加速する高齢期の応能負担(医療・介護) ~令和6年度年金額2.7%増も焼け石に水


高齢者はもちろん、これから高齢期を迎える人にとっても公的年金額の動向は気になるところですが、暮らしの中での物価高に加えて、令和6年度は収入が一定額以上の人の介護・医療関係の負担が増える「応能負担」のしくみが加速します。そこそこ収入が高い人こそライフプランニングが必要な時代になってきました。
少子化で子育て世代への対策が進むなか、これから長い高齢期を迎える世代も気持ちを引き締めて、自身の未来像を見据えた家計管理が求められます。

今回は、毎年1月に厚生労働省が公表する年金額の推移と、25年前から増えていない年金額と今後高齢期に予想される保険料の支出増を取り上げてみます。私たちをとりまく環境の変化に気付くことからスタートです。

人口減少と高齢化が予想されるなか、社会保険を支えるためジワジワと負担増の検討が始まっている。支える人の減少で50代からセカンドライフ対策は必須かも!

平成12年度からほぼ同水準の年金額は、令和6年度に2.7%増(前年度比)

国から支給される年金額は、物価や賃金などの変動により毎年度改定されます。原則、年金を受給し始める者(新規裁定者・67歳以下)は賃金、年金を受給している者(既裁定者・68歳以上)は物価の変動率で改定。併せてマクロ経済スライドで調整します。

マクロ経済スライドとは、年金制度維持のため被保険者の変動と平均余命の伸びに基づき年金額の増額を抑制(調整)する制度(平成16年改正により導入)。令和6年度は本来の改定率3.1%より0.4%低い2.7%で改定。

主な年度の新規裁定者(67歳以下の方)の年金額(月額)の例と保険料(月額)の推移
国民年金※1
老齢基礎年金
(満額1人分)
国民年金の保険料(月) 厚生年金※2
夫婦2人分の老齢基礎年金
を含む標準的な年金額
厚生年金の保険料率●※3
本人=●×1/2
平成12年度 67,017円 13,300円 238,125円 17.350%
平成17年度 66,208円 13,580円 233,300円 14.288%
平成27年度 65,008円 15,590円 221,507円 17.828%
令和2年度 65,141円 16,540円 220,724円 18.300%
令和4年度 64,816円 16,590円 219,593円 18.300%
令和5年度 66,250円 16,520円 224,482円 18.300%
令和6年度 68,000円 16,980円 230,483円 18.300%
令和7年度 17,510円
  • ※1 令和6年度は、昭和31年4月2日以降生まれ(68歳以下)の金額です。
  • ※2 平均的収入で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))
  • ※3 平成17年度・27年度は9月1日~の厚生年金の保険料率は、平成16年から段階的に引き上げられ29年9月から18.300%で固定(第2号・第3号厚生年金被保険者は平成30年9月に18.300%に固定、私学共済加入者は令和9年4月から同率に固定)

※参考(2024年2月14日時点):厚生労働省 年金額の改定等から抜粋

日本の人口は減少、高齢化率は増加 ~将来推計人口(令和5年推計)

日本の総人口は、2020年の1億2,615万人から50年後の2070年に8,700万人へ減少、高齢化率は28.6%から38.7%に増加。前回推計と比べ、将来(2070年)の出生率は1.44~1.36に低下、平均寿命は延伸。外国人の入国増加で総人口減少は緩和の統計がでています。15歳~64歳人口の減少は、税収入と保険料収入に関係します。

日本の人口の推移

日本の人口の推移のグラフ

※出典(2024年2月14日時点):厚生労働省 第3回社会保障審議会年金部会 資料3

増え続ける社会保障給付費 ~2023年度予算ベース 134.3兆円

社会保障給付費は年々増加、2023年(予算ベース)で134.3兆円(対GDP比23.5%)。今後増える高齢者と支え手の減少は、高齢者も他人事ではありません。

社会保障給付費の推移

社会保障給付費の推移のグラフ

※出典(2024年2月14日時点):厚生労働省 社会保障給付費の推移

65歳以上(第1号被保険者)の介護保険料と見直し内容

介護保険料は3年に1度見直しされます。介護給付費の増加が予想される65歳以上の保険料を原則「標準9段階を13段階」に改めることが決まりました(令和6年度~)。実際の段階・金額は、各市区町村の65歳以上の所得や年齢構成等で異なります。原則13段階幅への広がりで、低所得者の負担が軽減、高所得者の負担が増加します。

保険料段階数別の保険者数(第8期・令和3~令和5年度) 実際は10段階以上増
段階数 9 10~13 14~18 19~25
保険者数 751 654 162 4 1571
第1号被保険者の保険料の推移(基準額の全国加重平均)~徐々に負担増加
第1期 第2期 第7期 第8期 第9期
2,911円 3,293円 5,869円 6,014円
  • ※被保険者数は、令和5年度厚生労働省老健局介護保険計画課調べ(令和5年4月1日現在の状況により報告)

※出典(2024年2月14日時点):厚生労働省 第110回社会保障審議会介護保険部会の資料について(参考資料1)

第9期における原則13段階における標準乗率、公費軽減割合、基準所得金額等

第9期計画期間における、標準段階、標準乗率、公費軽減割合、基準所得金額等の図

※出典(2024年2月14日時点):厚生労働省 第110回社会保障審議会介護保険部会の資料について(資料1)

能力に応じた75歳以上の保険料の見直し(改正健康保険法・令和5年5月成立)

後期高齢者医療保険制度の保険料は2年ごとに見直されています。対象者は75歳以上(一定の障害がある65歳以上含む)で、金額は都道府県で異なり令和6年度・7年度から段階的に見直されます。負担が増える人は年収が153万円超の人です。
保険料は、「均等割額」と「所得割額」の合計で決定します。

均等割額※1:被保険者全員均等に負担。所得割額※2:被保険者各々の前年の所得に応じて負担。年金収入-(年金控除額110万+基礎控除額-43万=153万)=● に応じて負担。年金収入のみで、153万以下なら負担なし。保険料:年100円未満切捨。段階的に上限引き上げ。令和4・5年度67万円→令和6年度73万円→令和7年度80万円

見直しのポイントは、世代間の不公平感を是正するために①出産育児一時金が令和5年4月から42万円→50万円に増額、②保険料の上限額を2年間で段階的に引き上げの2点です。

見直しで変わる1人当たりの保険料額(2年間)の影響を収入別に試算
年収80万 年収200万 年収400万 年収1,000万
R4・R5 14,300円 82,100円 205,600円 660,000円
制度改正前 R6・R7 15,100円 86,800円 217,300円 670,000円
制度改正後 R6 15,100円 86,800円 231,300円 730,000円
制度改正後 R7 15,100円 90,700円 231,300円 800,000円
  • ※本推計は、一定の仮定において実施。相当程度の幅を持って参考にしてください。
    年収80万・200万円は、単身、年金収入のみをモデルで試算。

※出典(2024年2月14日時点):厚生労働省 医療保険制度改革について

収入が年金のみの厚生年金(第1号被保険者)の男性の平均年金月額167,388円(≒年200万円)の場合、約4,000円保険料増です。

参照(2024年2月14日時点):厚生労働省年金局 令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況

まとめ

今回は主に保険料の増加についてお話ししました。医療や介護サービスを受けるときの負担も当然に増える傾向です。老後を悔いなく過ごすには世の流れをいち早く受け止め過去に捉われない感性と生き方が求められそうです。