第8回:賢く医療保険を選ぶには?


最近、医療保険が人気です。
昼下がりの時間帯にコマーシャルが流れ、生活習慣病や入院保障の充実したものや、生存すると定期的にボーナスを受け取れるものまで、とても魅力的な商品がたくさん出てきたようです。その一方で、公的医療保険でカバーできる範囲は広いので、公的医療保険と民間の医療保険を賢く組み合わせたいものです。

今回は、医療保険について考えてみましょう。

公的医療保険でカバーされる範囲は意外に広い!

病気や入院などの万が一に備えての医療保険。しかしながら、実は私たちは医療保険に既に加入しているという事実を意外と見落としがちです。つまり、「組合健康保険」や「国民健康保険」などの公的医療保険です。

日本に住んでいる人であれば、必ず何らかの公的医療保険に加入しています。サラリーマンであれば会社を通じて「健康保険」に加入しており、毎月の給料やボーナスから差し引かれています。また、自営業者などであれば「国民健康保険」に加入しており、市区町村に納めるようになっています。実は、この公的医療保険がカバーする範囲は意外に大きいのです。

3歳~69歳の患者さんの場合を例にみていくことにしましょう。
例えば病気やケガの治療を受けて、病院の窓口で支払う金額は、実際にかかった医療費の3割でよいことになっています。
さらに高額に医療費がかかったときには、負担が重くなりすぎないように「高額療養費制度」があります。

高額療養費制度では、同じ人が同じ月に、同じ病院で支払った医療費の自己負担限度額が、収入・所得の区分ごとに決まっています。以下の表に、70歳未満の場合の制度内容をまとめてみました。

表1:高額療養費の自己負担額

患者の所得区分 自己負担限度額(月額) 4回目以降
上位所得者 150,000円+(医療費-500,000円)×1% 83,400円
(会社員・・月収53万円以上、
  自営業・・年間所得600万円超)
一般 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 44,400円
(会社員・・月収53万円未満かつ住民税課税
  自営業・・年間所得600万円以下)
市町村民税非課税者 35,400円 24,600円
(低所得者)

※差額ベッド代や入院中の食事(1食260円)などは対象外

ちなみに、70歳以上の場合は1ヶ月あたりの自己負担限度額は70歳未満よりも少なくなります。(例えば「一般」の所得の場合・・限度額44,000円)

詳細は、お持ちの健康保険証の取扱い担当(健康保険組合、市区町村など)に問い合わせてみましょう。

以上のことから、医療費に対する基本的な考え方としては、以下の図の通り、公的医療保険でカバーできない部分を民間の医療保険などでカバーすれば良いことになります。

では、実際にいくらぐらいかかるのかをシュミレーションしてみましょう。
以下が病気別の医療費に関するデータです。

疾患名 平均年齢(歳) 入院日数(日) 医療費(円)
胃の悪性新生物(胃がん) 70.0 31.6 1,139,810
結腸の悪性新生物(結腸がん) 68.2 20.6 1,051,160
直腸の悪性新生物(直腸がん) 65.7 26.0 1,283,530
気管支および肺の悪性新生物(肺がん) 72.6 26.2 906,920
乳房の悪性新生物(乳がん) 56.6 13.3 623,080
急性心筋梗塞 69.0 21.9 2,393,800
脳梗塞 74.7 26.5 1,079,480
脳出血 67.1 38.0 1,598,830
糖尿病 62.2 20.8 543,810
大腿骨頚部骨折 79.0 38.7 1,697,510
(データ:社団法人 全日本病院協会)

例えば、医療費の最も高い急性心筋梗塞の場合、同じ月に22日ほど入院すると医療費の合計が2,393,800円になります。仮に3割負担だと718,140円となりますが、実際には高額療養費制度が適用され、所得区分が一般の場合、実質的な負担は、表1の公式に当てはめると80,100円+(2,393,800円-267,000円)×1%=101,368円で済みます。つまり、718,140円-101,368円=616,772円分も負担しなくて良いのです。また更には、会社によっては企業内で社員等を対象に、独自の上乗せ基準があるところもありますので、その場合は負担しなければならない額はさらに少なくなります。

このように、医療費はたくさんかかると思いがちですが、意外と負担金は少なく済むというのが実情なのです。

個人で違ってくる民間の医療保険の必要性!

では、公的医療保険があれば「民間の医療保険は必要ないのでは?」と言われそうですが、民間の医療保険には、公的医療保険ではカバーできない医療の保障を付けることができるのです。この章では、民間の医療保険(以下、医療保険とします)の必要性を考えてみたいと思います。

医療保険が必要かどうかは個人の考え方で違ってきます。ガン家系だからと公的医療保険以上の手厚い医療の保障を望む人もいますし、逆にあまり将来の医療費に不安を持たない人もいます。まず、自分に必要な保障は何かを考えてみましょう。特定の病気、多種類の病気・ケガによって、入院にかかる費用、通院など、人によって様々です。公的医療保険でカバーできない保障があれば、民間の医療保険が必要になります。

ただ、支払う保険料が却って家計を圧迫するようであれば、もう一度医療保険の内容を見直してみましょう。受取る保険金だけに注目しがちですが、これから支払っていける保険料なのか、将来のライフプランを考えて検討することです。

また、保険の担当者に聞いてもご自身が保障内容が理解できない医療保険であれば、加入はお勧めしません。
自分でも納得のいく医療保険に加入をし、かつ将来医療費に困らないような安心した生活が送れるようにすることが理想の医療保険なのだと思います。

話題の医療保険は自分に必要?よく考えてから加入しましょう!

医療保険は年々多種多様化してきています。選ぶときにはより慎重さが求められます。

私は、個別の保険商品について「お勧めだと思うか?」といった質問をよく受けますが、「選ぶ人に合った保障が得られる=お勧め」であると答えています。それに個々の医療保険には特徴があって、それぞれメリットとデメリットをもっていますので、医療保険を選ぶ人が特徴を十分に理解した上で、どれだけ許容できるかでも、お勧めできるかは
決まってきます。

これらを踏まえて、ここからは2種類の医療保険を例にしながら、医療保険の必要性を考えていくことにします。

1つは実損填補型の医療保険です。現在、販売されている医療保険は、“入院給付金がいくら”とか、“一時金がいくら”と定額で設定されている「給付型」がほとんど。ところが、実損填補型の医療保険では、実費を補てんする保険のため、3割の自己負担分から公的医療保険でカバーできない差額ベッド代や食費、入退院時の交通費などの諸経費や高度先進医療の技術料などまで保障してくれます。したがって入院時の費用全般が心配な人には、実損填補型の医療保険はお勧めです。それに今後、自己負担額の増額にも対応できるので心強いと思います。

ただ、給付型と組み合わせされていて、保障期間も終身ではなく5年、10年ごとに更新させるタイプが多く、保険料は更新時の年齢や健康状態で計算されるために、その度ごとに高くなっていくことに注意しなければなりません。なかには支給額に限度額が設けられているものもあります。また、高度先進医療の技術料は給付型でも保障されますし、差額ベッド代などは給付型でも足りる場合もあることを考えると実損填補型以外にも、選択肢としては、保険料の変らない保険期間が終身の給付型に加入するという方法もあります。

次は、最近話題の「生存還付給付金付医療保険」と呼ばれる医療保険です。この保険の特徴は、「生存還付給付金算定期間」(以下算定期間とします)終了までに生存していれば「生存還付給付金」(○○ボーナスなどの名称)を受け取ることで、これまで払い込んだ保険料相当額が戻ってくる、つまり実質の保険料負担額0円となるということです。ただ、生存還付給付金を受取るにはいくつかの条件があり、加入する前に注意点があります。

生存還付給付金の支払いの仕組みは以下のとおり。

上の図をみながら説明しますと、生存還付給付金は、算定期間内に支払った「払込保険料相当額」から、受取った「入院給付金等」や「一定期間毎の生存給付金」を差引いた金額。算定期間は「保険料払込期間」と同一期間、または一定期間(5年間など)がプラスされます。

もっとも、生存還付給付金の支払いには条件があり、算定期間中に解約するとか、死亡すると受取ることが出来ません。また、保険料はかなり高めです。したがって、この医療保険は掛け捨てではなく、多少高い保険料を支払っても将来の老後資金なども併せて保険で運用を考えている方に向いている保険です。

ただし、もし高い保険料を支払う余力があるのであれば、むしろ医療保険は医療費の備えだけに絞り、老後資金などに回した方が利息も得られるため、基本的には保険は万が一のためのものと割り切り、貯蓄とは分けて考えるという考え方もあるかと思います。

「貯蓄で医療費を備える」という考え方

公的医療保険で足りない部分をカバーするには、一番手っ取り早いのは民間の医療保険に加入するというのが一つの選択肢ですが、そのほかにも、「貯蓄」でカバーするという考え方もあります。

例えば、表1における一般所得の人が重い病気にかかった場合、医療費が1ヶ月あたり100万円かかったとしても、最大負担しなければならない金額は87,430円です。また、4ヶ月目からは自己負担額は44,400円に減額されるため、1年間ずっと医療費が毎月100万円ずつかかり続けたとしても、負担しなければならない額は87,430円×3ヶ月+44,400円×9ヶ月≒66万円です。つまり、約70万円の備えがあれば、医療費の大部分を医療保険がなくても1年間はカバーできるわけです。この70万円は別の口座などでプールしておいて、もし何もなければ自分たちのご褒美として丸々使うこともできます。つまり、貯蓄が少なければ、万が一に備えて医療保険という選択肢でもいいですし、或いはある程度まとまった貯蓄があれば、医療保険に加入しないという選択肢もあるのです。

医療保険を選ぶ上で大事なのは、将来の病気という不安に対して「いくらぐらいかかるか」を見極め、生活費を圧迫しないようにしながら選ぶことがポイントであり、そのときには「貯蓄で備える」部分と「医療保険で備える」部分の両方があることを覚えておくと良いでしょう。

本当に備えるべきはお金だけではありません!

「万が一の病気に備える」というと、お金のことばかりに目がいってしまいがちですが、本当に備えるべきは「病気にならない」ことではないでしょうか。つまり、毎月医療保険にお金を「払う」だけでなく、自分の体にも注意を「払う」ことが大切だと私は考えます。自分の体に注意を払うことは、お金をかけなくても「普段の飲食に気をつける」ことや「運動を定期的に行う」ことで実現が可能です。

お金も健康も、生活を送る上でかけがえの無い大事な資産であるという点では共通です。医療費を考える上では、公的医療保険(或いは会社の制度)と民間の医療保険を賢く組み合わせながら、病気の予防なども含めた無駄のない備えを考えてみてはいかがでしょうか。

執筆:古川 悦子(ふるかわ えつこ)
FP事務所「フェリースライフ」代表。生命保険会社で保険事務、コールセンターのお客様相談など20年間勤務した後FP独立。現在の活動は、個別相談、セミナーの講師、保険コラムやマネーエッセイの執筆、新聞や雑誌の取材、保険会社営業活動用ツールの企画、会報のマネーコーナー監修など。「保険選びネット」コラム掲載中。

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