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NISAの口座を開設したら、現在保有している株式はどうすれば?
また具体的な商品選びに迷います。
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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岡田 洋一さん(仮名 45歳)のご相談
すでにNISA口座は開設済みです。現在株式投資や投資信託などを運用しているので、NISAも活用したいと思っています。ただ、資金にそれほど余裕があるわけではないので、現在保有していう株式は売った方が良いのでしょうか。また、NISAでどの商品を保有しようか迷っているのでアドバイスをいただきたいです。
岡田 洋一さん(仮名 45歳)のプロフィール
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保有株の売却は取得時の目的に照らして時期を検討。
NISAでの運用は損失を出さないようリスク分散を。
NISAでの運用は損失を出さないようリスク分散を。
1.保有目的によっては、税率よりも目的が優先する場合があります
岡田さん、こんにちは。いよいよ来月からNISAがスタートします。以前別の方に回答させていただいたご相談事例(平成25年6月)をご覧下さったとのこと、ありがとうございます。岡田さんはすでにそれなりの投資経験がおありですので、非常に興味を持たれるところだと思います。同時に年内で終了する軽減税率が適用できるうちに売却を検討するのももっともなことです。
現在岡田さんの運用状況を整理すると以下のようになっています。
【岡田さんの株式運用状況】(単位:円)
株数 | 購入時株価 | 現在株価 | 損益 | 購入目的 | |
A社株 | 200 | 1,050 | 1,550 | 100,000 | 売却益 |
B社株 | 100 | 5,100 | 4,900 | -20,000 | 売却益 |
C社株 | 200 | 1,450 | 3,000 | 310,000 | 配当 |
D社株 | 200 | 3,850 | 2,500 | -270,000 | 売却益 |
合計 | 120,000 |
まず、税金が2倍になるということは、年内に売却した手取りと同じ額を得るには、さらに値上がりする必要があります。たとえばA社株であれば、売却額322,500円(株価1612.5円)にならないと税引き後9万円の手取りにはなりません。
年内 (1550-1050)×200×0.9 = 来年(K-1050)×200×0.8
K=1612.5
来年だと、1612.5円以上で売却しなければなりません。
※計算のイメージがわかりやすいように、試算では復興特別所得税は考慮していませんが、実際は復興特別所得税(所得税額×2.1%)がさらに差し引かれます。したがって所得税額が増えれば復興特別所得税も増えることになります。
このように個々の銘柄ごとに税額を比較するなら、収益が出ているものは年内に売却したほうがオトクということになります。
ただし、岡田さんがこれらの株式を購入した時の目的を思い出してください。B社株は配当が良いということで購入されています。ということは、おそらく今後も保有していたいという気持ちがおありではないでしょうか。
もし継続保有の気持ちがありながら、一旦利益確定のため売却したとしましょう。31万円(税引き後27万9千円)という売却益が出ますが、その後もう一度買い戻したいという時に現在の株価は当初購入時の倍以上になっています。つまり買い戻すには60万円の資金が必要になります。資金的に買戻しが難しいようであれば、敢えて売却せず継続保有という考え方もあります。
A社株の場合は売却益が目的ですから、10万円(税引き後9万円)の収益で目的を達せられたのであれば税率10%の時に売却し、来年に向けて資金化しておくというのも選択肢となります。
ちなみに損失が出ているものについては、年内であろうが年明けになろうが課税されませんので、慌てて年内に処分する必要はないでしょう。ただし、B社株の場合、
と見込める(期待する)のであれば、多少の損切りにはなりますが、NISA用に資金化するという考え方もできます。(損益通算すれば、税金も少し軽減されます)
このように、単純に税金の損得だけでなく、売却した後にどうしたいのかも重要な要素ですので、その点につき岡田さんがどのようなスタンスで臨むのか、今一度自分自身に問うてご判断いただきたいと思います。
2.NISAのしくみを考えると、少額の資金で投資することも賢い活用法です
6月のご相談事例でもご説明させていただいておりますが、NISAの最大の留意点は「NISAでは損失は無いものとみなされる」ことです。投資経験のある岡田さんであれば、それがどれだけ重要なことかはおわかりでしょう。もちろん投資ですから損失を出すケースも少なくありません。したがってハイリスク・ハイリターンを好むのでなければ、どれだけ収益を上げるかよりも、どれだけ損失を小さくするかにこだわるほうが賢明です。
できるだけ購入単価を平準化し、高値買いのリスクを軽減させる積立投資は有効な手段です。資金に余裕がなければ毎月1万円ずつ、日経平均株価やTOPIX連動型のインデックス投資信託で値動きがわかりやすいと、万一値下がりの際も早く対処できます。もう少し資金を出せるのであれば、少しリスクを負いつつリターンにも期待するアクティブ投資信託や分配狙いのREITなども組み込むと分散投資が実践できます。
また一度に非課税枠を使いきってしまうより、余裕を持っておくと、新たに投資したい商品が出ても購入することができますので、資金がないと意味もないという制度では決してありません。
3.NISA口座だけで完結させようとしないこと
NISAでどのような商品を購入しようかと考える時、NISAだけではなく、他の資産(特定口座、一般口座、預貯金など)とあわせてトータルで検討することが重要です。
岡田さんの場合、安全資産として預貯金や国債、年金財形など、投資性資産として個別株式、インデックス投資信託などをお持ちです。したがって分散投資の意味から、リスクリターン度合いやタイプの異なる商品などをNISAで購入するという考え方があります。
まだ40代ですし、今後資産を増やしていく必要もあるかと思います。増やすことが目的であれば、少し積極的な運用を目指しているアクティブ型投資信託、分配狙いであればREITなども選択肢となるでしょう。この場合も前述のように1万円ずつ1本~5本程度の投資信託で分散するとリスク軽減効果もあります。REITの場合は分配の高さだけにとらわれず、本体の企業の健全性もチェックしてください。
毎月分配型も人気ですが、再投資せずに支払われるため複利効果は望めません。また毎月分配型で高い分配金を出すものはリスクも高いので、資金に余裕がないのであれば無理しないことをお勧めします。ちなみに投資信託の特別分配金は、元本の一部払い戻しに相当するし、収益ではないためそもそも非課税です。したがって特別分配金が続くような運用の投資信託はNISAで保有する意味がありませんし、そのような運用では、おそらく損失を被るリスクも高いので避けましょう。
配当や優待狙いの場合は、値動きが比較的安定しているものや株価の割高感のないものを探してください。
4.非課税期間終了時の価格に要注意!
最後にNISAのもうひとつの留意点をお話しします。非課税期間が終了する時、他の口座への移管やロールオーバーの際、取得価格はその時の時価とみなされることです。例で見てみましょう。
【例1】は、購入時に1万円で100口購入した投資信託を、非課税期間終了後、ロールオーバーや特定口座に移管したケースです。移管時の基準価額は1万2千円になっており、その後1万3千円まで値上がったところで売却します。すると本来は1万円で購入したものを1万3千円で売却ですから30万円(3千円×100口)の収益のはずが、10万円(千円×100口)の収益だったとみなされます。ロールオーバーであれば非課税口座ですからもちろん非課税です。課税口座であれば、6万円徴収されるところが2万円で済んでしまいます。
一方、【例2】は、購入時に1万円で100口購入した投資信託が値下がりし、基準価額7千円で移管、その後購入時価格の1万円まで戻ったところで売却したものです。本来は購入価格に戻っただけですから収益はゼロですが、7千円で購入し1万円で売却したことになり30万円(3千円×100口)の収益があったとみなされてしまいます。ロールオーバー期間であれば非課税で済みますが、課税口座であれば、収益ゼロにもかかわらず6万円徴収され、税金の分元本割れすることになります。
ロールオーバー期間中であればこのようなケースはいずれにしても非課税ですが、手取りは明らかに減ってしまいます。さらにロールオーバー終了時には後がありませんので、上記のように特定口座や一般口座に移管して必要以上に課税されてしまうことになるのです。
したがって非課税期間終了後まで損失が生じそうであれば、できるだけ小さな損失で済むよう、早めの損切りを心がけるなど、これまで以上に売り時に気を配っていただきたいと思います。
5.おわりに
NISAは上手に活用できれば大きなメリットとなる反面、損失を出した時は従来以上にダメージが大きくなります。逆に損失が出た時は従来の課税口座のほうが救済手段がある分安心です。ハイリスク・ハイリターンの商品で大きな利益を非課税にしたいからNISA、逆に損失も大きい可能性があるから課税口座、とどちらにも一理あります。
このようにどちらの側面から臨むかによってまったく違うスタイルとなるでしょう。
岡田さんのスタンスをまず明確にし、そのためのリスク管理(低リスクの商品で運用する、損切りルールをしっかり守るなど)を心がけて臨んでください。なおNISAがスタートしても、慌てて売買したり、周囲の動向に左右されないよう、冷静に市場を見ていきましょう。NISAだからといって特別なことをするわけではありません。むしろ今まで以上にリスク管理をしていけば良いのです。