高齢期の格差拡大 ~お金・健康・品性・理解力・満足度~


お金・健康・品性・理解力・満足度

趣味は旅行と仕事、仕事のうち年金相談も多く、成年後見人を複数受任しています。当然ながら他の人よりいろんな高齢者と接する頻度も高く、素晴らしい高齢者の存在に感嘆し、尊敬し、いい意味で毎日が刺激的です。一方、高齢者の思わぬ言動に触れ、自分自身の反省材料とすることも多々あります。最近特に感じるのが、長い間生きてきた高齢期こそ、人により格差が拡大していると言うこと。目に見えやすいのがお金と健康ですが、少しお話しをすると見えてくるのがご本人の理解力・品性・満足度などです。今回は、日々の生活や相談の現場から感じたことなども含め事例を入れながらお話ししましょう。


<お金> 2人以上の世帯の世帯主60歳以上の貯蓄残高 2,384万円だが・・

貯蓄現在高は、30歳未満が288万円に比べ60歳以上が2,384万円と年齢が高くなるほど多く、負債と貯蓄の差である貯蓄超過額も60歳以上が際立って多くなっています。


【世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高,負債保有世帯の割合(二人以上の世帯)-2013年-】

世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高,負債保有世帯の割合(二人以上の世帯)-2013年-

※総務省 家計調査 平成25年

上図をみる限り、高齢者は豊かというイメージですが、内容をじっくりみてみると、高齢者の実態も見えてきます。

2人以上の世帯のうち世帯主が60歳以上の世帯(2人以上の世帯の49.1%)の約3分の1(31.9%)が貯蓄残高2,500万円以上ですが、500万円未満も約5分の1(21%)と格差大です。

【世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄現在高階級別世帯分布(二人以上の世帯)-2013年-】

世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄現在高階級別世帯分布(二人以上の世帯)-2013年-

※総務省 家計調査 平成25年

2人以上の世帯のうち世帯主が60歳以上で無職世帯(高齢無職世帯)の1世帯当たりの貯蓄残高は2,363万円と前年比217万円増。特に有価証券はアベノミクスの効果で前年比116万円増となりました。有価証券の割合が多い世帯の効果がでたようです。逆に、貯蓄残高が低い世帯は有価証券割合も低いため、貯蓄残高増の効果が少ないことが予想されます。

【高齢無職世帯の貯蓄の種類別貯蓄現在高の推移(二人以上の世帯)】

【高齢無職世帯の貯蓄の種類別貯蓄現在高の推移(二人以上の世帯)】

※総務省 家計調査 平成25年

高齢者の懐具合を平均値でみると若い世代に比べ豊かと言われていますが、生きてきた人生が長い分紆余曲折も味わっている高齢者の格差が大きくなっています。特に就労収入がなくなる無職時、預貯金残高が少ない、年金が低額、かつ賃貸の支出がある高齢者の生活はより厳しいのが現実です。


<健康> 日々の生活習慣がカタチ(身体)にでるのが健康


使わないと体の一部が錆びる、使いすぎると壊れるのが健康のような気がします。無理せず 丁寧に体を使ってあげる習慣づくりがベストかも知れません。特に歯の手入れは高齢者必須です。と言うより若い時から歯の手入れなどの習慣づくりが歯の寿命、しいては健康寿命を長くさせるコツかも知れません。

食べることは生きること。生きることは歯を大切にすることから始まります。特に判断能力がなくなったと周りが気づくまでの空白期間に歯の痛みや喪失が相当進んでいる高齢者をよくみかけます。高齢者の多くは歯周病にかかっていると言われています。歯周病は糖尿病にも影響を与えます。高齢期に起こりがちな大腿骨骨折ですが、糖尿病が重いと手術さえできないこともあるそうです。仮に何とか手術ができても術後に経過がよくないこともあります。まさに歯は健康の源なのですね。

健康づくりは「生活のリズムづくり」から始まる。
毎食きちんと食べることは、生活のリズムつくりに欠かせない習慣。
丈夫な自分の歯があればこそ、食事もおいしく食べられるね。


<品性>


夫婦で暇を見つけて美味しいランチや旅行や公演などによく出かけますが、行く先々で60代・70代の中高年の男女に遭遇します。皆さん羨ましいくらいお元気です。但し、時として人として恥ずかしい場面に会うことも多くなりました。まさに、旅の恥はかき捨てです。例えば、ある日のバス停の出来事。激しく降る雨の中、長い間並んで待っていた人を無視し、バス到着と共にどこからか列に割り込んでバスに乗ろうとした70代の女性たちに後列の男性が「並びなさい!」と咎めました。バツが悪そうに薄ら笑いを浮かべた女性たちは、乗車後も大きな声ではしゃいでいました。いつから高齢者は恥ということばを忘れたのでしょう。

「自分は介護の御世話にならないから65歳からの介護保険料は払いたくない」と言う高齢者。年金から自動的に天引きされ手取りが減るのが気に入りません。厚生年金の保険料を払うと手取りが減るから厚生年金に加入したくない人。これまで国民年金の保険料はほとんど納付しておらず、今更厚生年金に加入しても年金は受給できないことを知っており、高齢期困れば生活保護が受けられることを視野にいれた発言です。年金額と比べた生活保護費の妥当性がよく話題になりますが、以下から支給額のみで単純に比べられません。


  1. 国民年金の老齢基礎年金満額と保護の金額を比べがちですが、そもそも老齢基礎年金を満額いただいている人自体が少ない。
  2. 生活保護を受けると、国民健康保険から除外されるので、医療保険料の負担はありません。かつ、医療券で治療を受けられるので原則、自己負担は不要です。また、介護保険料は、生活保護費に上乗せに支給されるので、実質の自己負担は不要。介護券で介護サービスを受けたときも原則、自己負担不要です。結果、慢性疾患・介護が必要な人で医療費・介護費用大の人はプラスマイナスで効果大。
  3. その他住宅費手当などの扶助あり。
  4. そもそも年金と異なり、保険料の支払いなしで受けられるのが生活保護。

手厚い生活保護は困っている人には素晴らしい制度ですが、将来を見据えて少ない収入からわずかずつでも積立てておこうと頑張っている人にお会いするたび、いただいたお金は使いきる生活になりがちな生活保護に矛盾も少し感じています。


<理解力が不足~ベストの選択ができない>

高齢期の理解力も人それぞれ、年金一つとっても理解不足のため明らかにソンと分かる選択をする人もいます。ゆとりを持って専門家の話を聞く姿勢も大切です。

例えば、61歳から報酬比例部分を受給する男性が、60歳で退職予定。
現在60歳の男性(昭和29年7月7日生まれ)は、60歳0ヵ月で老齢基礎年金を繰上げ希望。
男性は特に生活に困っていないが早く年金を受けたい一心、相談員の説明も耳に入りません。長期で受給する年金だからこそ、いろいろしくみを知り納得して請求して欲しいと思っていますが・・・

60歳で退職、失業給付(基本手当)を受給後、老齢基礎年金を繰り上げすると損失も少ないとアドバイスしたが・・・


<アドバイス内容>

61歳から報酬比例部分を受け取る人が、60歳0ヵ月で老齢基礎年金を繰り上げると報酬比例部分もセットで繰上げます。60歳退職後、ハローワークで失業給付を受給中は繰り上げた報酬比例部分の支給は停止されます。繰り上げた老齢基礎年金は失業給付受給中も受給できます。年金を繰上げると生涯金額は減額されたままです。従ってどうしても繰り上げ希望なら、失業給付をいただいたあと繰り上げ請求をした方が年金の減額率を考慮するとオトクになるしくみです。

ハローワークから失業給付(基本手当)を受給中は支給停止。

※経過的加算は考慮せず概略で図作成。


<満足度>

貴方は自分の人生を振り返って自分に満足していますか?
あの時こうしていればもっと違った人生だったかも知れないなんて誰にでもあるでしょう。
でもあのときの選択もやはり貴方自身がしているのです。いろいろあったでしょうが、自分の生きてきたこれまでを飲み込んで未来に進むしかありませんね。
とは言いながら、満足度一つとっても高齢者で格差が広がっており生きにくい時代になりました。たかが相談業務ですが、長く相談を受けているといろんな人に会え、その人の人生に向きあえ、しらない内に相談者から素晴らしい贈り物をいただいています。最近より強く感じるのは、自分の生き様に満足している人は穏やかに会話ができる人が多いということ。私も穏やかにかつ的確なアドバイスができ、より満足していただけるよう、まずは相談を受ける私自身の満足度をもっと高めたいとしみじみ感じています。