65歳の再退職が迫り、老後が心配でお金を使うことができません。お金の使い方や貯蓄の方法などはどう考えればよいでしょうか

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今回、回答いただく先生は…

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 不安に感じる内容に応じられるお金の置き場所を考えてみましょう。
  • 何歳になっても「使うお金を繰り越す」方法を検討してみましょう。
  • 「かけがえのない資産をつくっている」という発想の切り替えも持ちたいものです。

  原田秋紀さん(64歳 仮名)のご相談

60歳で退職した後、現在は継続雇用制度を利用して元の会社で働いています。来年には再退職の予定なので、その後は年金で暮らしていくことになるかと思います。ですが、これまでに蓄えてきた貯蓄をどう取り崩して生活していけば良いのかが不透明で、将来が不安で中々お金を使うことができません。
貯蓄は退職金が殆どでそれほど多くはありませんが、資産運用などを始めるのが良いのでしょうか。

原田秋紀さんのプロフィール

家族構成
家族 年間収入 現在の貯蓄額
本人
64歳
240万円
会社員
2,200万円
※殆どが預貯金である

63歳

主婦

取り崩しながらも資産を長持ちさせる方法は2つ。
同時に無形の資産を増やすことで老後が安心になります。

原田さん、ご相談ありがとうございます。
人生100年時代」などといわれますが、本来は喜ばしいはずの長寿が不安の種になる場合もありますね。実際、「何歳まで生きるのかわからない中で、寿命より先に資産が枯渇してしまうのではないか」との不安からか、原田さんのようなご相談をお受けすることがとても多くなっています。
最近では「ジェロントロジー(老年学、加齢学)」の学問領域に、「金融ジェロントロジー」の考え方が加わり、個人の長寿化や社会の高齢化が金融・経済にもたらすことへの課題や議論などを耳にすることも増えました。
長生きのリスク」に対する解決策は一様でなく、またとても難しい問題です。社会のあり方や金融関連のサービスの向上に期待し委ねる面も多々ありますが、個人でできる方法や考え方も持っておきたいものです。今回の話を少しでも参考にしていただけたらと思います。

金融資産の取り崩しのアプローチ方法は大きく分けて2つ

将来、入ってくる「収入」より出ていく「支出」が多くなった場合、その不足分は貯蓄等の金融資産を取り崩していくことになります。
人の一生を予め見積もることはできないのでナンセンスではありますが、仮に95歳までとすると、65歳からの取り崩し期間は30年間と計算できます。もし毎年均一の金額ずつ、あるいは一定率ずつ取り崩していくのなら、年間にいくら貯蓄を引き出せば良いのか目安をつけることは可能です。しかし現実は、いつどんな大きな出費が発生するのかもわからないので、簡単な話ではありませんよね。なるべく将来への不安要素は少なくしておきたいものでしょう。

ある時期から金融資産を取り崩していくとする場合でも、将来のリスクを減らすためのアプローチはあります(図の点線は改善前、実線は改善後として、毎年の取り崩しにより金融資産が減っていくことを示しています)。

アプローチの1つめは「取り崩しが必要となる時期を遅らせる」という方法。
毎年同額あるいは同率で貯蓄を引き出すとしても、そのスタート時期を遅らせることができれば、その分だけ金融資産の寿命を延命させることができるでしょう。
2つめは「毎年の取り崩しに必要な金額または割合を減らす」という方法。
金融資産の運用による利殖効果で取り崩す割合を減らすことも考えられますが、毎年の収支不足分を減らせば良い訳です。この場合でも金融資産枯渇までの寿命を延ばすことが可能です。

どちらもすごく単純な考え方ですが、実のところ自分でできる工夫というのは大別するとこの2つしかありません。

収支を改善するためのご提案

先の2つのアプローチは、いずれも経常的な収支を改善することが前提となります。収支改善のためには、「収入を増やす」のか、「支出を減らす」かの両方面がありますが、ここは生活に少しでも潤いをもたらせる方法を取り入れたいものです。

例えば、「出費を減らす」ことは真っ先に思い浮かぶ方法です。ただ、単に節約や倹約をするのではなく、使わず浮いたお金を使う際のことまでをイメージすれば、それは貯蓄や積立をしたのと同じ働きになります。
仮に、毎月毎年の項目ごとの予算を決め、その分で使うようにすることで月に1万円でも支出を減らせれば、その浮いた分は翌月以降に上乗せして使えるお金(いってみれば臨時収入)となります。今月(今年)は我慢する代わりに翌月(翌年)に贅沢をするという発想なのですが、逆に考えれば、将来使いたい時期のために、計画的に「使えるお金を繰り越しておく」ことをするわけです。
たとえ月々2万円でも、繰り越せる時期が長くなればなるほど、その時に手元に入ってくる臨時収入の額は大きくなります。もし3年後であれば72万円(2万円×12カ月×3年間)になりますね。こうした習慣を毎年続けていけば、3年後以降は約70万円ずつの臨時収入を3年毎に生み続けることができます。

一方、毎月の支出削減が難しいのであれば、「いつまでも働き続ける」ことを検討してみましょう。何もフルタイムで会社に勤めるだけがその方法ではありません。好きなことややってみたかったことで収入を得ることを目指すのも1つですが、暮らしている地域でデビューする方法もあります。
どの地域でも実に様々な有償ボランティアがあり、その担い手は常に求められています。たとえ時給1,000円であっても、日に4時間、月5回働けば2万円になります。このような働き方であればいつまでも続けることはできそうですし、何より社会に貢献することに繋がります。

年金生活では月5万円もの積立を行うのは困難ですが、「プチ就労」も交えれば月2万円は十分可能です。そして、こうして積み立てたお金は、旅行やレジャーなどの生活の潤いのために使ってみてください。
何歳になっても、少額ずつ工夫さえすれば積立や資産形成は可能なのです。

まとまったお金は、生涯にわたって収入を得る原資に

まとまったお金の貯蓄形成手段も気になるところです。確かに、投資商品等で運用しながら取り崩す(お金にも働いてもらう)方法を取り入れるべきかが気になります。ですが、運用に資産価値の増減はつきもの。この値上り値下がりについてはタイミングが大きく影響します。
運用開始直後に値上がりしてくれればその後はある程度楽になりますが、開始早々に値下がりしてしまうと、後々の対応が苦しくなります。ましてや運用経験が少ない方が、虎の子の財産を投じることは勧められません。
このコーナーでたびたび提案していますが、資産運用をするのであれば、そのお金を使う目的や運用期間を明確にし、成果の良し悪しに関わらず当初に決めた時期に換金するなど、小口かつ時期を分散しておこなっていきたいものです。
例えば、旅行やレジャーなどを目的に資産運用を行うことをお勧めしています。旅行に行く際につど貯蓄から引き出して使っているのならばそれはやめて、その予算で運用するのです。予め見込んだ予算で期間を定めて運用し、たとえ失敗して減額になりクオリティが下がったとしても、お金を使う際には一定の満足を得られるような目的が、運用と相性が良いと考えます。

それより、そもそも長生きすることにより金融資産が枯渇することが心配であるのなら、逆に長生きすればするほどお得になる性格の資産を選んでみるのも理に適った選択といえるでしょう。あるいは、後期高齢期の支出で大きな影響を及ぼすのは要介護時の介護費用と考えられます。
自分や配偶者の介護が必要となった時に、貯蓄から賄うだけではなく、介護が必要な限り生涯に渡って新たな収入を得られるしくみを準備しておくのも検討に値します。こうしたしくみは世に数多ある金融商品の中でも、生損保保険商品の個人年金保険(終身年金)終身介護保険でしか成り立ちません。
保険商品は高齢期に加入すると保険料が割高となりますが、費用対効果で考えても安心を生むシステムと考えることができます。まとまったお金の置き場所の1つとして、保険料一時払い(もしくは保険料前納払い)等の方法で検討してみてはいかがでしょうか。

最後に、先に地域の有償ボランティアの話をしましたが、元気なうちに地域で自分の存在をつくりながら地域へ貢献するということは、同時に自身が困った際のセーフティネットづくりをしていることにもなります。身体の不自由や判断能力に自信がなくなった場合に、一番の財産となるのは見守りの機能です。とかく豊かな生活を送るため、その際に選べる選択肢を豊富に持つためにはお金は不可欠です。ですが、暮らしの豊かさとは、何も目に見える財産だけではないとも考えます。
たとえ、目に見える金融資産という有形財産が減っていくとしても、それが目に見えずともかけがえのない信用や信頼や仲間との絆、あるいは想い出や記憶といった無形の財産に、形が変わったのだと思うことができれば、日常の不安感や焦燥感は少しでも減らせるのかもしれませんね。