国民年金から支給される老齢基礎年金は65歳から受給できますが、希望すれば65歳前に繰上げて請求できます。または、66歳以降に繰下げて請求できます。年金事務所では、繰上げまたは繰下げ請求して受給できる年金総額と、本来の年齢で請求して受給できる年金総額の損益分岐点(逆転する年齢)も試算してくれます。但し、単純に老齢基礎年金の総額だけで判断は禁物です。今回は、よくある失敗のうち、国民年金のみに加入した女性の場合で考えてみましょう。
目次
65歳からの老齢基礎年金を、60歳0ヶ月で繰上げ請求 ~ 昭和25年4月2日生まれの妻の場合
国民年金は、現在40年加入して65歳から老齢基礎年金が79.21万円支給されます。昭和16年4月2日以降生まれの人は1月繰上げるごとに0.5%減額されます。
但し、65歳から老齢基礎年金と振替加算を受給できる妻の場合、60歳から支給されるのは30%減額された老齢基礎年金のみです。振替加算は本来の額を65歳から受給します。
繰上げ請求のデメリットは第20回:不景気で生活設計が狂った!のコラムをご覧ください。
<老齢基礎年金のみ受給できる妻の場合>
<老齢基礎年金と振替加算が受給できる妻の場合>
65歳からの老齢基礎年金を、70歳0ヶ月に繰下げ請求 ~ 昭和25年4月2日生まれの妻の場合
国民年金は、現在40年加入して65歳から老齢基礎年金が79.21万円支給されます。昭和16年4月2日以降生まれの人は1月繰下げるごとに0.7%増額されます。
65歳から老齢基礎年金と振替加算を受給できる妻が70歳0ヶ月で繰下げた場合、42%増額されるのは老齢基礎年金のみです。
<老齢基礎年金のみ受給できる妻の場合>
<老齢基礎年金と振替加算が受給できる妻の場合>
繰下げ請求を考えている人は、ともすれば65歳から受給できる年金額が増えることばかり考えていますが、繰下げした年金を請求するまでの間は無年金です。さらに、会社員の妻などで65歳から振替加算が加算される妻は要注意。繰下げ請求をすると、65歳からの振替加算も老齢基礎年金と併せて繰下げとなります。しかも振替加算額には1ヶ月0.7%の増額はありません。
(1)72歳で請求忘れに気づき請求した場合、70歳0ヶ月の繰下げ増額率42%の老齢基礎年金を請求した翌月分から受給します。
(2)72歳で請求忘れに気づき請求した場合、過去5年分の当時の年金額を一時金で受給し、72歳以後も現在の金額で受給することも可能です。
(3)繰下げ請求待機中に69歳で死亡した場合、本人が受給できた過去の年金額を遺族が一時金で受給できます。
いつまでも若くない ~ 高齢になる意味を現実編として受け止めておきたい
昨今、年金の受給のし方の相談でも損得でものごとを判断する人が増えました。確かに年金のしくみは知らないとソンすることは多いのですが、高齢期の年金の受給のし方は一概に損得で図れないものがあります。予想外の判断能力の衰えや、受給年金額が増えることと高齢期の充実度がイコールとは言えないことも多いからです。
人生は計算どおりに行かないこと、年金のもうけ話はそこそこで折り合いをつけて自分と配偶者などで有意義に使ってこそ価値があると考えるのは甘いでしょうか。
※年金額は、平成22年度価格
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/