第2回:生命保険の予定利率引下げってどういうこと?


最近、「生命保険の予定利率引下げ」に関するニュースが新聞などを賑わしていますね。去る5月23日に保険業の監督を目的とする保険業法の一部改正案が閣議決定されて、国会に提出されました。その案は、生保会社が契約者に約束している予定利率を期間途中でも引下げられることを認めるもので、契約者の中には不安を感じている人も多いでしょう。

ただ、案では、仮に引下げが認められたとしても予定利率は3%が下限になること、そして、将来の保険金支払いのために保険会社で積み立てている責任準備金は減額しないことから、破綻よりは契約者への悪影響が少ないとされています。ここでは、私達が慌てずに判断できるように、予定利率引下げの実現可能性やその手順、影響などを整理しておきましょう。

予定利率って?

そもそも予定利率というのは、生保会社が契約者に対して約束している運用利率のことです。契約期間中、あらかじめ設定された予定利率で運用されることを前提に、契約者の負担する保険料が割り引かれているのです(契約時期別の予定利率目安表は最後参照)。

例えば、バブル期などに契約した人は、高い予定利率で運用されることが前提になっているので、その分、保険料が割安になっており、ちまたではお宝保険とも呼ばれています。一方、そうしたお宝保険が多いということは、保険会社にとっては、契約期間中、高い運用を約束しているのに最近の超低金利・株価低迷の影響で成果があがらず、運用面では赤字(逆ざや)を抱えてしまっていることになります。

2003年度決算で逆ざや大だが、各社は引下げを否定

5月末に発表された生保会社の決算では、逆ざやは国内生保上位10社合計で1兆円以上と相変わらず大きく、法案が通れば、逆ざやを減らすために予定利率の引下げを検討する会社もでてくるのでは?と思うかもしれません。でも、現時点では、どの生保会社も予定利率引下げの申請をする考えはないと表明しています。

おそらく、予定利率の引下げを申請することで、経営に対する不安が世間に明らかになり、結果的に解約が殺到し、悪循環になることを恐れているのでしょう。法案が通っても制度だけという可能性も多いと思います。

予定利率引下げのスケジュールは?

漠然とした不安を取り除くために、ここで、予定利率引下げが認められた後の手順を整理しておきましょう。

  1. 保険会社からの予定利率引下げの申出
  2. 金融庁の承認と解約停止命令
  3. 解約停止期間中(約3カ月)になされること
    • 契約条件の変更案の作成と変更対象契約者への書類送付(理由・変更内容・経営責任・基金の扱いなど明記)
    • 社員総代会(株主総会)での変更案の特別決議
    • 行政当局による変更案のチェックと承認
    • 変更対象契約者による異議申立て手続き(1/10以上の異議で否認)
  4. 契約条件変更の広告と変更対象契約者への通知、および解約停止命令の解除

なお、この解約停止期間は、破綻時よりは短期間で約3カ月程度といわれています。

解約ペナルティはない

また、予定利率引下げの手続きで解約停止期間が終わっても、その後に解約するとペナルティ(手数料)があるのでは?と思っている人も多いようですが、破綻と違い、解約ペナルティは一切ありません。これは、解約に対する制限は、変更対象契約者の明確化など、手続き上の問題から生じることだからです。

以上から、予定利率の引下げは、法案が通っても実際に活用する可能性は現時点では低いこと、また、仮に実現したとしても、最低3%の予定利率は確保され、責任準備金も減らされずある程度は守られること、そして解約できるようになって解約しても何らペナルティはないことが整理できますね。

自分の契約の予定利率などをまずはチェックしておこう

生保に関するいろいろな情報がある中で、少しでも落ち着いて判断できるために、まずは、次の契約時期別予定利率の目安で、自分の契約が影響を受けるかどうかをチェックしておきましょう。もし、契約日がH8年4月1日以前で予定利率が高い契約をお持ちだったとしても、政令で予定利率の下限が3%になっている限り、現状では、新規に加入し直すよりは持ち続けたほうがいいといえるでしょう。また、掛け捨て部分が大きい契約なら予定利率の影響はあまりなく、慌てて解約する必要はないといえます。

ただ、引下げ後の保険会社の経営状態にはやはり注意が必要なので、どのくらいのペースで解約が増えているか、逆ざやの解消状態などを引き続きウォッチしていくことが重要です。

<国内大手生保の契約時期別予定利率の目安>
契約した時期 S60.4.1以前
の契約
S60.4.2~
H5.4.1
H5.4.2~
H6.4.1
H6.4.2~
H8.4.1
H8.4.2~
H11.4.1
期間20年超の保険 5.00% 5.50% 4.75% 3.75% 2.75%

(注)上記は標準的な利率で、会社や商品、時期によって、差が生じることがある。

(ご参考)
■金融庁 国会提出法案「保険業法の一部を改正する法律案」の概要
http://www.fsa.go.jp/houan/156/hou156.html#04

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ファイナンシャルプランナー
吹田朝子