外貨MMFは年内に売却しないと損をするのですか?


外貨MMFは年内に売却しないと損をするのですか?

今回、回答いただく先生は…
 

鈴木 暁子先生
(すずき あきこ)
プロフィール
  • 税制改正にはアンテナを張っていましょう。
  • 保有の外貨MMFは年内売却、外国債券は来年以降の売却を検討してはいかがでしょう。
  • 資産形成は総合的な視点で捉えることが重要です。

森 あずささん(仮名 55歳 専業主婦)のご相談

外貨MMF(米ドル)を保有しています。外貨MMFは年内に売却しないと損という話を聞いたのですが、本当ですか?もしそうだとしたら、年内に売却したほうが良いですか?

森 あずささん(仮名 55歳 専業主婦)のプロフィール

家族構成 : ご本人:(55歳 専業主婦)
夫:(58歳 会社員)
長女:(28歳 会社員)
森家の金融資産(預貯金以外)損益: 外貨(米ドル)MMF:+16万円
トルコリラ建て債券:▲20万円
A投資信託(国内株式型):+12万円
B投資信託(国内株式型):+10万円
C社株式:▲10万円
D社株式:+15万円
注)計算をしやすくするため、数字は丸めています。

年内の売却であれば譲渡益は非課税ですが、
来年から税制が変わり譲渡益に約20%の税金がかかります。

2016年から税制が大きく変わります

森さん、こんにちは。分散投資の一環として外貨投資をしていらっしゃるとのこと、耳にされたお話はさぞ驚かれたことでしょう。

日本では、給与でも投資でも相続でも、所得があれば原則税金を支払います。これらは税制によって定められていますが、税制の改正により、森さんが懸念されていらっしゃることが起こる可能性があるのです。

税制は毎年改正があります。ただ改正の大きさは、非常に大きなものから軽微なものまでまちまちです。最近は相続税に関する改正の影響度が大変な騒ぎになっているので、他の税制の改正はあまり取り沙汰されないのですが、実はこういう時にけっこう重要な改正がされていることも少なくありません。

ご質問の結論に行く前に背景を知らないと、今後の資産運用で方針を立てられなくなります。少し専門的なお話になりますが、「金融所得課税の一体化」についてぜひ知っておいてください。

昔は株式の譲渡所得(売買した際の損益)の申告は、「申告分離課税」と「源泉分離課税」という2種類のうちの選択制でした。ところが2003年に特定口座という制度ができて申告分離課税に一本化されました。したがって、森家のAとBの投資信託と、C社とD社の株式は同じ特定口座で管理されていますよね。

また2004年には株式とは区別されていた公募株式投資信託も、株式と同じ税制で扱うことになり、さらに2009年には、これまで不可だった「上場株式等の配当所得と公募株式投資信託等の譲渡損失の損益通算」が可能になりました。

このように金融商品ごとに区別されていたものが、徐々に一本化されつつあります。
そして2016年からは、公社債等も上場株式等と同じ税制となります。相続税の陰であまり大騒ぎされていないようですが、実はこれは非常に大きな改正です。

一本化はシンプルですが、メリット・デメリットはまちまち

現在、公社債(国債や社債)やMMFなどの公社債投資信託は、前述の上場株式・公募株式投資信託等とは違う税制グループです。具体的な扱いとしては、

  • 利子・分配金は20.315%(復興特別所得税含む)の源泉分離課税
  • 譲渡損益は非課税(総合課税所得や上場株式等と損益通算は不可
  • 償還差益は総合課税のため累進税率(上場株式等との損益通算は不可

となっています。

これが一本化されることで利子・分配金、譲渡損益、償還差益すべて、一律20.315%(復興所得税含む)の申告分離課税となります。

総合課税の対象で、所得が多い人にはより税率が高くなる累進課税だった償還差益が20.315%で頭打ちになるのはメリットといえますが、問題は非課税だった譲渡益に20.315%の税金がかけられることです。

これまで外貨MMFは、譲渡益(為替差益)が非課税だったことが最大のメリットでした。また、外貨MMFは外貨投資の中でも少額から投資が可能で比較的リスクを軽減しやすいことから、投資の初心者の方はもちろん、多くの投資家から絶大な人気を誇っている商品です。特にここ2年くらいで為替は円安に転じましたので、為替差益を享受できている人は多いと思われます。

森家の外貨MMFは現在含み益として+16万円です。つまり外貨MMFを年内で売却すれば16万円の譲渡益は非課税ですが、来年以降の売却だと32,504円の所得税が徴収されてしまいます。これが森さんのご質問にある「損」の正体です。

ところで森家の場合、注意すべきは外貨MMFだけではありません。トルコリラ建て債券も外国債券ですので、外貨MMFと同じグループです、したがってトルコリラ建て債券も一本化の対象となります。

資産形成は商品ごとの勝負ではなく、資産全体として考えましょう

トルコリラ建て債券は、現在20万円の含み損が出ていますが、年内に売却してもその損失を投資信託や株式の譲渡益と通算することができません。しかし、来年以降売却して発生した譲渡損は、投資信託や株式などを売却して発生した利益と通算することができるので、投資信託や株式などの譲渡益を圧縮し、結果的に所得税を軽減することができます。

現状の含み損益の金額で売却したとして、いくつかのケースで所得税を試算してみます。

ケース①
外貨MMFを年内売却、トルコリラ建て債券・その他は来年売却

所得項目 所得金額 所得税金額
外貨MMFの譲渡所得 160,000円 0円
投資信託A、B、株式C、D、トルコリラ建て債券の譲渡所得 70,000円 14,220円
小計 230,000円 14,220円
税引き後利益 215,780円

ケース②
外貨MMF・トルコリラ建て債券を年内売却、その他は来年売却

所得項目 所得金額 所得税金額
外貨MMFの譲渡所得 160,000円 0円
トルコリラ建て債券の譲渡所得 ▲200,000円 0円
投資信託A、B、株式C、Dの譲渡所得 270,000円 54,850円
小計 230,000円 54,850円
税引き後利益 175,150円

ケース③
外貨MMF・トルコリラ建て債券・その他もすべて来年売却

所得項目 所得金額 所得税金額
すべての資産の譲渡所得 230,000円 46,724円
小計 230,000円 46,724円
税引き後利益 183,276円

注)実際にはこの他に証券会社や金融商品所定の手数料が差し引かれます。

ご覧のようにケース①が最もオトクとなります。ざっくりとしたケースではありますが、非課税扱いになる譲渡所得は損益通算の必要はありませんから、発生した損失は損益通算に回すほうが有利です。つまり森家の場合は、外貨MMFの譲渡所得は非課税にするため年内売却がオトクとなりそうです。

一方トルコリラ建て債券は、今後年内のうちに為替差益が発生するようであれば年内売却で非課税の恩恵を享受、年内に売却しても損失が発生するようであれば税制改正で一本化を待ち、来年以降他の譲渡所得と損益通算することで、所得税の圧縮を検討するのが良いのではないでしょうか。

このように損益は同じでも、税金のかかり方によって税引き後の利益に大きな差が出ます。
税金を払うことは何となく損をした気分になるかもしれませんが(お気持ちはよくわかります)、よくよく考えればそれは利益が出たからであり、本来は喜ぶべきことです。ただし余計に税金を払わずに済むよう、損失も上手に活用(損益通算)するのです。単なる損益ではなく、税引き後利益を意識するようにしましょう。

税制改正をしっかりチェックし、保有している資産に影響がないかどうか、影響がある場合には、今後の金融商品選びや売買のタイミング、損益通算などじっくり方針を考えて運用していくことが重要です。

なお、税制改正の大綱は、だいたい年末から1月中旬頃の間に閣議決定されます。閣議決定された税制改正大綱は、財務省のホームページでご覧になれます。非常にページが多いのですが、要点をまとめた「税制改正大綱の概要」に目を通せば十分です。
ちなみに今回の一本化については、平成25年度の税制改正大綱に記載されており(つまり2年前に決まったことが)、いよいよ実施の時が来たということです。