第6回:日銀の異次元金融緩和の目的は


中央銀行の金融政策がうまくいっているかどうかを見る3つのマネー関連指標があります。

 中央銀行の金融政策がうまくいっているかどうかを見る3つのマネー関連指標 1.マネタリーベース 「ベースマネー」1.マネタリーベース 「ベースマネー」1.マネタリーベース 「ベースマネー」

3つのマネー関連指標とは

1)「マネタリーベース」とは

「マネタリーベース」とは、中央銀行がどのぐらい資金(流動性)を銀行に供給したかを表すものです。
中央銀行は、民間の金融機関から国債や社債を買うことによっていつでもマネーを供給することができますが、しかし、それらの資金が貸出金のかたちで、金融機関の外に出ないと実体経済に影響を与えることはできないのです。
「異次元金融緩和」で日銀は何をしているのかというと、ひたすら金融機関が保有している国債(短期だけではなく長期国債も)を買いまくっているのです。
日銀が国債を買ったおカネはどこに行くのかというと、700ほどある金融機関が日銀に預けている無利息(原則として利息は付きませんが、日銀がとくに必要と認める場合には、利息を付けることができるようになっています。現在は、2008年10月に「補完当座預金制度」が導入され、必要準備額を超える準備預金の保有に対して、日銀は利息を0.1%支払うようになっています)の「当座預金」に行き積み上げられています。

2)「マネーサプライ(マネーストック)」とは

「マネーサプライ(マネーストック)」は、民間が使えるおカネがどのくらいあるかを表すものです。
エコノミストはこのマネーサプライ(マネーストック)に注目します。なぜなら、その動向がインフレ率や名目GDPの動きと連動しているからです。いくら中央銀行がマネーを銀行に供給して1のマネタリーベースを増やしても、マネーサプライ(マネーストック)が増えなければ、インフレ率や名目GDPに影響を与えることはできず、景気は良くならないのです。

3)「国内銀行貸出金」とは

「国内銀行貸出金」とは、文字通り銀行の貸出金です。
これがマネーサプライの量を決めることになります。マネーサプライというのは、次のように「現金通貨」と「預金通貨」の合計であり「預金通貨」には、「M1」~「M4」まであります。

マネーサプライ(マネーストック) =「現金通貨」+「預金通貨」(M1~M3)
M1:要求払預金    M2:定期性預金    M3:郵便貯金    M4:譲渡性預金

従来の経済学では、これら3つの指標は、同じように動くものとされてきたのです。すなわち、マネタリーベースが10%増えると、最終的にはマネーサプライも10%増加し、銀行の貸出金も10%増えると考えられていたのです。
実際にリーマンショック前の世界では、3つの指標はそのように動いていたのです。しかし、日本については、1990年にバブルが崩壊すると、3つの指標はそれぞれ独立した動きを示すようになったのです。

世界も日本と同様に3つの指標は独立して動くように

この現象に対して世界の経済学者は、日本の金融政策の失敗としてとらえたのですが、リーマンショック後は世界も日本と同様に3つの指標は独立して動くようになったのです。
日本については、バブル崩壊の1990年第1四半期を100とし、米国と英国とユーロ圏については、リーマンショック発生時の2008年8月を100として、3つのマネー指標を比較した数値は次の通りです。

  日本 米国 英国 ユーロ圏
マネタリーベース 380 433 464 138
マネーサプライ 184 141 113 106
銀行貸出金 106 99 85 100
『バランスシート不況下の世界経済』/リチャード・クー著 徳間書店

下図を見てください。これは、日本における3つのマネー関連指標の関係を示したグラフです。
これによると1994年までは3つの指標はほぼ同じであったことが読み取れます。

【バブル崩壊で崩れたマネー関連指標の関係:日本】

バブル崩壊で崩れたマネー関連指標の関係:日本

(注)国内銀行貸出記金の季節調整と、2003年以前のマネーサプライ統計との接続は野村総合研究所が行った。
出所:日本銀行「マネーストック」「マネタリーベース」「国内銀行の資産・負債等(銀行勘定)」

量的緩和について

1990年第1四半期を100とすると2013年3月の白川日銀総裁の任期終了時で380、黒田総裁の異次元緩和で505まで一挙に増加しています。つまり、日銀はこの20年間で、金融システムにおける流動性(資金)を5倍に増やしています。
しかし、マネーサプライは20年間で84%しか増えず、銀行の貸出金はほとんど増えていないのです。これらが増えなければインフレにもならないし、景気も20年間冷え込んだままの状態になったのです。
この傾向は、米国も英国もユーロ圏も時期がずれただけで同じような傾向を示しているのです。日本では1990年代にバフルが崩壊し、資産価値の暴落が起きています。クー氏の理論によると、これにより、マネーフローのある企業は借金の返済をはじめ、バランスシート不況に突入したということになります。
金利がほぼゼロのときに、多くの企業が資金を調達して事業を拡大せず、一斉にそれを中止し、借金返済をはじめたら、経済は2つの需要を失うことになって失速します。
1つは、企業がキャッシュフローを投資に使わなくなったことで失われる需要であり、もう1つは、企業部門が家計部門の貯蓄を借りて使わなくなったことで失われる需要です。これらの需要が失われ、不況になります。

日銀が異次元量的緩和をなぜ行うのか?

では、日銀が異次元量的緩和をなぜ行うのでしょうか?
目的は、国債を買うためマネタイゼーション(現金化)と推測できます。
国債のマネタイゼーション(現金化)とは、政府が発行した国債を、日銀が買って、現金を政府に与えることです。日銀がマネタイゼーションを行うことは法が禁じています。
もちろん日銀は、政府から直接、国債を買っているわけではありませんが、日銀が証券会社に国債の買い注文を出し、債券市場を経て、全国700以上の金融機関から買っています。

これは、まさしく隠れたマネタイゼーションであり、国の財政がいかに危機的状態であることを示していると思います。

政府が発行した国債を、日銀が買って、現金を政府に与える

執筆:チームM 代表 松井信夫(ファイナンシャルプランナー)CFP®
株式会社ウィム 代表取締役。NHK文化センターをはじめ、全国各地で年100回以上のセミナーを行う人気ファイナンシャルプランナー。
“プロのノウハウを分かりやすく”をモットーに、ジェスチャーを混じえて説明するセミナーは、笑いあり、涙あり、飽きさせない語りが評判です。
顧問契約のお客様へのコンサルティングでは、リーマンショック、ギリシャショックなど数々の金融危機の中でも、お客様の資産を増やし続けてきた実績が有名。
著書に、『金融時事用語辞典』(共著、金融ジャーナル刊)、『銀行では絶対に 聞けない資産運用の話』(書肆侃侃房刊)がある。
チームMの本部は銀座6丁目の株式会社ウイム内にあり、毎月全国からFPや金融関係者が知識向上、スキルアップ等の為に集まり、相互研鑽を行っています。

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