多額の贈与税をかけずに財産を分けることができるため、メリットのある制度です。ところが、贈与税においてはメリットがあるものの、相続財産の分割においては「特別受益」といって「すでに特別にもらった財産があるよね。だからその分は相続財産の分割に際して少なくしますよ」という対象となっていました。

つまり上記1の場合と同様、不動産をもらってしまうと現金でもらえる分が少なくなってしまうケースが多かったのです。今回の改正で、特別受益とみなさないことになるので、その分預貯金でもらえる分が多くなるのです。

③遺産分割前に処分された財産も相続財産として存在するものとみなされる
改正前では、遺産分割協議時点で残っている財産が遺産分割の対象とされていました。しかしこれですと遺産分割協議前に相続人の一人が相続財産の一部または全部を処分しても、遺産分割の際は他の相続人と同条件で遺産相続できるため不公平感が残りました。改正後は処分された分も相続財産として残っているとみなすため、分割の際、処分した相続人は処分した分だけ減らされることになります。ただし、上記2のケースはこれに当たりません。

④被相続人の口座凍結の緩和(仮払い制度の創設)
従来、被相続人の銀行口座などは凍結され、遺産分割協議が完了するまで預金を引き出すことができませんでした。そのため、葬儀費用など被相続人死亡後の支出や、遺族の生活費の確保に支障をきたしてしまうこともありましたが、今回の改正で「仮払い制度」が創設され、遺産分割協議前でも一定の要件にもとづき、一部預金の払い戻しが可能となります。

⑤自筆遺言証書の方式緩和
改正前は、自筆証書遺言は財産目録も含め全文を遺言者の自筆で書くことが必要ですが、財産目録を自筆で書くことは非常に負担が大きいため、財産目録はパソコンで作成したり、登記事項証明書や預金通帳のコピーなど財産を添付するなどで代えることが可能となります。

⑥自筆証書遺言保管制度の創設と検認不要
自筆証書遺言は公正証書遺言と違い、遺言書を保管してもらえるところはなく、自宅で保管する(隠す)などするほかないため、見つからない、紛失、偽造などのリスクのほか、日付や署名漏れなど方式不備により有効かどうかが問題になることがあり、相続トラブルに発展してしまうケースもあります。
改正後は法務省で方式チェックしてもらった上で保管してもらえるようになるため、これらのリスクやトラブルが減少すると期待されています。

さらに、自筆証書遺言を有効にするためには、検認という手続きが必要です、保管制度を利用した場合はこれが不要となります。したがって相続人がすぐに遺産分割手続きをはじめとした相続手続きを開始することができます。

⑦相続人以外の貢献(特別寄与)制度を創設
相続人が被相続人の介護や看病などに貢献した場合、その分を「寄与分」として考慮されますが、相続人の嫁などはこれに当たらず、どれだけ無償で貢献しても何ももらえるものがありません。
改正後は相続人でない親族も、介護や看病などで貢献した分につき「特別寄与分」として金銭請求をできるようになります。

2.細かな要件やスケジュールなどは確認をしましょう。

今回の改正で、配偶者の保護が強く打ち出されていると思います。長生きするにはいわゆる現金が必要ですから、その点は安心材料となるでしょう。また、相続人以外の親族も金銭請求が可能となることで、従来「理不尽ではないか?」と思われていた部分も改善されたと感じます。高齢化社会においてのリスクや実態に即した改正がなされたといえるでしょう。ただし、改正後の内容の適用についてはそれぞれ詳細な要件などもありますので、ご自身に都合の良いように解釈しないようにしましょう。

また、改正法の施行日は原則として公布日(2018年7月13日)から1年以内とされていますが、例外としてそれ以降となるものもありますのでご注意ください。

  • 自筆証書遺言の方式緩和:2019年1月13日
  • 配偶者居住権の創設:2020年4月1日
  • 自筆証書遺言書保管制度:2020年7月12日までの間
  • など

3.遺言書作成により相続トラブルを軽減させましょう。

今回の改正で、自筆証書遺言作成のハードルが下がったと思います。最近では遺言書の必要性を理解し、公正証書遺言を作成される方も増えてきましたが、少なからず費用もかかるため作成を避けている方がまだ多いのも事実です。
その意味では、保管制度を使えば自筆証書遺言を作成するメリットは非常に大きいはずです。また、配偶者居住権や特別寄与分についても、権利はあっても揉めないとは限りません。遺言書で明記しておけばトラブルを軽減させることも可能でしょう。

今回の改正は、いわゆる基礎控除云々といったような相続税法ではなく、制度(民法)の改正です。つまり、相続税がかかるかどうかにかかわらず、どこのご家庭にでもかかわることですので、今後の詳細発表などにはアンテナを張るようにしましょう。

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