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近頃目にするようになった、確定拠出年金制度を教えてください。
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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藤野彩さん(仮名 34歳 パート)のご相談
最近、新聞や経済番組などで確定拠出年金を頻繁に取り上げているように思いますが、なぜですか? また、しくみがよくわからないので教えてください。我が家でも確定拠出年金はできるのですか?
ご相談者のプロフィール
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29年1月から確定拠出年金に加入できる人が増えます。
それまでに情報収集と準備をしておきましょう。
1.制度の改正により、加入者の範囲が広がります。
藤野さん、こんにちは。新聞やニュースなどにしっかりとアンテナを張っていらっしゃいますね。おっしゃるように、確定拠出年金は最近よく話題となっています。今後藤野さんのご家庭にとっても知っておいたほうが良い制度ですので、ぜひ理解につとめてください。
では、まず確定拠出年金(以下、DC)の制度概要をご説明しましょう。図1をご覧ください。
※DC: Defined Contribution Plan
【図1 確定拠出年金の加入者の範囲と掛金】
これは、DCの加入者の範囲と掛金の限度額です。
DCには企業型と個人型がありますが、いずれも老後資金準備のための制度です。企業型は、制度を導入している企業の厚生年金被保険者となっている従業員が加入し、企業が掛金を拠出します。個人型は自営業者や企業年金がない会社の従業員が任意で加入することができ、掛金は加入者本人が払います。掛金の上限は加入状況によって異なりますが、将来の受給権はいずれも加入者本人にあります。
そして藤野さんがおっしゃるように、このところDCが取り沙汰されているのは、平成28年5月24日に「確定拠出年金法等の改正案」が成立し、平成29年1月からはこの個人型の加入対象者が拡大し、公務員(第2号被保険者)や第2号被保険者の妻(第3号被保険者)等も加入できるようになるからです。
つまり公務員である藤野さんのご主人様や、妻である藤野さんも加入資格を得られることになります。なお、公務員の方の掛金拠出限度額は月額1.2万円(年額14.4万円)、専業主婦の方は月額2.3万円(年額27.6万円)です。
2.DCは3つの税制優遇があります。
次にDCのメリットについてご説明します。
DCは、①毎月掛金を拠出し、②60歳になるまで運用し、③60歳以降に年金(分割)または一時金として受け取る、という流れですが、この3つの局面それぞれに税制の優遇措置があります。
まず、拠出した掛金は、全額所得から差し引かれます。これを所得控除と言います。たとえばご主人様が年額14.4万円の掛金を拠出したとします。すると所得税の対象になる所得が14.4万円減るため、28,800円所得税が少なくなり(14.4万円×20%の所得税率)、仮に来年から始められたとして、25年間で72万円の節税効果があります。また、それに連動して住民税も安くなります。
もちろんDCという仕組みを使わなくても、藤野さんが一顧客として金融機関で毎月投資信託などを定額で買い付けたり、積み立て預金をすることはできます。
しかし一般的なしくみでは、預金の利息や株式の配当金、投資信託の分配金など、運用で利益が出ると20.315%の税金がかかります。つまり利益すべてを再投資できるわけではありません。
一方、DCでは、運用中の利益には税金はかからず、あがった利益はすべて再投資に回すことができるので運用の効率が良いのです。たとえば毎月2万円ずつ年3%で運用できるとしましょう。25年後の元利合計は約875万円(運用益:275万円)となります。これが一般的な取引ですと税引き後約2.4%の運用効率となり、元利合計は約809万円(運用益:209万円)です。運用中に税金がかからないということがこれほどの差になるのです。
また、60歳以降に年金(分割)または一時金として受け取れますが、年金で受け取る場合は公的年金等控除、一時金で受け取る場合は退職所得控除の対象となります。これらも所得控除の一種で、所得を少なくみなしてもらえることで所得税・住民税が安くなりますが、民間の個人年金保険ではこのような恩恵はありません。
これら3つの税制の優遇により節税できることで、一般的な運用や、個人年金保険よりオトクに老後資金を準備することができるのです。
ただし注意いただきたいのは、ご主人様であれば3つの税制優遇の恩恵を享受できますが、藤野さんの場合、現在のパート収入ではもともと所得税を納めていません。
したがって3つの税制優遇のうち、掛金拠出時の所得控除のメリットはありません。
3.リスクを知った上で、加入を検討しましょう。
なお、加入にあたっては注意点もあります。まず、この制度は一言で言うと資産運用そのものです。運用責任は加入者本人にあり、最終的に受け取れる金額は運用結果によって変動します。
また、メリットとして税制優遇を挙げましたが、なぜこれだけ大きなサービスがあるかというと、DCは老後資金準備のための制度であり、原則60歳までは中途引出しができないからです。DCで増やした資産を、40代50代で必要な資金に充てられないことには注意が必要です。
なお、DCをスタートするには専用の口座を開設する必要があります。そのための手数料や、口座管理料などが発生します。
4.今のうちにしっかり知識と情報を集めておきましょう。
企業型の場合、会社は資金管理や制度運用管理を金融機関(運用管理機関)に委託していますので、加入者は必然的に会社を通じて加入申し込みをし、その後運用管理機関で商品選択や運用指図を行いますが、個人型の場合は、運用管理機関を自分で選ぶことになります。その際、どこを選べばよいのかわからないといった声もよく聞きます。
まず運用する商品ラインアップは、金融機関によってかなり差異があります。品揃えが豊富なところが良いでしょう。とはいっても運用するのは自分ですから、自分が理解できるもの、自分の運用方針(元本割れしない、投資信託の種類が多いなど)に合うものが揃っているかをしっかり確認しましょう。
コストも重要なポイントです。前述の口座管理料の比較ももちろんですが、運用商品の投資信託は販売手数料や信託報酬といった手数料がかかります。特に保有期間中ずっとかかる信託報酬は、20年30年という運用期間を考えるとバカになりません。このような手数料の比較もしっかり行ってください。
また、加入時にはあまり意識しないのですが、いざDCに加入すると気になるのがサービスです。基本的にはインターネットで運用指図も資産確認もできるのですが、ウェブサイトの見やすさ、わかりやすさ、使い勝手もまちまちですし、問い合わせをしたい場合、コールセンターのつながりやすさ(対応時間、混雑具合など)も重要です。
個人型に加入する場合、自分自身で調べなければいけないことも多いため、むしろ、加入できるようになるまでのこの期間に、情報収集や比較検討をしたり、資産運用の勉強をしておくと良いと思います。 なお、資産運用は怖いから嫌だと思うかもしれませんが、残念ながら若い世代の方が定期預金だけで必要な資金を準備できる時代ではありません。多かれ少なかれ運用は必要になるでしょう。
ここからは個人的な意見となりますが、運用は机上の勉強だけでできるものではありません。経済は生き物ですから教科書どおりにはいかないのが普通です。したがって実践して学ぶしかないと思いますが、できるだけリスクを軽減して向き合うべきです。
リスク軽減のためのポイントは①運用商品の分散 ②購入タイミングの分散 ③長期で運用することです。その意味で、多くのラインアップからいろいろ選ぶことができ、毎月、定期定額でコツコツと買い付け、20年30年という長期間で資産を育てていくDCは、そのポイントを押さえた制度と言えるでしょう。
運用の勉強も経験もしないまま、退職金でまとまったお金を手にして運用デビューした結果、大きく資産を減らしてしまう方も少なくありません。
DCで運用といっても、公務員の方の拠出限度額は月額1.2万円、専業主婦の方は2.3万円ということで、そもそもそれほど高額に掛けることはできません。その意味ではベースとなる貯蓄はほぼ安全資産ですので、今後家計に影響を及ぼさない範囲で、貯蓄額の一部をDCで運用するというのは運用の勉強にもなりますし、資産の持ち方としても悪くないと思います。また専業主婦の方ですと、前述のように税制優遇のメリットを最大限享受することはできませんが、もともとご自身の年金が少ないですから、藤野さんご自身の年金を少しでも増やすという点では意味はあるかと思います。