第7回:金銭感覚と整理収納力


最近、「若者が自分の部屋を片付けられなくなった」という話をよく耳にします。念入りに化粧して、高級ブランドの時計を腕につけ、ヘアースタイルにも気を使う。そんな若い男女が、自分の生活の場である部屋を整理・整頓できないという、つじつまのあわない現象が、今、話題となっているのです。実は、そういう若者は、お金の管理にもルーズであるという傾向があります。必要なモノと不必要なモノとを判別して、整理・整頓する習慣が身についていると、モノを買うときにも、必要なモノと不必要なモノの判別がきちんとできる、つまり、上手なお金の使い方ができるのです。
経済教育については、数年前から、文部科学省も学校現場での指導を促す方針を打ち出しています。そこで、総合学習の時間を利用して、取り組みを始めました。とはいえ、整理・整頓と並んで、金銭教育もまた家庭でのしつけこそが大切なのです。
家庭と学校とが時には連携しながら、双方の教育の相乗効果を期待しての取り組みが求められています。

整理・整頓が金銭感覚を養う第一歩

今の子どもたちは、豊かなモノに囲まれて何不自由なく育っており「落し物をしても取りにこない」「物を大切にしない」「たくさんのお小遣いをもらうが、労働の尊さや厳しさがわからない」などといわれます。モノがなに不自由なく手に入り、豊かな時代に育った子どもたちには、小遣いという限られた金銭を、一カ月単位で計画的に使うという経験が乏しいのです。自分で使うことのできる金銭には限度があること、そして一定の範囲内で計画的に金銭を使うことの重要性を子どもたちに気づかせることが、健全な金銭感覚を育てるうえで、最も大切なポイントなのです。

昨今の子どもたちへの金銭教育の現状をみると、小学校の家庭科の授業の中で、日常の生活への興味・関心をもち、生活をより快適にすることをねらいに、衣・食・住という人間の基本的な生活必需品を備えるために必要なお金の取り扱い方について学習しています。特に、身の回りのモノや金銭の計画的な使い方と買い物を中心に、

  • (1) 時間の有効な使い方
  • (2) 身近に使うモノの手入れ・整理・整頓の工夫
  • (3) 環境に配慮した日常生活の工夫

を意識して、子どもたちに健全な金銭感覚を身に付けさせ、モノを大切にし、資源を大切にする心を育てるなど、大げさにいえば、環境と経済を調和させるライフスタイルを子どもたちに教えようというわけです。身の回りのものを整理・整頓する能力こそが、金銭感覚、つまり、お金の「出」と「入」をしっかり自分で管理する能力と表裏一体の関係にあるのです。

キッズ・ジュニア・ファイリングで「片付け術」を学ぶ

子どもの金銭教育の土台となる、整理・整頓の力を養うことをねらいに、整理収納アドバイザーの小野裕子さんは「キッズ・ジュニア・ファイリングゼミ」を実施しています。「自分の身のまわりの整理・整頓を習慣づけることで、金銭感覚も必ず身につきます」と小野さんは断言します。ファイリングとはルールを決め、それに従って収納することです。もともと小野さんは、事務機メーカーの研究所に20年間勤務し、ファイリングの指導をしていました。独立後は、個別アドバイスを基本に、講演活動にも余念がありません。

整理する場所は学習机の周辺、特に引出しの中です。教科書や参考書、文房具、本、問題集、プリント、テスト、塾の資料など、学習机の周りには紙類や文房具がいっぱいあります。そこで夏休みを利用して、小学4年生のA君に小野先生が指導をしているところに潜入しました。

  • ステップ1:(現状把握)どんなものがどこに入っているのかを確認する。
  • ステップ2:(取捨選択)要るものと要らないものとを判別する。
  • ステップ3:(リユース・リデュース・リサイクル)要らないものを処分した上で、残ったものの整理にかかる。
  • ステップ4:(定位置管理)それぞれの机の引き出しや棚の使い方を決める。そのとき、利用頻度、使い勝手、収納量などを考える。
  • ステップ5:(大分類)整理をするものを大きな内容(かたまり)ごとにまとめる。
  • ステップ6:(中身の内容表示)ファイルや箱などを使って収納。そのときに、見出しにタイトルを付ける。
  • ステップ7:それぞれのものを決めた場所に収納する。

こうして、A君の書類はスッキリ片付きました。

A君の大分類は(1)教科書・ノート、(2)自宅での勉強用の文具、(3)テスト、プリント、そして(4)思い出。収納ファイルにこの4つのタイトルをつけます。この大分類から、今の生活が見えてきますね。分類することには、結構、楽しさもあり難しさもあるのです。

分類のポイントとしては以下の4点に気をつけます。

  • 1 未決と既決を区別する。
  • 2 あまり重くならないようにする。同じグループで量が多い場合は分ける。
  • 3 収納するときは分類と序列を考える。
  • 4 大切なものを収納するところを必ずつくる。

小学4年生のA君は見違えるようになった自分の机の周りを眺めながら、「足りないものと余っているものが自分で判ったのがよかった。そして、大切な『思い出』をひとつの箱にまとめられたことが嬉しかった。これは、お金では買えない大切なもの」と満足そうでした。

グローバル化が進む中でどうしつけ、どう教育するか

金銭教育に取り組む学校が増えています。とはいえ、日本では「子どもはお金のことを口にしてはいけない」とか「子どもの前でお金の話はしてはいけない」などのタブーがあり、いまだに金銭教育に抵抗の声があるのも事実です。しかし、21世紀をむかえ、経済のグローバル化がますます進捗するなか、世界の先進諸国と発展途上諸国の棲み分け、世界市場での製造業の熾烈な競争、二酸化炭素排出権を売買する取引市場の形成など、グローバル化した経済の仕組みが、今後、錯綜化を極めることは疑いを入れません。将来を担う子どもたちに、グローバル化した経済の仕組みを理解させることは必要不可欠なのです。小学校低学年の子どもたちの金銭教育は、そのための「入口」なのです。中学生の子どもたちには、投資教育や起業教育が経済教育の「入口」になります。ともすれば、入口に立ち止まったままで、経済教育をやり終えたように考える先生方も少なくないようですが、やはり経済の仕組みにまで踏み込んでもらわないと、全うな経済教育にはなりません。

小学生向けの金銭教育とは、お金やモノの価値や役割について理解させることです。どのようにしてお金が手に入るのか、そしてお金を何のために使うのかを、子どもたちに身近な具体例を使いながら分からせて、子どもたちに良い意味での金銭感覚を身につけさせるのです。お金やモノを大切にすることは、学習机の周りを整理・整頓することと同じことなのです。なぜなら両者とも、定めたルールに従うこと、習慣を身につけること、そして無駄を省くことが基本だからです。

中学生向けの金銭教育は、子どもたちの誰もが興味をもちそうな株式投資や起業などのゲーム感覚を入口にして、グローバル化した市場経済の仕組みを理解させるまで、展開させなければなりません。

高校生向けの経済教育となると、アメリカでは、日本の大学での経済学入門講義のレベルを、ある意味では、はるかに上回っています。市場経済の仕組みについて、理論的な知識が十二分に教えられるのです。アメリカの初等中等教育では、ディベートとプレゼンテーションがつきものです。理論を教えられた生徒たちが「へえ、ふーん」というだけではなく、その理論を用いて時事的な問題や、自分が日ごろ不可思議に思っていることを解釈してみせ、それをプレゼンテーションさせる。それを聴いた他の生徒たちは「その解釈はおかしいよ」だとか、「こんな解釈もあるんじゃないの」だとか、さんざん議論(ディベート)をします。

経済とは、とりわけつかみどころのない代物です。およそこの世で、経済と無関係なものなど、ほとんどあり得ないといっても言い過ぎではありません。ですから、経済の知識はとても幅広なのです。その知識を頭の中でファイリングしておかないと、議論の最中に、レレバント(適切)な知識をとっさに取り出して、相手を説き伏せることはできません。また、新聞記事やテレビのニュースの意味を理解するためにも、レレバントな知識の入ったファイルをいくつか取り出し、それと照らし合わせれば、ニュースの骨子と意味を正しく理解できるのです。

金銭教育の「はじめの一歩」は整理・整頓力

このように知識というのは、詰め込めばそれでいいわけではありません。頭の中に知識を詰め込むことは、もちろん必要です。でも、詰め込んだ知識が、頭の中でファイリングされていないといけないのです。インフォーメーション・リトリーバル(情報検索)という言葉があります。頭に詰まった知識(=情報)を、臨機応変、いかにして取り出すかが勝負なのです。会議の席上、座談会でのディベートの場において、レレバントな知識を、頭から引き出せるかどうかが決め手となります。「あの人は頭のいい人だ」とか「あの人と議論したら、いつも説き伏せられる」といわれる人は、要するに、知識のファイリングが整っている人なのです。

日本で金銭・経済教育を普及・浸透させるためには、整理整頓という家庭でのしつけと小中高校の家庭科の時間や総合学習の時間を活用して、その力を発揮できる場所を提供していただき、経済教育のきっかけになることを願います。

執筆:執筆:泉美智子(いずみ・みちこ)
子どもの経済教育研究室代表。
経済絵本作家として活動しながら私立大学(子どもの生活経済論)の講師を務める。主な著書に「調べてみようお金の動き」岩波書店、「はじめまして!10歳からの経済学」ゆまに書房、「日本経済学園指定教科書」日本経済新聞出版社ほか。児童文学者協会会員。

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