第8回:地域でつくる子どもが主役のまち「Kids Town」


「Kids Town」が千葉県松戸市にある流通経済大学新松戸キャンパスの施設を利用して2007年10月7日(日)に開催されました。

「Kids Town」とは、「子どもたちがつくるまちで」、「働いてお金を稼ぎ」、「自分が稼いだお金を使う」、という経済活動を体験することができるイベントです。(社団法人)松戸青年会議所主催ですが、今年は(NPO法人)日本FP協会の共催により子どもの金銭教育という色が加わりました。今年で3回目を迎える「Kids Town」は、松戸市内の各小学校にチラシを配布して参加者の募集が行われ、抽選で選ばれた子ども500名、大人200名の参加となりました。

まずは「Kids Town」の市民になってから

当日は晴天にも恵まれ、幸先のよいスタートです。参加者が多いため、受付時間を9:00、9:30、10:00の3回に分けて行われました。受付を済ませると子どもと親は別々に行動します。子どもたちは「Kids学校」の教室に行き、まちのしくみやルールを学びます。親はまちの人として買い物をしたり消費者となります。ここからは、親子でもよほど探さないと自分の親とも会いません。ルールは子どもばかりでなく、大人にもあります。「ただ見守る」ことです。つまり、大人はアドバイスをしてはいけないのです。このルールが「Kids Town」では重要な役割を果たしています。子どもたちは大人に頼ることはできないため、仕事を探して決断するのも、仕事中にお互いが協力するのも、自分たちで行うことになります。子どもたちは「Kids学校」の教室で、仕事の探し方、働き方、「Kids Town」専用通貨「ドラ」のもらい方、ルールなどの説明を受けたら、配られた市民証を持って「Kids Town」へ繰り出します。

仕事は自分で探す!

子どもたちは、まず仕事を探しにハローワークに行きます。ハローワークでは、就職や離職の管理などを行っています。職業が書かれたカードが、それぞれ必要な人数分だけ用意されているので、子どもたちはカードがあるかないかを見て、その時に働くことのできる仕事がすぐわかります。ハローワークは、仕事を探す子どもたちでいっぱいです。仕事は、やきそばなど食品の販売、調理の他に、万華鏡やアクセサリーの製造、それを売るデパート、警察、清掃などの役務系や、似顔絵、マッサージのアミューズメント系まで33種類もあります。たくさん仕事の種類があっても、仕事をすぐに見つけられる子もいれば、なかなか仕事が決まらない子もいます。親は近くにいないので、親に「この仕事やってみたら」なんて言われることはありません。ここでは自分で考えるしかないのです。こうして仕事のカードを手にできれば、さぁ仕事が見つかりました。さっそく職場に向かいます。

それぞれの職場では、子どもたちはスタッフに教わりながら一生懸命働いています。お昼時になると、やきそばやフランクフルトなどはお店に並べるのが間に合わないほどの盛況で、お客さんの列ができていました。調理する子どもたちも大忙しです。フランクフルトひとつとってみても、調理する人、調理場からお店に持っていく人、お店で売る人、お店でお客さんの注文を受けてケチャップやマスタードをつける人、と何人もが協力して仕事をしています。そして売れた時には「ありがとうございます!」とやりとげた顔を見せてくれます。

こうして仕事(それぞれの仕事は30分~1時間くらい)をした後は、最初にもらった市民証に終了のハンコをもらいます。これを持って銀行に行くと、専用通貨「ドラ」をもらうことができます。また、仕事が終わったらハローワークに行き、離職の手続き(職業が書かれたカードを返す)をします。これでひとつの仕事に関して完了となります。

さて、仕事をして稼いだお金(専用通貨「ドラ」)でさっそく買い物をする子もいれば、すぐにハローワークに行き次の仕事を探す子もいます。自分で稼いだお金ですから、自分で好きなものを買うことができます。それでもきちんと計算しながら買い物をしている子を何人も見たのが印象的でした。たくさんの仕事をした子の中には、開催時間が遅くなると商品が売切れになってしまうお店も出てきて、仕事をしてせっかく貯めたお金を使いきれない子もいたようです。

お金の貯め方、使い方を学ぶ

職業体験のほかに、お金の貯め方、使い方、おこづかい帳のつけ方を学ぶことができる“おこづかいゲーム”に参加しても、仕事をするのと同様に専用通貨「ドラ」をもらうことができます。この“おこづかいゲーム”を見てみましょう。始めに今欲しいものを、1000円で買えるもの、2000円で買えるもの、3000円で買えるもの、と金額別に書き出します。「お金を貯めてこれを買えるようにがんばりましょう!」と目標を決めたら、じゃんけんで順番を決めてゲームスタートです。

まず、今月の「おこづかい」が全員にもらえます。その後は順番に1枚ずつカードを引き、出たカードによってお金を使ったり、もらったりして、その都度おこづかい帳をつけていきます。カードには「文房具を買う:100円」、「友達の誕生日プレゼントを買う:500円」、「お手伝いをして200円もらう」といったほか、「お財布を落としてしまった」、というものまであります。お財布を落としてしまうと手持ちのお金が0になってしまい、悲しい顔をする子もいれば、怒る子もいます。こういう時には「銀行に預けておくと、お金を落としてしまっても0になることはないよ」と進行役からのアドバイスがあり、すると今度は手持ちのほとんどを銀行に預けてしまう子もいます。

このゲームのおもしろいところは、単にお金をたくさん貯めた人が勝ちではなく、ポイントが高い人の方が勝ちとなるところです。このポイントの設定はうまくできていて、同じ3000円でも最終的にポイントが高いのは、

  • (1) 自分の欲しい買い物ができた。
  • (2) 銀行にお金を預けた。
  • (3) 手元にお金がある。

の順になっています。
お金は貯めてばかりいても価値はありません。欲しいものを買うなどして初めてお金の価値が出てくるのです。そのためにはお金を貯める必要があるのですが、手元に持っているよりも銀行に預けておくほうが落とす心配もなく増やすことができる、ということも学ぶことができます。参加した子どもたちの中には、「ゲームをして「ドラ」ももらえるんだ!ラッキー!」とうれしい顔を見せてくれたのが印象的でした。

青少年育成を通して地域のコミュニティをつくる

「Kids Town」を主催した松戸青年会議所の実行委員長の星野勝彦さんは、「この委員会は、「Kids Town」をするための委員会ではなく、地域のコミュニティをつくるため、青少年、小学生を育成する環境をつくることが目的であり、その一環として「Kids Town」がある」、「そのためには、大人がこのイベントを通して何を感じるか、大人がどうあるべきかを考えるきっかけとなって欲しい」と話してくれました。

実は、今回「Kids Town」で使った食材は自分たちで作ってきたものを前日に収穫してきたものなのです。「地域のコミュニティ」を目的に活動してきている松戸青年会議所では、春から「Kids Farm」を行っていたのです。この「Kids Farm」とは、松戸市内の小学生が応募した中から抽選で40名が参加し、親子で農業体験を数ヶ月にわたって活動するものです。親子で参加といっても、「自分の親、子、とは一緒に行動しない」というルールをつくり、親にも子にも多くを感じてもらえるように工夫されています。これが今回の「Kids Town」の運営にも活かされています。こうして春から自分たちで作ってきた野菜を、「Kids Town」開催の前日に収穫してきた、というもうひとつの活動がありました。そして、この「Kids Farm」の参加者が、「Kids Town」の運営では主となっているのです。

今回の「Kids Town」は単に職業体験を行うイベントではなく、「地域のコミュニティをつくるため、青少年を育成する環境をつくる」という目的の一環で行われていました。ここに、大人たちは「ただ見守る」というルールが大きな役割を果たしています。子どもにとっては、親から「この職業やってみたら」などと言われることはなく、自分の意志で行動し、子どもたち同士で協力する体験を持つことができます。自分の親と離れ、他の大人と接することで、いろいろなことを感じることができます。また、親も自分の子どもばかりでなく他の子どもを見て接することになり、親子それぞれが、自分の親(子)だけではなく、他の大人(子)を見ることで広い視野を持つことができる場となったことと思います。

コミュニケーションをとることの大切さ

厚生労働省の調査によると、現在、学校を卒業してから3年後の離職率は、中卒が7割、高卒が5割、大卒が3割、となっており、若年者の早期の離職率が高いことが深刻な問題になっています。その理由に、「仕事が自分にあわない、つまらない」、「人間関係がよくない」などをあげることが多くなっており、コミュニケーションが上手くとれないことが一因となっています。最近はテレビやゲーム、インターネットの普及により、人と関わらなくても不自由なく生活を送ることができるような時代になっています。このコミュニケーション不足が、少年犯罪やいじめなど、さまざまな社会問題にもつながっているといわれています。かつては、家族ばかりでなく、近所づきあいなど地域にコミュニティがあり、コミュニケーションを特に学ばなくても自然に身についていった時代でした。しかし、現代は残念ながら普段の生活にふれあいの場が少なくなっています。そのような現代だからこそ、今回のようなイベントが果たす役割は大きいのではないでしょうか。

今回の「Kids Town」での体験を通して、仕事をしてお金を稼ぐ、お金を使うという感覚とともに、コミュニケーションの大切さ、働くことに関する興味やお金を貯める目的、などを親子で話し合えるきっかけとなればよいと思います。子どものうちから仕事へ興味を持つことで、今の子どもたちがいきいきと働き、仕事の大変さを経験しながらも、仕事を楽しむ気持ちを育ててもらいたいと思います。

最後に、「松戸青年会議所の委員会活動は1年間での決算という形で行われているので、「Kids Town」が今後も続くのかはわからない」と実行委員長の星野さんは話してくれました。「青少年育成を通して地域のコミュニティをつくる」というすばらしい考えを止めないためにも、ぜひ次回があることを期待します。

執筆:中村一紀(なかむら かずのり)
1級ファイナンシャルプランニング技能士。
アミューズメント系企業で労務・厚生・給与関係等の実務を行う。興味を持ったら自分で実践してみるという探究心を常に持つ。また、その親しみのある語り口や姿勢で、身近に感じるFPとして相談を受ける。