第4回:生命保険

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日本人は世界的にも類を見ないほど保険への意識は高く、日本では生命保険の世帯加入率は87.5%(2006年生命保険文化センターより)と、ほぼ8世帯のうち7世帯が生命保険に加入しています。また、一人当たりの保険料はアメリカの3倍、イギリスの6倍と言われ、保険に頼る割合が国際的に見ても非常に高いといえます。

しかしながら、「保障」と「貯蓄」の両方の性格をあわせ持つ生命保険は、利回りが高い時代にはとても人気がありましたが、近年は利回りが低下するにつれ、貯蓄部分での利息が少なくなるため、昔に比べて相対的に保険料は高くなっており、生命保険の加入率は依然として高いものの、保険の特性をよく理解されないで加入されている方が多いのも実情です。そこで今回は、生命保険の失敗事例について考えてみたいと思います。

掛け捨ての保険には入りたくない

鈴木さん(35歳、女性)の家庭では、同い年の夫と子供1人の3人暮らし。5年前から生命保険に加入しています。将来は子供の養育費がかかってしまうことに加え、年金が将来減らされるかもしれないことを考えると、若いうちに少しでも多く貯金をして将来に備えたいという気持ちがありました。そのため、生命保険は掛け捨て保険だとお金が戻ってこないため、それよりは貯蓄性のある保険の方が良いと考え、養老保険に加入し、特約として医療保障をつけました。

月々約4万円の保険料は家計にとって大きな負担でしたが、10年後に500万円受取れるので貯蓄と保険の両方を得ることができ、自分でもやりくり上手だと自画自賛していました。

予期せぬ出来事 ~夫の死

ところが、思いがけない事故により夫が急逝してしまいました。実際の保険金は満期保険金と同額なので500万円。夫がいないこれからの生活をまかなうには心もとない金額でした。鈴木さんは夫を亡くした突然の悲しみに加えて、子供の将来の学費に対する心労が重なってしまい、体調を崩して入退院を繰り返す日々が続いており、養老保険に付いている医療特約からの保険で、なんとか治療費をまかなっているという状況です。

養老保険が3ヵ月後に満期を迎えるため、養老保険の再契約を依頼したところ、「現在は病気があるので、医療保険は特約をつけるのは難しい」と保険会社の人から言われているというのが現状です。

保険の考え方を再度確認

掛け捨て型の保険に入るぐらいならば、高くても後で返ってくる貯蓄型の保険にしたいという気持ちはよくわかります。しかしながら、保険を全て貯蓄性のあるものでまかなうには無理があるのもまた事実です。

ここではそもそもなぜ生命保険が必要なのかを、歴史にさかのぼって考えてみましょう。 もともと、生命保険の始まりは、中世ヨーロッパの都市で「ギルド」という同業者の人同士が集まり、生活に困ったときにお互いに助け合うために作られた組合が最初と言われています。例えば、農家であれば、親が亡くなっても農地さえあれば商売を続けていけるため、それほど問題は起きませんが、商人や職人だと農家のようにはいきません。そこで、商人や職人などの同じ仕事をしている仲間どうしで仕事がうまくいかなくなった時のために積み立てておき、いざというときにお互いに助け合うため、みんなでお金を出し合っていたのが保険の始まりといわれているのです。そして、病気のときの生活費や死亡のときなどのお葬式代や遺族の生活するためのお金、事業に失敗した人に対しての原料を買うお金などに充てたそうです。つまり、ほとんど確率は低いものの確率はゼロではなく、もし起きてしまったときには自分ひとりでの負担がとても大きいものをカバーするためのものでした。

保険の考え方を図で表すと、以下の通りとなります。

【 図1 】

【 図1 】保険の考え方

この中で一番大事なのは、上の図のAの部分です。例えば、Bの部分については、保険でなくても貯蓄をしておけば、そこからカバーすることも可能です。もちろんBについても保険でカバーをすることも可能ですが、万が一のことが発生した場合でも、死亡や高度障害などに比べれば、その後の生活にそこまで大きな支障を与えるということではありません。しかし、Aの部分については、貯蓄でカバーすることは、相当なお金持ちでない限り不可能なのです。そこで、Aの部分については掛け捨てであっても少しずつお金を支払い、万が一のときには、みんなでカバーするという考え方なのです。

この考え方に照らし合わせてみると、鈴木さんはまずは最低限でもAの部分をカバーし、もしさらにBの部分についても余裕があれば、貯蓄性のある保険でカバーするという考え方が必要だったのです。

保険に入る前に、必ず自分の必要保障額を把握しましょう。

では、いくらぐらいの保障を考えればよいのでしょうか。今回の鈴木さんを例に必要な保障額を見てみます。以下の図をご覧ください。

【 図2 】 Aさん家族の必要資金累計表

【 図2 】Aさん家族の必要資金累計表

この図では、鈴木さん一家が将来にわたっていくらぐらい必要かを示しています。

35歳になって子供が生まれると、将来の養育費などで必要保障額が多くなり、鈴木さんに万が一のことがあった場合、4,000万円ほどのお金が必要となります。

その後は子供が大きくなるにつれて必要保障額も少なくなり、子供が独立する60歳の時点では278万円だけ足りないことになります。 この場合、35歳~45歳ぐらいまでの間は、万が一のときには将来のことを考えると、3,000万円以上のお金が必要となります。しかし、3,000万円を実際に貯蓄で準備するのは難しいので、この時期は保険でカバーする必要があります。逆に60歳であれば必要保障額は278万円に減りますので、保険でカバーしても良いですし、あるいは貯蓄で準備をすることも可能ということになります。

このように、家庭の大黒柱に万が一のことがあったときの必要資金額を把握しておくと、いつの時点でいくらぐらいの保険に加入をしておけば良いかがわかるのです。しかしながら、さきほどの鈴木さんを例に取ると、養老保険で受取ることのできる死亡保険金は500万円ですので、子供の養育費がまだまだかかる段階では、とても心もとない金額であったということがわかります。

「事故の確率が低い=貯蓄中心」は本末転倒

実は、鈴木さんのような保険のかけ方をしていても、問題が表面化することはほとんどありません。というのも、死亡や高度障害となる確率は「万が一」ですので、実際には何も問題は起こらず、満期保険金を受取ることのできる場合がほとんどだからです。しかしながら、何かがあったときに必要な保障額を得られないのですから、やはり非常に危険な保険の入り方と言え、これでは保険に加入している意味があまりないのです。万が一の確率でしか発生しない事象について、その危険を回避するためにこそ保険は重要な役割を果たすわけですから、掛け捨てに抵抗があるという理由だけで貯蓄のみの保険で対応しようとすると、バランスの悪い保険になってしまい、それこそ本末転倒です。

まずは保険ありき、ではなく、万が一のときにはいくらぐらい必要かを考え、次にそのために保険で補うべきものは何かを考えてから選ぶ、という考え方を持つことが大事です。

執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信会社に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。

家族のライフプランとそのリスクを考慮に入れて、特徴を理解したうえで保険を選択して いれば、万が一のことが起きてしまっても、経済的なダメージを低く抑えることができま す。

掛け捨てであるからこそ、軽い負担で一定期間の大きな保障を確保できる定期保険が 、リスクに対する備えとして最も適切な選択である場合もあるでしょう。

まずは、万一のことが起きて、それまでと同じ収入が得られなくなった場合、その後、お 金がどれぐらい必要になるかを考えることから始めることが大切です。

そして、保険の特徴をよく理解して、万一の場合に家族にとって必要な金額が過不足なく保障される保険を お選びください。