近い将来やって来る相続で、もめないかが心配です。 「争族」を回避する方法はありますか?


近い将来やって来る相続で、もめないかが心配です。
「争族」を回避する方法はありますか?

宮塚 達夫先生 (みやつか たつお) プロフィール
  • 相続に対する認識を共有しましょう
  • 遺言書をつくりましょう
  • 「代償分割」を利用しましょう

江頭 恵子さん(41歳 仮名 パート従業員)のご相談

現在、夫の両親と同居しています。住んでいる地域は地価がかなり高く土地面積も100坪以上ありますが、両親の貯蓄はほとんど無く夫が生活費の面倒をみています。土地と建物の所有者は義父名義で、義父にその他の財産はありません。夫は長男ですが、弟と妹がいて、それぞれ結婚して独立しています。弟とは仲がいいのですが、妹とは仲が悪く疎遠です。義父の話では、今住んでいる土地と家は長男である夫に譲ることになっていますが、実際に相続が発生したときのことが心配です。できることがあればアドバイスをお願いします。

江頭 恵子さん(41歳 仮名 パート従業員)のプロフィール

家族構成
夫 : 浩一 45歳  会社員
妻 : 恵子 41歳  パート
長男 : 翔   10歳  小学生
義父 : 浩   77歳  無職
義母 : 弘子 73歳  無職

相続に対する認識を家族で共有し、
遺言状を作成してもらいましょう。

相続財産をどうやって分割するか考えましょう

平成27年1月からの相続税基礎控除額の引き下げによって、相続税を納付しなければならない人が増えることは江頭さんもご存知でしょう。平成27年以降の基礎控除額は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となります。 江頭さんのお義父さんに相続が発生した場合、法定相続人はお義母さんとご主人の兄弟3人の合計4人となり、基礎控除額は

3,000万円 + (600万円×4人) = 5,400万円

となります。
地価の高い土地を100坪以上所有しているとなれば相続税の納付を覚悟しておいた方がいいと思われます。一度ネットで路線価を調べておおよその相続評価額を調べたり、税理士などの専門家に相談したりしておくといいでしょう。

今、江頭さんがまず考えなければいけないのは、相続財産をどうやって分割するかという問題です。各相続人が相続税をどうやって納付するかというのも問題ですが、被相続人の財産が江頭さんと同居して住んでいる土地と家屋だけなので、残念ながら、これといって有効な節税対策はありません。相続人それぞれが考えることになります。いずれにしても、土地と建物は被相続人であるお義父さんの財産なのですから、ご本人にその問題を認識してもらうことが必要です。仮にご主人の兄弟の誰かひとりがお義父さんにこっそり相談した場合、「こいつは俺が死ぬのを待っているのか!」とお義父さんは憤慨するかもしれません。必ず親族全員集まって相談することが重要です。最近は銀行などで無料の相続セミナーが頻繁に開催されています。お義父さんに参加を勧めて、相続に対する意識を持ってもらうことも効果的と思われます。

「争族」を避けるために遺言書をつくりましょう

今回気になるのは、妹さんとの関係です。ご両親のどちらかに相続が発生した、いわゆる一次相続のときには問題は起こりにくいのですが、両親ふたりとも亡くなってしまった時、二次相続の時に「争族」が始まることが多いのです。親の目の黒いうちはと思い、ぐっと堪えていた感情が一気に自己主張へと向かってしまうのです。
弟とは仲がいいから安心だ。そう考えるのもまだ早いです。たとえ兄弟間の仲が良くても、弟の奥様はどうでしょうか?子供の教育資金や住宅ローンの返済で家計が苦しい。そんな事情はないでしょうか?毎月のやり繰りに苦労している場合、相続で1円でも多くのお金を貰って生活費の足しにしたいと思うのは当然です。正当な権利を主張するだけであって、何ら悪いことを言っている訳ではないのだから、義兄弟の家庭のことなんて構っていられない。ここで頑張ってくれる人こそ、理想の伴侶となりうるのです。「兄弟と私たち家族の幸せのどっちが大切なの?」奥様からそんなことを言われれば、自分の家庭事情のみを優先して、「争族」に参加してしまうことだって多いのです。

それではどうすればいいのでしょうか? 遺言書を作成しましょう。後述しますが、江頭さんの場合は特に遺言書が必要となるケースだからです。

ここで遺言書に関して整理しておきます。

1.遺言書の種類

(1)公正証書遺言
公証役場で、公証人が遺言者から遺言の内容を聞き取り、二人以上の証人の立会いのもとで作成される遺言書。原本は公証役場に保存され、改ざんや偽造の恐れもなく再発行が可能です。多少のお金はかかりますが、「争族」回避には一番有効です。
(2)自筆証書遺言
遺言者が、遺言の全文、日付、氏名について自筆しなければならない遺言書。費用をかけずに簡単に作成できますが、法律の定めに反していたり、内容が曖昧であったりした場合は無効になる可能性もあります。また、相続開始後に家庭裁判所での検認を受けなければなりません。ただ自分で書くだけなので簡単ですが、有効性は後々疑問です。
(3)秘密証書遺言
遺言者が作成した遺言書を公証役場に持参し、二人以上の証人の立会いのもとで遺言書の存在を公証人に証明してもらう遺言書。法律の定めに反していたり、内容が曖昧であったりした場合は無効になる可能性があること、相続開始後に家庭裁判所で検認を受けなければならないことなどは自筆証書遺言と同様ですが、現実的にはほとんど利用されていません。
(4)特別方式の遺言
上記(1)から(3)の遺言を普通方式遺言といい、これに対し特別方式遺言といわれるものもあります。死亡危急者遺言など危急の事態に直面した時の特殊な遺言方式もあります。

2.遺言書効力の限界

(1)遺留分の侵害
民法では、遺産の一定割合の取得を一定の相続人に保証しており、その保証された財産を「遺留分」といいます。そして、その保障された「遺留分」が侵害された場合に、侵害額に相当する額を請求(遺留分の減殺請求という)することができるのです。
つまり、効力を有する遺言書の作成がされていたとしても、遺言書に記載された内容が、相続人の遺留分を侵害する内容であった場合には、遺留分の減殺請求がなされる可能性があり、被相続人の遺言書どおりに分割が行えないことがあります。
因みに遺留分を有する者(遺留分権利者)は兄弟姉妹以外の相続人で、具体的には直径尊属、配偶者、子(代襲相続人を含む)です。遺留分の割合は、直径尊属のみが相続人である場合は被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1となり、相続人の区分による各相続人の遺留分は下記のとおりです。

相続人の区分 各相続人の遺留分
配偶者と子 配偶者(4分の1)・子(4分の1)
配偶者と直系尊属 配偶者(3分の1)・直径尊属(6分の1)
配偶者と兄弟姉妹 配偶者(2分の1)
配偶者のみ 配偶者(2分の1)
子のみ 子(2分の1)
直系尊属 直系尊属
江頭さんの親族の場合の遺留分は次のとおりです。

お義母さん 4分の1
江頭さん  12分の1
弟と妹    それぞれ12分の1

後々面倒なことにならないように、この遺留分を念頭においた公正証書遺言を作成しておきましょう。
(2)認知症の判定
被相続人が生前に作成した遺言書が、相続開始後に 遺言者の判断能力がなかったとされ無効になるケースもあります。被相続人が生前に認知症を患っており、遺言書が判断能力の喪失後に作成されたものであると判断されると、遺言書の効力が認められないばかりではなく、遺言書の偽造問題にまで争いが発展することもあるのです。そして、遺言書の偽造と判断がされると、相続の欠格事由に当たり、相続権を失ってしまうことにもなりかねません。
このような事態を回避するためには、生前できるだけ早い段階で遺言書を作成しておくべきなのです。

「代償分割」を利用しましょう

江頭さんのように、お義父さんの相続財産がほとんど不動産だけの場合、どのように財産を分割すればいいのでしょうか。もちろん土地をいくつかに分割すればいいのですが、そうすると今住んでいる家屋を取り壊さなければならないケースが出てきます。江頭さん家族やお義母さんの住む家が無くなってしまうかもしれません。今住んでいる土地を売って、どこか別の家に住んでもいいと思わない限りは悩ましいのです。
この対策として「代償分割」の制度を利用することをお勧めします。「代償分割」とは、土地建物など分割しにくい財産を相続人の1人がいったん全部取得しておき、その代わり相続した財産から他の相続人にお金を渡し、帳尻を合わせる方法です。代償分割は一見、遺産を取得した相続人から他の相続人に対して贈与が行われたようで、贈与税が課税されそうですが心配無用です。遺産分割協議書にいついつまでに代償分割を行う旨を記載しておけば、贈与税はかかりません。ここでは前述した遺留分に注意する必要があります。

では、代償分割するお金はどうすればいいのしょうか?江頭さんの貯蓄で楽々払えるのであれば何ら問題はありません。しかし、そんなお金はないという場合は以下2つの方法を検討してみてください。

1.土地を担保にお金を借りる

いわゆる不動産担保ローンを利用して、調達したお金で代償分割を行う方法です。もし、お金を借りても返済余力がないという場合は、リバースモーゲージの活用も検討してみましょう。土地を担保にお金を借り入れて、元本の返済は死後にする方法です。利用できる年齢制限はありますが、利息の返済も生存中は不要な金融機関もあります。

2.生命保険に加入する

死亡保険に加入するのですが、契約形態は

契約者 = 江頭さん
被保険者 = お義父さん
保険金受取人 = 江頭さん

とします。
江頭さんは受取った保険金で弟と妹に代償分割金を支払うことが可能となります。なお受取った保険金は一時所得となり、所得税の課税対象となります。

最後に

江頭さんの場合、まずは、お義父さんが認知症など発症しないでしっかりしている間に、親族全員でじっくり分割方法を話し合うことが一番重要と思われます。両親が買ってきてくれたクリスマスケーキ、カットされた大きさ、苺の数などで兄弟ケンカが起きても、親の言うことを聞いてみんなで仲良く食べたはずです。「争族」も同じです。ポイントはご両親健在の内に解決方法を決めてしまうことなのです。その上で公正証書遺言を作成して、後々のトラブルに備えておけばハッピー相続になると思います。

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