「遺言」はいつでも何度でも作成できるが ~高齢期、本当に必要なときに作成できないことも…~


高齢期、本当に必要なときに作成できないことも…

   

平成27年1月から相続税の基礎控除は4割の削減、贈与税の最高税率は55%にアップ、巷では相続と贈与のセミナーが相変わらず活況です。もはや相続税は一部の資産家だけの問題ではなくなりました。それなりにゆとりがある世代が、それぞれの家庭の事情により「遺言信託」「教育資金贈与信託」「家族信託」などにも興味を持ち始めています。合わせて相続トラブルを防ぎ自身の意思を伝えるために「遺言」を作成する人も増えています。

一方、社会の情報から取り残されている人もいます。相続は資産家だけに起こるもの、我が家は大丈夫と考える多くの人は、資産がそれほど多くないから、子どももいないから相続税は関係ないと思っています。しかし、現実は、資産がない人ほどきちんと相続を意識した対策が必要となることもあるのです。今回は、高齢認知症のAさん夫婦の例でお話します。

   

改めておさらい・相続税 ~ 平成27年1月以後

平成27年1月以後に発生した相続又は遺贈の場合、資産の総額(相続した人の課税価格の計)が以下の基礎控除額以下の場合、相続税がかかりません。

遺産に係る基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

「遺言」による相続人の指定がなければ、民法に定める法定相続分で分けることになります。
相続人が配偶者のみの場合は、配偶者がすべて相続します。配偶者と子がいる場合は、配偶者と子が2分の1ずつ相続します。親も子もいないが兄妹存命の場合は、妻3/4、兄妹1/4相続します。

法定相続分の図 日本FP協会 FPテキスト「FP6:相続・事業承継設計」引用より一部修正

日本FP協会 FPテキスト「FP6:相続・事業承継設計」引用より一部修正

   

Aさん(90代)認知症 妻(90代)の場合

Aさん夫婦に子どもはいません。Aさんに兄妹はいますがもう何十年も音信不通です。
年金収入は平均的にありますが、不動産はなく預貯金も多くはありません。もしAさんに相続が発生した場合を考えると……妻の頭に不安がよぎります。ただ、夫婦とも財産も多くないし、付き合いのない兄妹しかいない、と今まで「遺言」など考えもしませんでしたが、いろいろ調べるうちに「遺言」を作成することになり、私が支援することになりました。

ところがそこからが大変。まず公証役場に相談したところ、認知症のAさんは成年後見人の「保佐類型」の方なので、遺言作成能力有無を判断するために医師の「診断書」を取って欲しいとのこと。病院にほとんど通院していないAさんの診断書を簡単に書いてくださる医師はほとんどいません。ケアマネさんの紹介を受けて受診した1つ目の病院で特定健康診断を受診。病院内は80代以上の高齢者と付き添いなどで大混雑、院内滞在時間3時間。

次に紹介を受けた2つ目の病院で「心理テスト」と「MRIの検査」を受けた後が大変でした。
病院の手違いでAさんが行方不明になり、院内中外探し警察官がくるやら大騒ぎ。幸い以前入所していた老人保健施設の職員が偶然公園内を歩いているAさんを見つけてくれ何とか決着。院内滞在時間は4時間。

後日、遺言能力の有無の結果をAさんと2人で聞くために病院に伺いました。今回は朝一番に受診したので、院内滞在時間は2時間弱。但し医師の診断結果は微妙。自宅に帰り、妻のがっかりした様子も気にならないようで、ご本人はニコニコで憎めません。かけた費用と手間もさることながら、病院往復時間を考えると一日仕事、高齢期の手続きの苦労は半端ではありません。

その後、診断書をみた公証人曰く「一度Aさんとお目にかかり話を伺いたい」とのこと。
とりあえず公証人とお会いすることになりましたが、結果は不安どおり不可でした。あとは、Aさんの兄妹が権利を主張せず丸く収まるのを期待するしかありません。今回つくづく反省。もっと早く気づきAさんの状態のいいときに手続きをしておくべきでした。

※保佐(ホサ)類型・・・成年後見制度で分類される補助、保佐、後見の3類型の一つ
補助・・・判断能力が不十分で、財産管理などを適切に行えるか不安がある人
保佐・・・日常的な買い物程度は1人でできるが、判断能力が著しく不十分な人
後見・・・判断能力が全くなく、1人で日常生活を送るのが難しい人

相続では兄妹がいないのと、いるけど音信普通とは同じではないよ!遺言があれば、親も子もいないAさんの相続財産はすべて妻のもの、
遺言がないと1/4が兄妹へ

   

遺言作成効果

では、遺言作成有無で相続税を含めた妻の資産はどれくらい異なるのか。仮に、妻の預貯金500万円で試算。夫Aさんの預貯金を1,000万円と500万円で比べてみましょう。

<遺言の有無で変わる妻の資産(相続額+預貯金500万円)>

遺言の有無で変わる妻の相続額 妻・預貯金500万円

最近は、入居一時金を減らし毎月の管理費を高く設定する施設が増えています。施設管理費を年金収入のみで賄うのが厳しい状況です。当然に年金との差額の支出が増え、預貯金からの取崩しが増えます。原則要介護3以上と制限ができた特養入居も簡単ではありません。
相続税が発生する富裕層の心配はいかに払う税金を減らすことができるかの対策ですが、相続税が発生しない人たちの心配、残された配偶者などがいかに残りの人生を生き残れるかの生存対策です。最低限度の生活費はどちらも同じくらい必要なで厳しさが違います。

富裕層と普通の人のゆとり度(遺言作成しない場合)

富裕層と普通の人のゆとり度(遺言作成しない場合)

   

「公正証書遺言」が増えている

一般的な遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。
今回の被相続人が認知症の人で保佐人がついている場合、遺言書作成能力が問われ後のトラブル防止からも公証人から「公正証書遺言」作成を求められたのも当然です。なお今年から基礎控除額の減額により相続がより身近になっており、公正証書遺言作成数も増えているそうです。平成26年1年間に、全国で作成された公正証書遺言は10万件を超え、平成17年の約1.5倍増、任意後見契約公正証書も9,737件と前年比705件増となっています。

<公正証書遺言作成件数の推移> 平成26年1月~12月
平成 17年 18年 19年 20年 21年
件数 69,831 72,235 74,160 76,436 77,878
平成 22年 23年 24年 25年 26年
件数 81,984 78,754 88,156 96,020 104,490

全国公証人連合会

とは言いながら、公正証書など遺言は一度書いたらそれで終わりではありません。気持ちが変われば何度でも書き直すことが可能です。高齢期の危険はそこにあります。遺言書を書き直す人も多いのです。ご自分の真意で書き直すならいいのですが、言葉上手な人の甘い悪魔の囁きに従って書き直す人もいそうです。いつも本当に親身になってくれる人と、たまにきて高齢者が喜びそうなことをいう人の見分けがつきにくいのも高齢期の特徴です。気軽に遺言書を作成する時代になったのはいいのですが、自分の意思で作成しているようで、実は他の人のいいなりに大切な書類を作成してしまう可能性もあり、見極めが難しいのも現実です。

日頃から、何のために遺言を作成するのか、したいのか、等を自分なりに考えておくことも必要です。
情報は増え、人の心もますます複雑さを増す現代をしなやかに生きるには、今のあなたの生き方にかかっているようです。今の延長上に未来があるのですから…。

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