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鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール |
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友永 由紀さん(仮名 34歳 会社員)のご相談
来春の子どもの小学校入学を機に、マンション購入を検討しています。今のところ、住宅ローンは固定金利よりは変動金利のほうがずっと低いので、できれば変動金利で借りたいと思っています。しかし、金利上昇リスクもあるので不安もあります。
友永 由紀さん(仮名)のプロフィール
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変動・固定の金利タイプを迷う前に、どのくらいの額であれば無理無く返済可能かを把握することが大事。
1.固定金利と変動金利のメリット・デメリットを理解しておきましょう。
友永さん、こんにちは。コロナ禍が落ち着いてきて以降、マンション建設も活発になっていますが、円安による資材の高騰や世界情勢の悪化による流通コストの値上がりなどで、物件価格がコロナ禍前よりも2割程度は値上がりしています。借り入れの元金が大きいと当然利息負担も大きくなるので、住宅ローン金利は気になるところですよね。固定金利vs変動金利は永遠の課題といえるでしょう。
どちらが良いか以前に、まずは固定金利、変動金利それぞれのメリット・デメリットを確認しておきましょう。
- 【固定金利】
- 〇将来にわたり金利が変わらないので、総返済額が確定し、生活設計しやすい。
●金利は変動より高めに設定されている。
- 【変動金利】
- 〇金利は固定より低めに設定されている。
〇将来的に低金利または金利低下局面であれば、固定金利よりも総返済額が少なくて済む。
●金利の変動により、毎月返済額や総返済額がわかりにくい。
●金利がいつ、どれくらいの幅で上昇するかわからないため、想定以上に総返済額が大きくなる可能性がある。
固定と変動のメリット・デメリットは表裏一体といえますが、いずれにしても、金利がどのような水準で、どのような方向に動くのかがポイントになります。
かつて、2006年にゼロ金利政策が解除された時、その後の金利上昇リスクに備え、変動金利よりも金利は高かったものの、長期固定金利を選択する世帯が増えました。ところがその後も金利は下がる一方で、結局20年以上も超低金利が続き、日銀の政策金利はマイナスにまでなってしまいました。結果的に利息分の差は決して小さいものではなく、「変動にしておけば良かった」と思った人も少なくありませんでした。
2024年5月現在の住宅ローン金利を見てみると、35年の全期間固定の場合ですら、1%ちょっとという低金利で出している金融機関もあり、変動金利にいたっては、0.2%台というのもあります。1%台でも昔に比べれば十分低いのですが、変動金利と5倍前後の違いがあると、やはり変動金利を大きな魅力と感じるのも当然でしょう。
ただし2006年の頃と違うのは、2024年春の、日銀のマイナス金利政策解除を受けて、国内の長期金利(10年国債の金利を基準としている)が上昇してきたことです。長期金利の影響を受ける住宅ローンの固定金利を上げる金融機関もジワジワ増えています。
一方、住宅ローンの変動金利に影響するのが短期金利(短期プライムレートを基準としている)です。日銀としても、かねてより短期金利を上げていきたいものの、今すぐ上げられる状況にはないとの判断のため、もうしばらくは短期金利に動きはないのではないかとみられています。ただ、賃金上昇が中小企業まで幅広く浸透するなど、金利上昇への環境が整ってくれば、上げる方向に動くのは間違いないでしょう。したがって、2006年の頃よりも金利上昇の可能性は高まっていると思っていたほうがよいでしょう。
2.金利は「どちらが良い」ではなく、「どちらが向くか」と考えましょう。
固定金利も変動金利もそれぞれメリット・デメリットがあるので、どちらが良い・悪いということではありません。あくまで「我が家にとってどちらが向いているか」で考えましょう。
金利上昇リスクに対応できるようであれば、変動金利の恩恵を享受しようと思うのも悪くありません。変動金利を選ぶポイントとしては3つあると考えます。
- ①借入金額が少ない
借入金額を少なくすれば、当然負担利息も少なくて済みます。十分な自己資金を準備し、借入金額を少なくできるのであれば変動金利を検討する余地はあります。 - ②借入期間を短くできる
借入期間は、言い換えれば金利変動リスクにさらされる期間です。したがって借入期間が短いほどそのリスクは低くなります。ただし、最初から15年、20年でローンを組んでしまうと、毎月返済額の負担が大きくなるため日々の生活がきつくなり、その結果、貯金を引き出すことになっては本末転倒です。ですから、通常のように30年、35年で借りて、繰り上げ返済で期間短縮することを目指すほうが無難です。 - ③貯蓄力があるか?
目安として、毎月固定金利と変動金利の差額分+α以上の貯金ができているかです。将来、金利上昇に備え、固定金利への借換えを検討することもあるかもしれません。金利差分の貯金ができているということは、固定金利の水準でも返済できる余力があるということです。
ただし、貯蓄は借り換えの必要がなければ繰上げ返済に充当するなどできますが、借換えた場合には、以降、アップした利息として返済に消えます。ですから、教育資金や老後への蓄えなどを考えると、それとは別枠でプラスα(通常の貯金)もできていないといけません。
3.まずは予算ありき。そして金利動向に注視していくことが重要です。
お子さまが来年小学校に入学とのことで、今後の進路によって教育費の負担も大きく変わってきます。お子さまの成長にともない、教育費や生活費が上昇し、支出のピーク時でも返済していけることが重要です。金利選択はもちろん重要ですが、余裕のある返済プランであるためには、やはり返済額から予算を決めることが重要です。
そのためには、変動金利もずっと当初のままではなく、ある時期に金利が上がることを想定したケース、固定金利でのケースなど、いくつか条件を変えてシミュレーションしてみるとよいでしょう。金利はいつ、どの程度上がるかわからないからこそ、金利がどの程度まで上がると我が家の家計に危険な状況になるかの目安を、あらかじめ知っておくことが重要なのです。
なお、先ほど固定金利への借換えの話が出ましたが、借換えのタイミングが非常に重要となります。金利は一般的に長期金利が上昇し、遅れて短期金利が上昇していきます。つまり、変動金利が上がるとわかったときに借換えようとしても、そのときにはすでに固定金利は上がっています。
だからこそ、あらかじめシミュレーションで、我が家にとっての金利の危険水準の目安を知り、固定金利の動向に注視しておくことが肝要です。
金利上昇に備えるための手を打ちたいです。住宅ローンの借り換えや繰上げ返済で注意すべき点はありますか?
最近、住宅ローンの固定金利が上昇しています。固定金利と変動金利で迷っていますが、どちらにすれば良いでしょうか?
賃貸とマイホーム購入、どちらがオトクですか?低金利のうちに買うべきでしょうか?