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社宅を出て住宅取得を考えていますが、
妻の「持参金」を組み入れるかどうかでもめています。
市田 雅良先生 (いちだ まさよし) プロフィール |
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秋沢 真樹夫 さん(仮名) ご夫妻のご相談
現在、社宅住まいですが、数年先には一戸建てのマイホームを建てたいと夫婦で話し合っています。
そこで、住宅取得の自己資金をどのくらい見込んでおけばいいのか検討中なのですが、夫は独身時代の預金をそのまま家計費やマイホーム資金に計上しているので、「妻の持参金を出すのは当たり前」だと言い張ります。妻は「マイホームや生活費用に持参金を充てられてしまうのは、自分の意思でまとまったお金を使いたい時に困る」という言い分があります。この話になると夫婦間でこじれてしまいます。
ライフプランをたてる場合、持参金を全額組みいれていかないと生活設計が成り立たないものなのでしょうか?
秋沢 真樹夫 さん(仮名)ご夫妻のプロフィール 世帯年収 : 818万円(手取年収648万円)
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現状の計画では夢の実現は困難、住宅取得のためには生活の見直しから
1.現状のキャッシュフローでは家計はいずれ破綻します
秋沢家は、社宅にお住まいで住宅関連支出の負担が少ないという理由もあり、現在は夫 真樹夫さんの収入で十分やっていけています。しかしこのままでは、2013年には年間収支が赤字となり貯蓄を取り崩し始め、10年後の2020年には貯蓄残高は底を付き赤字転落で家計破綻をきたす可能性があります。
原因は、大きく2つあります。一つ目はお子様の進学が私学中心であること、二つ目は住宅取得費用支出と住宅ローン返済が負担となることです。
ただし、教育資金についてはご夫婦ともに 「子供には十分な教育を受けさせてやりたい」というご希望が強くおありなので、私学の進学を諦めるという方策は採らないでシミュレーションしてみることにしました。そこで、それ以外の方法での節約倹約を考えてみましょう。
現状打破への見直し対策は以下のとおりが考えられます。
(1)住宅取得に関する見直し → 2.で詳細を述べます。
(2)生活費について見直し
年間生活費420万円(35万円/月)の節約を考えてみましょう。今は満足?(反対意見はおありかもしれませんが)な社宅生活を過ごしておられるそうですが、社宅を出れば住宅関連費用は増加します。
検討方法の一つとして「基本生活費+住宅関連支出」の合計でバランスを考えてみます。するとローン返済の開始と同時に基本生活費をカットしなければ収支が赤字となり、健全な家計支出とはいえなくなってしまいます。そこで「支出の部」の基本生活費を見直し、予算案を考えて見ます。
例えば月額28万円、年間にして336万円とするのはいかがでしょうか(総務省「家計調査」、平均的な生活費28万円を基準としました)。
(3)車の買い換えを遅らせる
車の購入は10年ごとがご希望で、次回購入時期が2020年となっています。子供の教育費がまだまだかかっている時期なので、可能なら購入時期をずらしましょう。63歳の退職時期に伸ばしてみる方法はいかがでしょうか。
2.住宅取得とローンの組み方は見直しが必要
今から5年後の50歳時点での住宅購入を計画されていますが、この計画では住宅ローン(30年返済)の返済が終了するのは79歳、つまり定年後もローン返済を続けていかなければなりません。年金不安が重くのしかかっていることでもあり、大変不安に感じられます。
融資額や返済期間など、根本的に見直さなければならないようです。
ご夫婦に再度確認させていただきますが、「住宅取得が目標」ですか?
目標が住宅取得ということを確認いただけたのであれば、見直しプランを検討します。
見直しポイント
(1)購入時期を早める。2014年→2010年
(2)希望購入物件価格の減額4,500万円→3,500万円
(3)返済期間短縮30年→25年
(4)頭金増額1,500万円→2,000万円に変更
変更後の住宅購入プランと住宅ローン返済は以下の表のようになります。
◎ 住宅購入プラン
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年度 | 年齢 | 利率 | 年間返済額 | (元金分) | (利息分) | 期末残高 | 元金残高 | |||
1 | 2010年 | 46歳 | 3% | 1,138,104 | 545,571 | 592,533 | 27,314,377 | 19,454,429 | ||
2 | 2011年 | 47歳 | 1,138,104 | 562,166 | 575,938 | 26,176,273 | 18,892,263 | |||
3 | 2012年 | 48歳 | 1,138,104 | 579,264 | 558,840 | 25,038,169 | 18,312,999 | |||
4 | 2013年 | 49歳 | 1,138,104 | 596,883 | 541,221 | 23,900,065 | 17,716,116 | |||
5 | 2014年 | 50歳 | 1,138,104 | 615,037 | 523,067 | 22,761,961 | 17,101,079 | |||
6 | 2015年 | 51歳 | 1,138,104 | 633,745 | 504,359 | 21,623,857 | 16,467,334 | |||
7 | 2016年 | 52歳 | 1,138,104 | 653,020 | 485,084 | 20,485,753 | 15,814,314 | |||
8 | 2017年 | 53歳 | 1.138.104 | 672.886 | 465.218 | 19.347.649 | 15.141.428 |
※家計を両立させるために購入予定額を1,000万円近く減らしましたが、昨今の不動産事情を考えれば、この予算内でお気に入りの物件が見つかる可能性は高いと思います。今からあせらずにじっくり探し、取得を数年先といわず来年でも十分可能と思われますので、2010年を目標にするというのはいかがでしょうか。
3.貯蓄残高が赤字にならないキャッシュフロー表を検討します。
◎ 見直し後のキャッシュフロー表貯蓄残高が赤字にはならない予想となり、家計破綻リスクが少なくなりました。また持参金には手をつけなくて済みそうです。
改善点は
(1)基本生活費の見直し
(2)住宅ローンの負担軽減
住宅ローンは63歳の退職時に残高717万円となっています。この金額だと、退職金と相殺しても老後資金には影響が少ないものと考えられます。
(3)車は夫64歳時に購入予定
計画通りにいけば、お子様の私学中心の教育を続けることが可能となります。ただ、住宅関連費用は社宅時代とは大幅に違い、負担が増えることを覚悟しておいてください。
4.妻の持参金を家計に入れるかどうかを考えるヒントとして
持参金問題は、夫婦間トラブルでよくあるケースです。そしていろんな考え方があります。
現実論的な考え方から、例えば法律相談の「離婚」で夫婦個別の財産を定義しています。民法762条「(1)夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう)とする。(2)夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する」という条文があります。つまり夫と妻のそれぞれの結婚前にあった財産は大切にキープしておくべきものという考え方があり、したがって婚姻関係後に築き上げた財産は夫婦平等で配分しあうとなっています。あくまでも、離婚を前提に法律の解釈論で考えればこうなるということです。
また、精神的な観念論(あくまでも一個人の考え方です)からも考えてみましょう。
「結婚」とは何か・・・それはお互い「生きる為に身を寄せ合うこと」だと思います。結婚という新たなるステージをスタートした時点から、「お金」も「能力」も、互いに持てる力を出し合い、協力して寄り添って生活する。つまり「ギブ・アンド・テイク」で生活を成り立たせていくのだと思います。
夫が働き、妻は専業主婦という場合。夫は外で働き、つまり役務を対価に換えた「給料」を持ち帰る。妻はプロである専業主婦という役務を行いますが、対価としての外からの収入はありません。今のこの関係において、「お互い補い、成り立っているか」ということが認識しあえて今が成り立っていればいいのですが、もし成立してないのであれば、価値観の相違による不満から夫婦の関係はこじれたものになることが予想されますが・・・。
秋沢家は「生きるために寄り添っている」ご夫婦ですか?
これまでを振り返って「バランスが取れている」とご夫婦共に認識し合うことができれば、婚姻期間進行中の今はライフイベントに力を集中しなければなりません。お互いの持てる力を出し切ることです。
一生懸命ライフイベントをこなしていて、「生活資金が不足してきたので、独身時代に貯めたお金を当てにする」というのは、短絡的で不平等ということにはならないでしょうか。また、持参金を安易に家計に計上することは、「ライフイベントを一生懸命乗り切る努力」をないがしろにする行為とも言えるのではないでしょうか。
一生懸命乗り切る方法としてライフプランの現状分析を行い、解決策として、まずは「希望するイベントをあきらめる」または「かかる費用を減額して家計破綻を回避する」という努力をするべきだと思います。
どうしても家計破綻が解決できないのであれば「持参金」に手をつけなければならないということにもなりますが、それは最終手段にとっておきましょう。「持参金」はそれを所有する個人が自己投資などのために使うべきもので、決して安易に家計に組み入れるものではないと思います。
以上のことを家族で話し合ってみて、今後の対応策を実行に映すことが可能かどうかを検討していただきたく思います。