地震や洪水などで被災し自宅に住めなくなっても、住宅ローンの返済は続けなければならないのでしょうか?


今回、回答いただく先生は…

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 一定の債務整理が可能となる施策は存在します
  • 基本的に各種公的支援を受けるためには、まず被災者等が自発的に申請や申出を行う必要があります
  • 平時はともかく有事の際に「支援を受ける何かしらの策がある」と積極的に情報収集する心構えが大切です

  坂上圭介さん(45歳 仮名)のご相談

住宅を購入したばかりなので、現在かなりローンが残っています。仮に災害で自宅に住めなくなっても、残っているローンは返済を続けないといけないものなのでしょうか。数年前に地元が被災してしまい、親も実家の建物も大きな被害は免れたのですが、ローンを抱える自分の身に降りかかってきたらと思うと心配になりました。

坂上圭介さんのプロフィール

家族構成
家族 年間収入 現在の貯蓄額
本人
45歳
580万円
会社員
620万円

42歳
130万円
パート
長男
12歳

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に従い
適用申請をする事で、ローンの免除や減額が受けられる可能性も

地震やこれに伴う津波や噴火、あるいは台風(およびこれによる高潮)だけでなく、突発的集中的な豪雨や豪雪などの自然災害による甚大な被害の例は、残念なことに次から次へと後を絶ちません。
こうした事態に備え、自身の財産を守るために損害保険や共済等に加入している訳ですが、時に損害補償を超えたダメージのために生活再建が困難になるケースもあります。このような場合には、少しでも再建を助成するための各種公的支援制度が用意されています。その1つとして、住宅ローン等の債務を抱えた被災者に対する、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下、本ガイドラインと記します)」の概要についてご紹介いたします。

本ガイドラインでどのような支援を期待できるのか

本ガイドラインは、2015年12月に民間の自主的ルールとして策定され、2016年4月1日に運用開始となりました。具体的には、「住宅ローンなどの借入のある被災者」が、「裁判所へ申し立てる破産手続きなどの法的手続きによらず」、「金融機関との話し合い」により、「一定要件」のもと、「借入の減額や免除を行う」ことが可能となるものです。
あくまでも被災者となった債務者と金融機関等の債権者との間で債務整理を行う際の準則という位置づけではありますが、1から10まで個々の交渉次第というわけではなく、公のガイドラインが整っていることに大きな意義があるといえます。ガイドラインの内容としては、とくに次の3点が注目です。

  1. 破産などの法的手続きとは異なり、債務整理をしたことが信用情報登録機関への個人信用情報として登録や報告がされないので、今後の新たな借入に影響が及ばない
  2. 債権者との話し合いや債務整理までの手続き等は、弁護士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士等の「登録支援専門家」に無料で委嘱できる(ただし債務者が任意に選ぶことは不可)。また、債務整理のためには簡易裁判所の特定調停手続きの利用が必要であるが、その申立ての手数料も法令上の手当により無料となる
  3. 債務者の被災状況や生活状況などの個別事情に応じ、各種支援制度による支援金はもちろん、義援金や、元々保有していた財産のうち、その一部をローンの支払いに充てる必要がなく手元に残せる

公的支援の類を受けるためには、原則、被災者自身が申請による手続きを行わねばなりません。

もちろん、数ある支援策の中から適用対象となり得るものをピックアップしたり、その適用を受けられるのか否かの初期判断をしたりすることは自治体等の窓口に相談することは可能です。ですが、「交渉」ごととなると専門家でない一般の方にはハードルが高いものでしょう。本ガイドラインでは、「単なる現金の給付」ではなく、「困難な交渉といった現物サービスの給付」をフォローしている点が見逃せません。また、あくまでも普通に生活を「再建」することを視野に入れた配慮がなされていることにも注目です。

支援の対象となる被災の要件

本ガイドラインの対象となる災害は、2015年9月2日以後に災害救助法という法律の適用を受けた自然災害の影響による場合となっており、2018年7月9日時点では14の自然災害が対象となっています(災害救助法の適用情報は内閣府により公表されています)。なお、2011年に発生した東日本大震災は本ガイドラインの対象外ですが、別途、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」の対象となり得ます。

次に、対象となる債務者とは、「被災された個人や個人事業主(法人は対象外)」であり、「被災前に借入の返済を基本的にきちんと行っていた方」で、「被災により返済が困難となったか近い将来に返済が困難になることが確実と見込まれる方」等となります。
なお、返済が困難と見込まれる状態とは、破産手続きの際における「支払不能(返済するための資力がない)」の場合だけでなく、民事再生手続きの際における「支払不能のおそれ(今は大丈夫でも近い将来に返済のための資力がなくなると見込まれる)」の場合を含み、債務者の財産、収入、信用、主たる借入以外の借入を含めた債務総額、返済期間、利率等を総合的に判断します。もちろん、自宅が被災した場合だけでなく、勤務先や個人事業者の事業所等が被災したことにより、収入の途絶や減少、就労不能や就労困難などが見込まれて家計収支が極度に悪化する場合や、今後に仮設住宅や借上げ住宅から転居することで賃料負担が生じる場合なども考慮されています。

最後に、対象となる債務は、住宅ローンや住宅リフォームローン以外にも、自動車のローン、カードローン、消費者金融借入のほか、事業性のローンなど幅広く含まれます。そもそも、本ガイドラインを運用する「一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」は、銀行・信金・信組・労金・農林中金等の各協会が正会員となっているほか、準会員として住宅金融支援機構や、信用保証・クレジット・各種リース・サービサー・商工中金・貸金業等の各種協会が名を連ねています。殆どの金融機関等向けの債務が該当すると考えて差し支えないでしょう。

もしも被災者となってしまった場合の大切な心得

本ガイドラインの適用を受けるためには、まず手続着手の申出を主たる債務を負う金融機関等へ希望することから始まります。最終的に簡易裁判所での特定調停手続きにより調停条項が確定して債務整理が成立するまでには、いくつかの手順を踏む必要がありますが、金融機関等への申出以後は、前述のとおり「登録支援専門家」がサポートしてくれます
ですが、自分から申請しなければ何も始まらないという認識が重要です。このことは、何も今回紹介した住宅ローン等の債務整理に関する本ガイドラインに限った話ではなく、災害等による生活再建支援金、各種弔慰金や見舞金、福祉貸付や特別融資制度、各種の無償供与や無償の援助減免制度、その他の公的年金・生損保険料払込免除・猶予や、雇用保険・労災等の各種社会保険からの支給申請等に至るまで、すべてに共通します。

普段からこうした情報を収集しておくのは実際には難しいでしょうが、有事の際に生活が立ち行かなくなった場合には、「何かしらの支援策があるかもしれない、適用される支援策がある筈だ」といった発想に繋がることこそが大切です。そのためにも、今回ご紹介した内容の詳細はともかく、こうした支援策もあるのだということだけでも心に留めておいていただければ十分でしょう。
ちなみに有事の際に受けられる各種支援策等については、内閣府や首相官邸からの情報を、まずチェックすることをお勧めします。そもそも専門家等の得る情報の発信源でもありますし、情報や内容が一元化されていてわかりやすいと思われます。

万一の際には、まず生命の安全、次に飲食や居住環境や衛生等のライフラインの確保が最重要ですが、これらが落ち着いた後は情報が要となりますが、インターネット環境等のインフラ整備が悪く、情報を自分で上手く得られない場合は、やはり市区町村役場等の自治体の窓口へ直接問い合わせるのも得策といえるでしょう。

※今回の内容の参考とした情報(2018年8月31日時点)

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