第13回:日本の寄付金がアメリカの100分の1の理由は?【子供に話すお金の話】

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「寄付」というと、みなさんは何を想像するでしょうか。寄付とは、自発的に、金銭や財産を団体や施設などに無償であげることを指します。たとえば、大地震が起きたときには「義援金」という形でテレビや新聞などを通じて寄付を募集します。また、毎年10月から12月の年末にかけて、赤い羽根の共同募金の活動が全国で行われますが、これも全国の国民から寄付を集めます。そこで今回は、「お金を寄付する」ということについて考えてみたいと思います。


アメリカと日本では「寄付」の額にはこれだけの差がある

地震などの災害に対する義援金や、赤い羽根の共同募金のように、日本では広く寄付を集める活動が行われています。しかしながら、実はアメリカと比較すると、寄付で集まるお金の総額は、とても少ないのが現状です。政府(内閣府:税制調査会)の資料によりますと、アメリカでは2002年の個人が寄付をした総額は22兆9千億円にも上るのに対し、日本では2189億円と、実に100倍以上の大きな開きがあります。

(2002年)

  日本 アメリカ
個人 2,189億円 22兆9,920億円
法人 5,092億円 1兆5,255億円
合計 7,281億円 24兆5、174億円

出所:平成17年内閣府税制調査会資料

ここ数年のニュースでも、マイクロソフトのビルゲイツ氏や投資家のウォーレンバフェット氏が数兆円規模のお金を寄付すると発表して、世界中を驚かせました。アメリカでは、昔からカーネギーやロックフェラーなどの大資産家が寄付を行っており、現在でもゲイツ氏やバフェット氏に限らず、1年間の所得が10万ドル(約1100万円)以上のお金持ちの人は約9割の人が寄付をしています。また高所得者だけでなく、低所得の人も含め一般の庶民が地元の教会やNPO活動へ多額の寄付をしていることからも、アメリカ人にとって寄付は日常生活の中で決して特別なことではありません。それに対して、日本では1年間の所得が5,000万円以上の人でも1割程度しか寄付をする人がいないのが現状であり、それよりも所得の低い日本人は、寄付をする人の割合がさらに少ないという状況なのです。では、いったいなぜ、日本とアメリカでこんなに大きな差があるのでしょうか。

これには大きく分けて「文化の違い」と「税金の制度の違い」の2つの理由が考えられます。まず文化の違いについてお話ししますと、アメリカでは「お金を持っている人が、貧しい人に分け与えるべきである」というキリスト教の考え方による影響が大きいといわれています。キリスト教では多くの教会の人たちが自分の稼いだお金のうちの1/10を献金しており、これは旧約聖書の中に書かれている律法で定められていたことに由来しています。ちなみにキリスト教徒の多い韓国でもアメリカと同様、俳優のぺ・ヨンジュンさんをはじめとして多くの芸能人が寄付を行っているという話は有名です。

次に、税金の制度の違いについてお話しします。アメリカでは寄付をたくさんした人は、支払う税金の一部を免除してくれます。それに対して、日本では寄付をしても、税金を免除してもらえるための基準がとても厳しく、なかなか免除を認められないという事情があるのです。例えばアメリカ合衆国では、自治体や学校のほかに宗教や科学、それに絵画や音楽といった芸術分野など、幅広い団体への寄付が認められています。しかし、日本では個人が寄付として認められるのは、都道府県や市などの地方自治体、学校やごく一部のNPO法人などの狭い範囲に限られています。また、国が定めた団体に寄付をしようとしても、日本の税金の制度上、免除を受けることができないケースもあります。

例えば、日本ではかつてこのようなことがありました。2003年にソニーの元会長である大賀典雄氏がソニーの会長を辞めるときに、16億円の退職金を長野県軽井沢町に寄付しようとしたことがありました。しかし税制上の制約から、結局4億円もの税金がかかってしまい、税金分を差し引いた12億円しか寄付ができなくなってしまったということがありました。これは退職金として受取る場合は税金を支払わなければならない決まりとなっているからなのです。もともと日本の国が“退職金を寄付する”という人を想定しなかったために起きたことですが、日本ではお金を持っている人が寄付をしようとしても、まだまだ制度が整っていないという現状があるのです。

日本はなぜこんなに寄付に厳しいの?

では、なぜこのように日本は寄付に対して厳しいのでしょうか。ます、この疑問に答えるために、まず税金の役割についてお話をしたいと思います。みなさんは、税金の重要な役割の一つに「貧富の差を小さくする」ということがあるのをご存知でしょうか

お金持ちの人からよりたくさんの税金を取り、それを貧しい人やお金の必要な人の生活に役立てられるようその税金を使うことにより、貧富の差を小さくするという働きがあるのです。これを経済用語では「所得の再分配」といいます。

日本では、貧富の差が広がらないようにするために、所得の再分配は「国」が中心となって行ってきました。例えば、お給料をたくさんもらっている人からより多くの税金を集め、そしてお金を必要としている人や学校などの団体には、国が税金で集めたお金を分け与えていました。つまり、どこにお金をどこから集めるか、そしてどこに分け与えるかについてまで、ほとんどすべて国が決めてきたという歴史があります。これは、あまり日本では寄付が多くなかったからという理由もあるのですが、そもそも寄付を無制限に認めてしまうと、自分が設立した団体や知り合いの団体などに寄付をして税金を少なくしようとする、いわゆる脱税に利用されてしまう可能性があるため、国が寄付について厳しい基準を設けて、お金を集める方法から分配する先まで国で一元的に行おうとしてきたからなのです。

それに対してアメリカでは先ほどもお話したとおり、昔から個人が寄付をすることは特別なことではなく、多くの団体に一般市民が寄付を行う文化が根付いていたため、国が中心となってお金を分け与える必要があまりなかったのです。つまり、所得の再分配は個人の寄付の役割が大きくアメリカ政府は日本ほど積極的に援助する必要がないため、むしろ寄付する人たちに対して、税金を安くしてあげることで寄付をしやすいように支援をしてきたのです。

日本のやり方とアメリカのやり方とで、どちらが良いかということは一概には言えません。日本のやり方のように、国がまとめて税金を集め、不公平がないように国が一定の基準でお金が必要なところに分配するという考え方は一理あります。しかし、これには欠点もあります。それは、例えば私が「この人に援助してあげたい」と思っても、国を通して「間接的に」寄付する形になるので、寄付する方も寄付される方も実感がわきません。それどころか、その団体にお金が払われているのかどうか、額がいくらぐらいなのかでさえ調べることも難しいのが現状です。これではせっかく寄付して世の中に貢献しようと思っている人も実感がないため、「それだったらいいや」ということで寄付そのものをやめてしまうことにもなりかねません。これはとてももったいないことです。そのため、最近では国がいったん税金として預かってから配分するよりは、個人や会社が直接寄付する方が効率的ではないか、という議論もなされています。

寄付をしやすい環境を日本にも

では、日本で寄付をする人を増やすためにはどうすればよいのでしょうか。

現在でも日本では寄付をする人はたくさんいます。例えばプロ野球・ソフトバンクホークスの和田選手は、「投球する度に1球につき10本、勝ったときは倍の20本のワクチンを贈る」という約束でワクチン支援を行っており、2005年、2006年の2年間で10万本以上のワクチンを寄付しています。また阪神の赤星選手は、毎年、盗塁数の数だけ車いすを寄付しています。このほかにも芸能人では黒柳徹子さんが「トット基金」を、宮城まり子さんは「ねむの木学園」を設立するなど、有名人の中にも熱心に寄付をする人は多いのです。しかし、アメリカ合衆国では1000万円以上収入がある人の9割が、そして一般の人でも3割以上の人が寄付をしているのに対し、日本では5000万円以上収入のある人でも約1割、一般の人に至ってはごく少数であることを考えると、まだまだアメリカに遠く及びません。

文化の違いなどもあるため、なかなかアメリカほどは増えないとしても、多くの人が喜んで寄付ができるように税金の制度を変えることができれば、もっとたくさんの人が寄付をするようになるのではないでしょうか。

執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。