高齢期の相続トラブルを防ぐ近道は  ~「認知症」を詳しく知ることから~


2018年、相続制度が見直され、「配偶者居住権」が新設されました。

進む高齢化社会に対応するため、約40年ぶりに相続制度の見直しとなる「改正民法」が成立しました(2018年7月6日、個々の法律は2020年7月までに随時施行)。目玉となるのは、残された配偶者が住み慣れた自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」の新設です。高齢妻にとって嬉しいニュース、今後の詳細内容の決定の行方に注目したいものです。

2015年の相続税の基礎控除額の減少により課税対象者も増えており、「相続」や「遺言」に関心を持つ人が増えています。今回は、そうした相続状況を踏まえつつ、遺言書作成に多く関わった、ある公証人のお話しに妙に納得したことについてお話します。それは、成年後見でも遺言作成でも、「認知症」のことを知っていることが大切という言葉です。

あらためて平成27年1月からの相続税改正 ~基礎控除額が縮小 (遺族が妻と子ども2人の場合)~

相続税は、相続財産から基礎控除額をひいた額に対して税金がかかります。従って、控除額が減ると、課税対象額が増え、税金も増えます。但し相続財産も実際に売却した金額を合計する訳でなく、土地は路線価、家屋は固定資産税評価額の金額、さらに特例などで評価額が軽減されるので、庶民からみれば課税される人はそれなりの資産家ともいえます。なお、平成27年の改正で、相続税率の上限が50%から55%になっています。
事例の場合、相続税の課税対象が4,800万円以下なら税金も不要なので、相続トラブルは起こらないと思いがちですが、実際の相続では厳しい現実が待ち受けています。

相続のトラブルは相続財産の多寡ではない ~約76%が5,000万円以下~

我が家は相続税がかかるほど財産がないからもめないと思っている人が多いのですが、相続トラブルの約76%の人の相続財産は5,000万円以下です。相続財産の約43.5%が分けにくい不動産であることが相続トラブルに繋がっています。

遺産分割事件のうち容認・調停成立    件数(遺産の価額別)
遺産の価額 1,000万円以下 5,000万円以下 5,000万円以下 5,000万円以下 5億円超 不明
件数 2,476件 3,177件 914件 538件 42件 358件
% 33.1% 42.4% 12.2% 7.2% 0.6% 4.5%

 

最高裁判所「司法統計年報」平成28年度

相続税の課税割合の推移 ~4%台から8.1%へ(平成28年)~

<平成28年中に死亡した人は約131万人(27年は約129万人)、課税対象者約10.6万人 (27年は10.3万人)>といずれも増えており、平成27年の基礎控除額の減少により課税割合が、これまでの4%台から8%台に増えています。相続財産の4割超が分割し難い不動産である危機感からか、公正証書遺言作成件数も以下のように増えています。

国税庁 平成28年相続税の申告状況について

国税庁統計 平成28年1月~12月

公正証書遺言作成件数 過去10年間で約1.5倍に
平成20年 平成27年 平成29年
73,436件
110,778件
110,191件

※目的財産の額により手数料が必要(日本公証人連合会ホームページ参照)

長寿社会だからこそ、年をとるということ、認知症のことを知っておこう

上記のことから、相続時のトラブルの備えは資産が多い人に限らず、資産の分割が難しい人こそ必要なことが見えてきます。近年の相続は老々相続のケースも増えており、高齢になれば認知症のリスクも増えます。だからこそ、認知症の症状を理解しておくことが大切です。そう言えば、あのときひょっとして・・と後で気がついたときには既に発症していることも。

認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します (厚生労働省)

厚生労働省

老々相続などにおけるトラブル事例

■公正証書遺言を作成しても万全ではありません。公正証書遺言を作成後、作成し直したい人も何人かいるようです。そのとき作成した人が認知症の症状がはっきりでていない段階だと、本来の意思と違う書き直しを認められてしまうこともありそうです。

自分の意思で書き直す多くの人は、○○のところを一部書き直したいと言われることが多いが、判断能力がなくなったときは、単に書き直したいと言われることがあるとのこと。判断能力の有無の程度が見えにくいのが課題です。

■高齢になると、財産の管理ができなくなる不安から、お金のことを子に任すケースもあります。親は、単純に「管理を任す」と伝えたつもりが、「親のお金を使いきる」子もあり、イザ相続する時には、親の通帳の残高がわずかということも・・

■親が高齢になると、親子間の力関係が逆転、兄弟間でも力の差が表面化しがち、かつ判断能力が不十分になれば自分の意思をはっきり伝えられないことも。自分らしく最期まで生きる本来の希望から現実が遠のくばかりの結果も・・

今回の民法改正の目玉の「配偶者の居住権」も、自分で手続きする必要があり、税関係も複雑とのことで敷居が高くなりそうです。家族間の問題は声を出しにくく、トラブルが長期化しがちで、無駄に時間が過ぎることも・・・。

高齢(主に70歳過ぎ)になると、多くの人はいろんなことが面倒になり、自分や配偶者の危機を他人ごとのように眺め、なりふり構わず家族を守る体制が取れない人も・・。

高齢化は、社会保険だけでなく法律まで変える時代になりました。まずは自分の財産の全体像を把握し、新しい制度にも興味を持ち、使いこなせるよう学びも大切です。多くの財産がある人は、早めに専門家に相談してみるといいでしょう。勿論残すことばかりでなく、最期まで自分らしく生きるために必要なお金も試算した上での財産です。