60歳または65歳になって老齢年金の請求に訪れた多くの人が戸惑うのが、提出書類の複雑さです。基本は、「年金請求書」と「添付書類」を年金事務所などに提出します。添付書類は、請求者と配偶者等が加入した年金制度や所得などで異なります。添付書類の説明書は、日本年金機構から届いた封筒に同封されていますが、説明書を読まずに、または読んでも誤解している人も多いからです。今回は、老齢年金の請求をスムーズにするために知っておいて欲しいことについてお話ししましょう。
目次
「戸籍謄本」と「住民票」と「所得証明書」が基本
添付書類は、「戸籍謄本」と「住民票(世帯全員が記載されているもの)」と「所得証明書」の3点セットが基本です。戸籍謄本で身分関係、住民票で一緒に生活をしていること、所得証明書で生活の面倒をみているかを確認します。3点セットを提出する人は、夫婦または夫婦のいずれかが厚生年金に原則20年以上加入している場合です。3点セットを提出することで加給年金や振替加算など、世帯での加算が支給されます。つまり、加算がない単身者または、国民年金のみの夫婦、夫婦とも厚生年金に原則20年未満の人は、住民票(住民票コードも可)のみ提出します。
請求は60歳(65歳)になった日以降
年金は、原則25年の受給資格を満たした人が年金を受給できる年齢になった日以降請求します。仮に60歳から報酬比例部分を受給できる人は、誕生日の前日以降に取り寄せた添付書類と年金請求書で請求します。年金では、60歳になった日とは60歳の誕生日の前日を言います。60歳になる前には請求できないので要注意です。
その他の添付書類
3点セット以外に、請求者の働き方で次の添付書類も必要です。1つは、退職後雇用保険から失業給付(基本手当)を受給する場合、2つ目は、60歳時より給与が75%未満に下がって働く場合などです。書類の流れを知っておけば、何度も年金事務所などに足を運ばなくて済みます。
65歳前の特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)と基本手当は併給されません。基本手当を受給中は年金が停止されます。基本手当の受給が終われば年金が支給されます。その手続きを自動的にするために受給資格者証と書類★を、年金請求書と共に年金事務所などに提出します。
賃金が60歳時より75%未満に低下して働く場合、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が、低下した賃金の15%(61%未満に低下時最大)が65歳になるまで支給されます。雇用保険からの給付を受けている間、在職老齢年金の調整にプラスして給与の6%の年金が停止されるので★の書類も提出します。
支給の申請は、原則事業主がハローワークに提出します。支給が決定するとハローワークから届く決定通知書と書類★を、年金請求書と共に年金事務所などに提出します。
ときに、まずは年金請求をしておきたいという場合は、「年金請求書」と「雇用保険の被保険者証」を提出し、その後、他の書類を提出することもできます。
年金は個人資産 ~代わりの請求は、委任状が必要です
年金は個人資産なので、請求者に代わって請求することができません。やむを得ない事情で本人が来られないなら、本人の委任状が必要です。当然に、年金が振り込まれる金融口座も請求者本人の通帳に振り込まれます。しかし、意外とこのことが理解されていません。
まだまだ日本の家庭では、夫婦や親子単位で家計が回っている人もあるようですね。
人生の折り返しを意識できる年金請求は自分で!
年金請求をすれば、約2ヶ月後に年金証書が届きます。しかし、ときに、年金証書が手元にあるのに、自分は年金の請求をしていないという人にお会いします。在職中で年金が全額停止になっている場合や、妻が代わりに請求したなどで年金の意識がないからです。年金事務所などでする老後の年金請求は生涯に一度、これからを見据える大切な経験のときです。できれば自分で請求、配偶者がいらっしゃる方は請求時に夫婦ご一緒に説明を聞かれると、共通の認識も得られると思いますがいかがでしょう。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/