自然災害で被害を受けたときや違法運転をした場合、自動車保険でどこまで補償されますか?


今回、回答いただく先生は…
 
井上 信一先生(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 車両保険は意外と各社で補償範囲が異なります
  • 地震・噴火・津波以外の自然災害は概ね補償対象ですが、水災の損害には要注意
  • 各種賠償保険では自然災害による被害が補償されない場合もあります

新木玲さん(32歳 仮名)のご相談

日常的に自動車が不可欠な生活なので、自動車保険にはもちろん加入しています。ですが、最近は被害の大きな自然災害が増えていて不安に感じることもあります。どういう場合に保険金がもらえ、どういう場合にもらえないのかを教えてください。
また、災害だけでなく、もし違反をして事故を起こしてしまった場合の補償はどうなるのでしょうか?義父母も仕事で運転していますが、高齢なのでそろそろ心配にもなってきました。

新木玲さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成 年齢等 日常的に運転をする者
本人 32歳、会社員
40歳、会社員
長男 5歳
義父 75歳、自営業者
義母 70歳、事業従事者

自動車保険では、自分(の車への損害や自分自身への死傷)より他人への損害賠償責任の方が幅広く補償されています。この違いをしっかりと理解しましょう

新木さま、ご相談ありがとうございます。
損害からマイカーを守るため、事故を起こしてしまった際の損害賠償責任に備えるため、自動車保険は欠かせないものです。ですが、いざというときに補償されるのか否かは、とても気になりますよね。自動車保険は、付帯できる特約の多様化もさることながら、昨今では基本的な契約プランによる補償内容も各社で差別化が進む傾向にあります。
車両保険を中心に、損害が生じる場合のケース例を想定して整理してみましょう。

車両保険の補償範囲と留意点

  1. ① 車両保険の契約プランの種類

    自動車保険において、全体的な保険料の多寡に最も影響するのは車両保険といえます。
    その車両保険でも契約プランにより、幅広い事故を補償対象とする『一般タイプ(一般条件)等』と、一部補償を対象外とする『限定タイプ(エコノミー)等』とがあります。また、『限定タイプ』からさらに補償対象を絞り込み、「相手車両との衝突・接触」等の事故だけに絞った『車対車タイプ』や、『全損のみカバータイプ』を設けている保険会社もあります。
    『限定タイプ』で補償されない事故として各社で共通するのは、電柱・ガードレール・車庫等への接触・衝突などの「自損事故・単独事故」です。このほかに、「車どうしの事故で相手が特定できない場合」、「当て逃げ事故(駐車中も含む)」、「墜落・転覆」、「自転車等との接触」も補償から外されるのが一般的ですが、細かくチェックすると、『限定タイプ』でも補償に含まれるなど、扱いが保険会社により微妙に異なっています。また、『限定タイプ』から「盗難」や「水災」を補償から外すか否かを選択できる保険会社もあります。

    車両保険はその補償範囲により保険料が大きく異なるので、自動車保険を検討する際には一番悩ましいところです。ただし、車両保険に加入する目的とは、マイカーに受けた損害で、全損(廃車)となった場合の買い換え費用や、部分損となった場合の修理費用(または買い換え費用の一部)の補てんです。
    補償を絞るかどうかの事故のポイントは概ね上記に例示したとおりですが、マイカーの車両価値や自身の運転テクニック、マイカーローン等の債務の有無、通勤や業務・日常生活での自動車の必要性や、運転する環境なども勘案して、必要となる補償範囲を判断していきましょう。
    例えば、法令による罰則規程や運転指導が厳しくなっているとはいえ、一時停止無視や信号無視、右側車線の逆走やながら運転など、まだまだ自転車等の運転マナーは低いと言わざるを得ません。自動車の専用帯と自転車の専用帯とが区分されておらず、かつ道幅の狭い道路を日常的に運転する機会が多い場合、ドライバー側が注意していても、自転車との接触でマイカーが損害を受けるリスクは低くはありません。少しでも「ヒヤリハット」を感じたことがあり、万一の際にマイカーの修理費用が気になるのでしたら、「自転車等との接触」が補償される保険商品を選ぶのが無難でしょう。
  2. ② 自然災害による被害への補償の有無

    上述のとおり、自然災害による損害については、一部例外を除き、『一般タイプ』と『限定タイプ』での補償の違いはありません(保険会社により水災を補償から外す等の設定をしない場合)。
    このような場合でマイカーに損害を受けた場合の一般的な補償内容は、以下の通りです。

    ●自然災害等による車両保険の補償内容

    自然災害等 補償の有無 留意点
    火災・爆発
    台風・竜巻 ※1
    洪水・高潮 ※1
    雹(ひょう)・霰(あられ)・雪
    地震・噴火・津波 × ※2
    • ※1:保険会社によっては、水災損害について、自宅の車庫など通常の保管場所では補償されず、旅行先やスーパーの駐車場など、通常の保管場所以外に駐車している場合に限定されるものがある。自宅・車庫での水災を補償対象としたい場合、「自宅・車庫での水災」等の特約を付加する必要がある。
    • ※2:どの保険会社でも、地震や噴火およびこれに伴う津波による損害は補償されない。補償対象としたい場合、「地震等による車両全損一時金特約」等を付加する必要がある。
    昨今、台風以外にも竜巻や強風、集中豪雨などの異常気象が多くなっています。また、これによる車両損害も、水没や土砂災害等による埋没など様々です。現状、車両保険での補償は、その要因となる自然災害の種類によって判断するのが原則的な考えです。国内において別格の扱いとなる地震や噴火による損害とこれを原因とする津波を除き、およそ発生し得る自然災害を直接的な要因として損害が生じた場合には補償されるものと考えておいて差し支えないと考えられます。

    しかし、注意しておきたいことが3つあります。
    まず、保険会社により水災補償に制約をつけている場合があることです。例えば、強風による自動車の横転損害は補償しても、水災による水没等について、自宅に駐車中の自動車については補償対象外とする保険商品も散見されます。火災保険でも同様ですが、損保商品では水災補償を付けるか否かが契約段階での重要なポイントとなることも少なくはありません。マイカーがどこで罹災するのかを想定することはできませんが、不安であれば罹災場所に制約のない保険商品を選んでおくのが良いでしょう。

    次に、大雨等の自然災害により、土砂崩れに巻き込まれたり、水没・冠水・浸水で損害を受けたりした場合は補償対象ですが、すでに発生していた土砂崩れの土砂に自ら突っ込んでしまう場合は自損事故(単独事故)の扱いとなります。運転ミス等で転落・転覆事故を起こした場合も、原因が自然災害でなければ取り扱いが異なります。よって、「単独事故」や「転落・転覆」を補償しない『限定タイプ』で契約している場合は注意が必要です。

    最後に、地震・噴火・津波による損害は、どの保険会社でも特約を付帯しなければ補償対象とはなりません。原因が地震等である限り、地震等によって被害が拡大したことにより損害を被った場合も補償されません。地震等では甚大かつ広範囲に渡る損害が生じる可能性を否定できないため、損保分野だけでなく生保分野においても保険金支払事由に一定の制約を設けています

    車両保険については、「地震等による車両全損一時金特約」等を付帯することは可能ですが、保険金支払事由が全損であること、そしてその場合の保険金の最高額が概ね50万円程度であるのが一般的です。火災保険に特約で付帯する地震保険にも同様のことがいえますが、地震による倒壊や津波による損害への補償については支払われる保険金の額に制約を設けざるを得ないのが現状なのです。
  3. ③ 法令違反等による事故への補償の有無

    車両保険では、運転者等の「故意」や「重大な過失」による事故は補償されません
    この「重大な過失」についての具体例として、薬物の使用や飲酒および酒気帯びの状態で運転していた場合が該当するのはイメージしやすいところでしょう。
    では、道路交通法等の法令違反による事故はどうでしょうか。ケースバイケースの可能性もありますが、「居眠り運転」や「スピード違反」、さらには「携帯電話を使用しながら起こした事故」などについては、「重大な過失」とみなされることがあります。いずれも注意をすれば防げることですが、その注意を怠った、またはしなかったとして「過失」の度合いが重い行為だとみなされるばかりか、不注意による過失ではなく「故意」と判断されることもあるので注意が必要です。
    認知症の方が起こした事故や認知症にまでは至らずとも判断能力の低下した高齢ドライバーによる事故の場合もケースバイケースとなります。保険金が支払われるか否か、やはり論点となるのは「重大な過失」に該当するかどうかですが、例えば、医師に認知症と診断され自動車の運転はやめるようにいわれていたにもかかわらず、免許更新時にその旨の申告や適切な手続きを怠っていた場合などは、補償対象とはならないと考えておくのが良いでしょう。

    なお、自動車の欠陥が原因の事故タイヤのみ破損損害の場合も、車両保険の補償対象外となります。
    また、事故時の運転者等の死傷を補償する「人身傷害保険」や「搭乗者保険」等の傷害保険分野の補償範囲も、概ね「車両保険」と同様となります。

加害者となってしまった場合の相手への損害賠償は?

運転者が事故を起こし、加害者となった場合には被害者に対して法律上の損害賠償責任が生じます。
この損害を補償する保険が、強制加入で対人賠償のみを補償する「自賠責保険」、および自動車保険における「対人賠償保険」や「対物賠償保険」です。
各種賠償保険では被害者救済の考え方により、運転者等の保有するマイカーの損害や運転者等自身の死傷損害よりも補償が幅広いのが特徴です。運転者等の飲酒運転等の各種法令違反や無免許運転などの「重大な過失」に起因する事故も補償されます。認知症等の無責任者の引き起こした事故も補償されるのが、現在では一般的となっています。
また、車両保険のように保険会社間での補償内容に差がないので、商品選びに迷うようなこともないでしょう。ただし、運転者等の故意による事故は補償されません。また、「地震・噴火・津波」を原因とする場合だけでなく、「台風・洪水・高潮」による事故の場合も補償されません。これらの災害のもとでは運転者等の法律上の損害賠償責任が生じないものと考えられているからです。賠償責任がなく賠償額も計算できないのですから保険金を支払えないという訳です。
なお、たとえ法律上の損害賠償責任を負っても、自賠責保険においては自賠法に定める運行供用者に対する賠償責任対人・対物賠償保険では配偶者・父母・子に対する賠償責任は補償対象外となります。

近年、自動車保険も各社で多様化しています。特に車両保険分野の補償内容は意外と各社で異なっているので、保険を検討する際には、とくに車両保険の補償範囲の違いに注意すると良いでしょう。ただし、実際に事故が起きた際に保険金が支払われるかどうかはケースバイケースとなることも少なくはありません。
どのような状況で事故の当事者となるのかは保険の契約時点で予測することができませんし、マイカーへの愛着の度合いは他人が図れるものではありませんが、車両保険で補償される保険金は、最大でも被保険車両の買い換え費用に留まるものです。これに対し、他人の身体や財物に対する損害賠償責任の重さ、そして賠償額の大きさは場合によっては比較にならないものになります。自動車保険を検討する際には賠償保険の保険金額を軽視せず無制限補償等で設定することが肝要です。その上で、全体的な保険料の多寡も考慮し、車両保険等の補償範囲を選ぶ順で考えましょう。
幸いにも自動車保険の保険期間は生命保険のように長期には渡りません。年単位または数年単位の更新のつど、自身の運転状況や運転環境を振り返り、補償対象を検討していけば良いと考えます。何より、ハンドルを握るときは事故を起こさぬよう、常に細心の注意を払い、安全運転を心掛けることが重要でしょう。

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