第5回:意外に知らない!? 日本の介護制度の現状と問題点(1)


「介護にかかるお金が1,000万円!?」と聞くと、驚いてしまいますよね。でも、脅かしているわけではありません。ある程度のお金がないと老後を乗り切れない状況になってきているのが日本の現実なのです。そこで今回は、2000年4月にスタートした公的介護保険の仕組みや利用の仕方についてを2回シリーズで説明していきたいと思います。

まず1回目の今回は、介護費用はいくらぐらいかかるのか、また介護に対して金銭的にどう備えれば良いのかという経済的側面についてご説明いたします。

公的介護保険の自己負担は1割なのに、なぜ1,000万円もかかるのか?

公的介護保険(以後、介護保険)の自己負担は1割です。つまり、5,000円のサービスを利用したときに支払う金額は、500円ということです。医療保険(健康保険)の自己負担額が3割なのはご存知のことと思います。

では、医療よりも自己負担が低いにもかかわらず、なぜ介護に1,000万円もかかるのでしょうか。その理由は、大きく分けて次の2つがあります。

  • 介護に必要な期間が長期化していること
  • 介護保険以外にも費用がかかること

まず「介護期間の長期化」についてですが、次のようなデータがあります。

このグラフは厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」によるもので、介護が必要だった期間の調査結果です。驚くべきは10年以上の方が20%もいるという点です。また3年以上で計算すると、58.2%にもなります。日本人の平均寿命(2005年)は、男性78.56歳、女性85.52歳で、女性は世界ナンバーワンです。今後も平均寿命は延びていくことが予想されており、介護にかかる期間も長期化することが考えられます。介護状態になると長ければ10年以上。これは介護される側にとっても、介護する側にとっても無視できない年数です。

無視できない、介護保険以外にかかる費用!

それでは次に、具体的にいくらぐらいかかるのか「介護保険以外にかかる費用」についてみていきたいと思います。「要介護度別の利用限度額」の表をご覧ください。「要介護度」とは身体の状況のことで、要支援1が最も軽度で、要介護5が重度となります。要介護度により1ヶ月の利用限度額が決められており、要介護2の場合は194,800円になります。私たちの自己負担は1割なので、ぎりぎり限度額まで利用した場合は19,480円になります。なお、利用限度額を超えた部分については全額(10割)自己負担になるので、注意が必要です。



しかし、介護にかかるお金はこれだけでは済みません。「衣類・寝具」「排泄介助に必要なおむつ」「介護用品」「医療費や通院交通費」「介護・福祉サービス」など、介護保険対象外のサービスについては、すべて全額自己負担しなければなりません。家計経済研究所の「介護保険導入後の介護費用と家計」によると、介護保険以外でかかる月額の費用は、要介護2の方で48,731円とういうデータがあります。

では、これらのデータをもとに1ヶ月にかかる介護費用について計算すると、

<要介護2の方の介護の月額費用計算例>

19,480円 48,731円 =68,221円
介護保険の
1割負担額
  介護保険
対象外費用
 
※利用限度額まで利用した場合

つまり、1ヶ月の介護にかかる費用の総額は、要介護2の場合で約7万円かかることが分かります。介護状態になると長くて10年くらいかかることを考慮して、介護にかかる総費用を計算すると、

月額7万円 × 12ヶ月 × 10年間 = 840万円

とかなりの金額になってしまいます。この計算例は、あくまで要介護2の方の場合です。その後、重度化することを考えると、介護費用として総額1,000万円位はかかることになります。

さらに追い討ちをかけるのが、介護保険の自己負担割合が現状の1割から2割にアップする話(日本経済新聞2006.5.16の記事より)がでていることです。もしそうなった場合、軽く1,000万円をオーバーしてしまいます。「こんなにお金がかかるのか・・・」と暗くなってしまいますが、お金がないと十分な介護を受けられないというのは、いまの現実でもあるのです。

民間の介護保険を利用するときに気をつけたい3つのチェックポイント!

介護にお金がかかることはお分かりいただけたかと思います。しかし、多くの方は将来かかる介護費用を準備していません。2004年に生命保険文化センターが行なった「介護保障に対する私的準備状況」をみると、経済的な準備をしている人が40.3%、準備をしていない人が54.8%と、半分以上の人は、介護費用の準備をしていないわけです。その理由は、介護に関心がないのではなく、介護の大変さや、かかる費用を実感していないためではないかといわれています。

では、どのように介護費用を準備していけばいいのでしょうか。今から貯蓄していくのもひとつの方法です。その他の手段としては、民間の生命保険会社等が扱っている介護保険(以後、民間介護保険)を活用する方法があります。ここでは、簡単に民間介護保険の特徴についてみていきましょう。

民間介護保険を選ぶ際のチェックポイントは次の3つがあります。

  • 給付内容
  • 給付金の支払条件
  • 保障期間と介護年金受取期間

<給付内容>
給付内容は次の3タイプがあります。

 (1)一時金として受取る
 (2)年金として受取る
 (3)一時金と年金の併用

「一時金」は、手すりをつけるなど住宅の改修や、有料老人ホームへの入居など一時的にまとまったお金が必要な場合に有効です。一方、「年金」は、継続的にかかる費用に備えることができます。併用タイプは両方の保障が受けられますが、同じ保障であれば保険料は高くなってしまいます。介護期間の長期化を考えると、「年金」による受取方法は欠かせないところです。

<給付金の支払い条件>
一時金や年金を受取るには、保険契約に定める所定の要介護状態の基準満たす必要があります。保険会社が独自に定めた基準と、公的介護保険の認定と連動するタイプがあります。後者の方が私たちにとって分かりやすく、将来の介護資金計画も立てやすそうです。

<保障期間と介護年金受取期間>
保障期間、介護年金受取期間ともに、「有期」(一定期間、一定年齢まで)のものと「終身」(一生涯)の2つのタイプがあります。保障期間とは保障を受けられる期間で、介護年金受取期間とは実際に年金が受取れる期間のことをいいます。例えば、保障期間が60歳まで、介護年金受取期間が終身の場合、60歳未満で給付金の支払い条件を満たせば、一生涯年金を受取ることができますが、60歳を過ぎて介護状態になった場合は、1円も年金は受取れません。「介護」という保障を考える以上、保険料は高くなってしまいますが、「保障期間」「年金受取期間」のどちらも終身タイプ(保障期間・年金受取期間ともに年齢・期間の制限がないもの)にするのが望ましいでしょう。

このように、民間介護保険を利用する際には、「給付内容」「給付金の支払い条件」「保障期間と介護年金受取期間」の3点については必ずチェックするようにしてください。民間介護保険は様々なタイプのものがあります。どの商品が良いのか悪いのかではなく、自分に適したものはどういうものなのか、という視点で考えることが大切です。

お金があれば大丈夫!? そう甘くないのが介護の難しさ!

さて、今回は介護の「金銭面」について見てきました。しかしお金があれば介護は乗り切れるのか、というとそう簡単なものではありません。

介護ヘルパーさんは、介護状態の人をケアし、介護をしている家族の手助けもしてくれます。しかしヘルパーさんは不足気味なのです。よく日本は「少子高齢化」といいますが、これを介護にあてはめると、介護をしてくれるヘルパーさんが減り、介護を必要とする高齢者が増加するということを意味しています。いくらお金があってもヘルパーさんがいなければ、話になりません。一方、施設に入所しようと思っても、満員で断られることも珍しいことではないのです。

考えたくないかもしれませんが、これが今の日本の現状です。私たちは大変でもこの現状の中で介護と向き合い、生きていく必要があるのです。

また、経済的な面以外にも日本の介護制度などについて知っておかなければいけないことや、また自分が介護する立場になった場合、或いは介護される立場になった場合に備えて気をつけておくべきポイントがあります。詳しくは次回、説明していきたいと思います。

執筆:中野克彦(なかの かつひこ)CFP®, 1級FP技能士
リンク・イノベーション代表。介護コンサルタント。介護事業所や一般企業のコンサルタントとして経営戦略立案、マーケティング戦略の策定等を行なう一方で、FP講師として大学や資格学校、大手生保会社での研修など年間100本以上のセミナーをこなす。日本FP協会「くらしとお金の相談室」相談員。

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