遠方で暮らす祖母に市民後見制度を活用したいと思っています。しかし、しくみがよくわからず不安があります。


今回、回答いただく先生は…

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 市民後見制度も、法律に基づく成年後見制度なので安心してください。
  • 後見は本人の「法律行為の代理」のための制度ですが、後見人ができない行為の理解も必要です。
  • 公的介護保険制度も成年後見制度も、ご家族の過度の負担を軽減するための制度です。

  清原菜奈さん(30歳 仮名)のご相談

遠方に一人で暮らす祖母の認知症が重くなってきているようです。
そう遠くない将来には、施設などへの入所を検討しなければならないのかもしれませんが、その際の手続きや当面の祖母の日常の見守りなどのために成年後見制度を利用できればと考えています。祖母にとって一人娘であった私の母は他界しており、祖母の他の親族は疎遠になっている兄弟だけです。孫である私が面倒をみられれば良いのですが、未だ子どもが小さく家族に手一杯であるのと、遠方に暮らしているため中々時間をとることができない状況です。
また、インターネットで調べていたら市民後見人という制度があることを知りました。成年後見制度は資金面でもハードルが高そうで、そもそも制度自体をよく理解していないのですが、市民後見制度は関心があります。ですが、専門家でない一般の市民の方に委ねるなど、色々と不安な点もあります。実際のところはどうなのか、ご相談をさせてください。

清原菜奈さんの祖母のプロフィール

家族構成
家族 年間収入 現在の貯蓄額
本人
(独居)
85歳
年金の推定は約100万円強 数百万円程度(推定)

※障がい者手帳の交付はうけていないが認知症の診断あり(要介護認定済み)

市民後見制度はチェック機能も働く安心できる制度と考えます。
不明なことは地域の社協等に相談し、積極的に利用してください。

清原さん、ご相談ありがとうございます。
成年後見制度は難しい用語も多くて中々とっつきにくいと思います。専門用語はなるべく使わずに制度をイメージ頂けるようご説明いたしますね。ご参考になさって下さい。

成年後見制度とは?

後見”という言葉には、「背後にひかえて世話をすること。またその人。うしろだて」という意味があります。成年後見制度とは、「本人(被後見人)の判断能力が精神上の障がいにより不十分な場合に、援助者(後見人)が、その本人を法律的に保護し、支えるための制度」と定義されています。よって、認知症の方や知的障がい者、精神障がい者の方が対象であり、身体の障がいがあるだけの方は対象にはなっていません。

人はふつう、自分に不利な選択をしたり不適切な行動をとったりはしないものです。でも、有利なのか不利なのか、適切なのか不適切なのか、必要なのかそうでもないのかの分別がつかないと、自分にとって必要な契約ごとや解約すべきこと、あるいは諸々の手続きなどがあっても、それを行えません。誤って不利益なことをしてしまう可能性もあります。
ごく日常の生活において、本来なら自分で判断し自分で行うべきところ、それができないため、その方の不利益とならないよう、本人がとるであろう行為を代わりにおこなうのが後見人です。その責任は重大なため、後見人は法律によって定められ、家庭裁判所の審判によって選任され、後見開始に伴い、被後見人だけでなく後見人も法務局に登記されます。

なお、成年後見制度では、“後見”以外に、本人の判断能力の程度に応じて“保佐”と“補助”の種類があります。3つの類型のうちどれに該当するのかは、家庭裁判所が最終的な審判をするまでの過程で判断されますが、「判断能力がまったくない」場合に適用される後見人は、保佐人や補助人よりも大きな権限と責任があります。

また、成年後見制度は、本人の判断能力に問題が生じて後見人等を立てる必要性があると見込まれた場合に、家族等(本人、配偶者、4親等内親族、市区町村長、検察官等)が本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、「申立て」をすることからスタートします(上述のとおり、法律による制度なので「法定後見」ともいいます)。
これに対し、判断能力があるうちに、本人が将来の後見人と契約を結んでおく「任意後見」制度もあります。法定後見では後見人(保佐人、補助人)は申立てのあと、家庭裁判所によりはじめて選任されるわけですが、契約による任意後見では、判断能力が不十分となる場合に備え、担い手を予め自分で決めておくことができます。
ただし、この契約は法務大臣に任命された法律の専門家である公証人が作成する公正証書でなくてはならず、任意後見の契約相手は司法書士や弁護士等の専門家や法人であることが多く、また、契約締結後は後見開始前から報酬が生じるのが一般的となっています。

市民後見人とは?その信頼性は?

市民後見人は、上述の法定後見において、その地域で暮らす一般市民が後見人となる制度です。そもそも、特段の問題がない成人であれば誰でも後見人になることができるので、別に赤の他人や専門家任せでなく、本来は親族が後見人になるのが自然な形といえます。ですが、頼れる親族がいなかったり、必要に応じて絶えず本人に寄り添うことができなかったりすることもあるので、こうした制度があるわけです。

もちろん、まったくの他人、しかも法律関係の専門家でもない一般市民に後見を委ねることには抵抗があるのか、市民後見制度はまだまだ普及しているとは言い難い現状です。残念なことに、後見制度全般において、後見人による財産の不当な使い込みや、不義理がしばしば問題になることも、その要因でしょう。

しかし、市民後見になるためには、当然、相応の養成研修が必須ですし、なによりそれ以上に、後見人の不正や怠慢がないかをチェックする“後見監督人”の設置が前提となります。その“後見監督人”は、市区町村単位での半行政組織ともいえる地域の社会福祉協議会(社協)が担うケースが一般的です。
後見人自身は素人の市民でも、公的機関に類する組織によるセーフティーネットが構築されていますので、むしろ、本業で多忙な専門家の後見人より、今後はその活躍も期待されています(財産があまりに潤沢であったり、親族関係が複雑な場合であったりする場合は、申し立ての時点で専門家による後見となる場合もあります)。
独居や社会的孤立が深刻な問題になりつつある昨今です。個人的には社会貢献型後見制度ともいえる市民後見制度の意義は高まると感じています。

後見人が「できること」、「できないこと」には注意

後見人は、本人に代わり財産を管理し、日常的な買い物以外の法律的な同意・取り消し・代理を行います。
例えば、預金口座など資産の保全や管理、生活に関わる支払いの代理、公的年金の裁定請求など本人や専門家でなければ行えないような手続きの代理、本人の判断能力欠如による不当な契約の取り消し、あるいは入院や受診のほか高齢者施設の入所契約など、実に幅広いといえます。
ですが、法律行為の代理の位置づけであるため、そもそも対象外のことが多く、本人や家族の完全な代理人ではないので、できないことも数多くあります。

例えば、通常の財産管理とは認めない投資や投機行為は禁じられています。後見人や親族等への貸付も同様です。また、食事の世話や看護・介護(事実行為)は範疇外です(本人に必要な看護や介護の手配は後見人の義務)。
さらに、一身専属権というべき結婚、養子縁組、遺言、相続や贈与、臓器移植同意のほか、注射や手術などの医療行為への同意権もありません。特に医療行為については、しばしば病院等とトラブルになることもあるので注意が必要です。

最後に、後見人(保佐人、補助人)はひとたび選任されると、被後見人本人が死亡するか、後見人の病気などやむを得ない事情があって家庭裁判所の許可を得ない限り、ずっと続きます。後見人等となる方は、そのことを理解し重責を担っているはずです。

制度の詳細や具体的な手続きについては、このリンクhttp://www.courts.go.jp/vcms_lf/h27koukenpanf.pdf)や、家庭裁判所のサイトなどで補完して頂ければと思いますが、成年後見の制度は、これからの我が国にとり、公的介護保険制度と両輪のごとく不可欠といえます。
判断能力が欠けてしまった本人にとって、またそのご家族の方にとって、大切なセーフティーネットであると、心から信じています。 制度を理解のうえ、是非活用してくださいませ。

認知症の父のために高齢者施設入居を検討しています。 費用はどのように考えればよいでしょうか。