住宅の購入は、消費税増税前がいいのでしょうか?


住宅の購入は、消費税増税前がいいのでしょうか?

宮塚 達夫先生 (みやつか たつお) プロフィール
  • 消費税だけに惑わされないようにしましょう
  • 住宅ローン減税を理解しましょう
  • 住宅は焦らず、慎重に選びましょう

竹田 香月さん(仮名 31歳 専業主婦)のご相談

結婚3年目の夫婦です。
現在賃貸マンション暮らしをしていますが、子供が大きくなったら手狭なので、広めのマンションを購入しようと思っています。探し始めて2か月目なのですが、結構いいなと思う物件がいくつか見つかり始めています。
しかし、現在の消費税率5%で購入するためには9月30日までに契約しないといけないと言われ、焦っています。
本当に9月30日までに契約した方がいいのでしょうか?
アドバイスをお願いします。

竹田 香月さん(仮名 31歳 専業主婦)のプロフィール

家族構成 : 夫 35歳 会社員
本人 31歳 専業主婦
長男 2歳
年収 : 700万円
貯蓄 : 1,300万円
物件価格 : 約4,000万円
予定頭金 : 500万円

消費増税額と住宅ローン減税額の相殺で、得な場合も損な場合も発生するので慎重に

消費税増税について

昨年8月に成立した消費増税法では現行の5%から平成26年4月に8%、27年10月には10%へ消費税を引き上げることになっています。実際に引き上げが行われるかどうかは、9月に発表される4~6月期の国内総生産(GDP)速報値の改定値などの景気動向を踏まえて、まもなく下される政府の最終判断を待つことになりますが、税率の違いが家計にも大きく響いてくるのは間違いありません。
消費増税法を見てみると改正後の税率は、「運用開始日以後に行われる資産の譲渡等、課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税について適用され、適用開始日前に行われた資産の譲渡等、課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税については、改正前の税率が適用されることになる」と難しい文言で書かれていますが、要するに平成26年4月1日以降に提供されるサービスや引き渡される商品等に新しい税率が適用されるということです。

当然普段使用するトイレットペーパーや洗剤、食用油などの日用品は置き場所や消費期限に問題がなければ3月中に購入した方がいいことになります。 ところが、例えば自動車の場合、26年1月に新車購入の契約をしても、契約した車が人気車種であるため納車が4月になってしまえば、8%の税率になってしまいます。修理でも同様です。3月に修理に出した車が4月に戻ってきた場合でも、やはり8%の税率になってしまうので、注意が必要なのです。 そこで、適用開始日以後に行われる資産の譲渡等のうち一定のものについては、改正前の税率を適用することとするなどの経過措置が講じられており、今回竹田さんが購入を検討している住宅がその一つなのです。

9月30日とは?

人生最大の買い物、マイホーム。不動産業界では消費増税前のビッグチャンスを逃すまいと必死の売り込み作戦を展開していますが、自動車の場合と同様に、せっかく増税前に住宅を購入しても、建物の引渡しが施行日以後になると新税率が適用されてしまうから、引渡し時期は本来とても重要なのです。
しかし、注文住宅の場合には、平成8年10月1日から平成25年9月30日(指定日という)までに請負契約を結んでいれば、建物の引渡しが施行日以後になっても旧税率が適用できるという経過措置があるのです。今回竹田さんが、業者から9月30日までの契約を急がされている理由はこのためなのです。

注文住宅とは?

ここでいう注文住宅と認定されるための契約は「建物の譲渡に係る契約で、当該建物の内装若しくは外装又は設備の設置若しくは構造についての当該建物の譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物に係るものを含む」とされています。

「建物の譲渡を受ける者の注文」とは、次のような区分に分けられています。

建物の内装 畳、ふすま、障子、戸、扉、壁面、床面、天井等
建物の外装 玄関、外壁面、屋根等
建物の設備 電気設備、給排水又は衛生設備及びガス設備、昇降機設備、冷房、暖房、通風又はボイラー設備等
建物の構造 基礎、柱、壁、はり、階段、窓、床、間仕切り等

※1 注文の内容、注文に係る規模の程度及び対価の額の多寡は問わない。
※2 その注文が壁の色又はドアの形状等の建物の構造に直接影響を与えないものも含まれる。

つまり、ほんの少しのオプションがついていれば、経過措置が適用される注文住宅となりうるのです。何のオプションもついていない住宅など無いのが現状です。
事前にモデルルームを公開して、マンションの完成前に売買契約を締結する、いわゆる青田売りマンションでも、壁の色やドアの形状について、ほんの少しの特別の注文(いわゆるオプション)をつけられるようにしておけば、たとえ標準仕様で購入したとしても、それは購入者が標準仕様という注文を付したことになるので、9月30日までに契約をしていれば、経過措置が適用されます。

竹田さんの増税価格

さて、今回竹田さんが4000万円のマンションを購入した場合、増税前と増税後に購入した場合の消費税はいくら違うのでしょうか?マンションの価格は土地と建物の価格に分けることができるので、仮に土地と建物が同価格で、2000万円ずつだとします。土地には消費税がかからないので、建物価格の2000万に消費税がかかってくることになり、税額はこのようになります。

5%の消費税 100万円
8%の消費税 160万円
10%の消費税 200万円

その他、不動産会社に支払う仲介手数料、司法書士の手数料、金融機関の融資手数料なども増税になります。
つまり、来年の4月から消費税が8%になった場合、今年の9月30日までに契約すれば、引渡しが来年の4月以降になっても、最低でも60万円(160万円-100万円)は消費税を安くすることができるのです。

マイホームを購入するのは「今でしょ」?

では竹田さんは今回のマンション購入にあたって9月30日までに駆け込み契約をするのが最適な選択かというと、必ずしもそうではありません。
政府が消費増税による住宅購入者の負担増を軽減するため、住宅ローン減税を拡充するからです。現在の住宅ローン控除の制度では、住宅ローンの年末借入残高の1%を限度に年間20万円上限、10年間で最大200万円が控除されますが、平成26年4月から平成29年12月までに取得した場合の最大控除額は、年間40万円上限、10年間で400万円に拡充されるのです。

認定住宅(長期優良住宅・低炭素住宅)を取得した場合も、10年間で300万円から500万円にそれぞれ拡充されます。年収510万円以下の中低所得者向けには、現金給付もあるのです。
住宅ローンの金額や所得等によっては、増税後に購入した方が得する人もいるのです。

竹田さんの場合

竹田さんが4000万円のマンションを頭金500万円で、3500万円のローンを組んだ場合を考えてみます。金利は35年固定元利均等払いで2%と仮定します。 毎月の返済額が115,941円で、10年後の残債が27,354,264円になります。 現行の住宅ローン控除では年間20万円、10年間で合計200万円の控除を受けることができますが、新しい控除の制度を利用した場合、10年間で約309万円の税額控除を受けることができるのです。その差は109万円です。つまり、消費税の納付は60万円以上少なくすることができますが、税額控除を考えると逆に8%の消費税を払った方が、長い目でみればお得なのです。

因みに長期優良住宅の要件を満たす物件の場合はどうでしょうか? 現在の控除制度では10年間で約294万円の控除を受けることができ、一方新しい控除制度での金額は変わらないので、309万円との差額は15万円となり、この場合は消費税増税前に購入した方がいい結果になります。 このように、物件の構造やローンの組み方などによって、経済的負担の損得が変わってくるので、一概にどちらが得するとは決して言えないのです。

さいごに

竹田さんの場合、税理士などの専門家に相談して税金の損得勘定を把握することも重要ですが、一生に何度もない大きな買い物です。もちろん今検討している物件が、竹田さん家族にとって最良の物件ならば、早く契約しないと他の人の所有マンションになってしまうので、契約を急いだ方がいいに決まっています。しかし、目先の消費税に惑わされず、決して焦らないで、慎重に検討していただきたいものです。
因みに消費税の増税が決まった場合、交通機関の定期券や回数券、遊園地やコンサートの前売り券などは、間違いなく3月までに購入した方がお得なので、忘れないでおいてください。