NISAにはどのような投資方法が向きますか?


NISAにはどのような投資方法が向きますか?

井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール
  • 商品や方法ありきでなく、ライフプランから考えましょう
  • NISA自体は目的ではありません。手段の1つと捉えましょう
  • 制度特長は柔軟な視点で考え、臨機応変に対応しましょう

成田 勝二さん(仮名 45歳 会社員)のご相談

NISAの口座としては、自分で決めた投資方法を行ないやすく、また、希望する投資商品のラインナップが豊富で手数料の安い金融機関を選べば良いことはわかります。しかし、その投資方法や商品として、どんなものが良いのか迷っています。
NISAの基本的な特徴は理解しているつもりですが、その一歩先をどう考えれば良いのでしょうか。

成田 勝二さん(仮名 45歳 会社員)のプロフィール

家族構成
本人 : 45歳 会社員
妻 : 42歳 個人事業
長女 : 8歳
※投資経験は10年程度。2012年までに上場株式等の譲渡損失の繰り越し控除あり
※妻は国民年金の第1号被保険者で国民年金保険料のみ納付

NISAは資産運用の選択肢の1つであり、それ自体が目的ではありません。
資産運用の目的が何かを設定することが大切です。

具体的にはキャッシュフロー表を作りましょう。これがなくては何も定まりません

成田さんのご質問にあるとおり、2014年から始まる少額投資非課税制度(NISA~ニーサ)ではいくつかの投資方法が考えられます。その方法に合わせて有効な商品も変わり、それらが定まって初めて利便性の高い金融機関を選べます。

投資方法としては、「年齢や投資経験、金融資産残高、投資に対する考え方やリスク許容度、そしてライフプラン等に応じて異なるので一律に有効な方法はない」とはよく見聞きするコメントです。まったくその通りなのですが、なんとも抽象的ですね。

では、具体的にそれをどう見つければ良いのか。
それは自身のキャッシュフロー表を作ること以外に術はないと考えます。「ライフプランを考えること=キャッシュフロー表をつくること」なのです。

キャッシュフロー表とは、現状の貯蓄・収支状況と、将来希望するイベント等を折り込み、変動予測を数パターン用意して年間収支と貯蓄残高の推移をシミュレーションするツールです。もちろんこれは作成時における単なる予測に過ぎませんので、実体と乖離しないよう、できれば毎年見直して、適宜、計画等の微調整をすることが必要です。

しかし、ライフプランを数値に表したキャッシュフロー予測に基づけば、そもそも資産運用を行う必要があるのかどうか、そして運用によって求める目的は何なのか、投資金額や投資期間をどのように設定すべきか等のスタンスがおのずと固まります
手段から入ると枝葉末節の長所短所に迷ってしまうこともしばしばですが、その前提である目的から入ると実にすんなりと方針を立てられるものです。NISAもまた手段の1つに過ぎませんので、まずは運用の目的とスタンスを明確に持つことが大切です。

さて、キャッシュフロー表は人により家庭により千差万別ですが、これまでの経験上よく見受けられる類型を、便宜的に3パターンに分けてみました。下図はその年間収支と貯蓄残高の推移をグラフ化したものです(数値はいずれも任意の参考値です)。

事例はいずれも対策を講ずることが必要な“何かしらの問題あり”のケースです。対策とは収支の改善、つまり「収入を増やす」、「支出を減らす」を検討することになります。収支両面から手を打てれば相乗効果は増すことでしょう。
そして収支改善の目途が立ったら、実際に貯蓄、投資、保険、ローン等をはじめとする金融商品で資産の形成・運用・活用・防衛・管理等の実行手段に移ることになります。
以下はこのうち、資産の形成・運用に対する考え方をピックアップします。

モデルパターン1 課題-運用目的と運用スタンス例

目先のイベント出費には大きな不安がないものの、数値上では老後に貯蓄が枯渇する懸念のある例で、最も多くの方が該当するタイプです。実際には老後のある時期以降になると貯蓄が目減りする不安から、日々の暮らしのゆとり感が乏しくなってしまう可能性があります。後回しにしがちな老後の資産づくりを、早い段階から検討しなければならないのがこのタイプの課題であり、それが優先すべき運用目的となります。おのずとスタンスは長期運用となるでしょう。

具体的に、まず余裕資金の額と猶予できる期間をみつけます。モデルの場合ではいったん6~7年後に200万円程度まで貯蓄が減りますが、その後は概ね増加し、再びこの水準まで落ち込むのは約20年後であるのがわかりますね。つまり、目先のイベントに影響しない、猶予期間20年の余裕資金200万円を寝かしておかず、効率的に活用して殖やすことを検討するわけです。
とはいえ、全額を一度に集中して運用するのではなく、数10万ずつ等と投資金額と投資時期を分散するのがリスク低減のための定石です。また、20年等にも及ぶ超長期運用は実際には難しいので老後資金形成に向く制度を活用するか、自分で1回の投資期間を数年~10年程度等と区切り、換金時の経済情勢等に応じて運用方法を改めるなど、投資期間や換金時期も分散するのが賢明です。老後に定期的に換金時期を迎え、それを各年の支出に充てられるような仕組みをつくれれば理想的です。
また、足元の収支改善により、余裕資金の額を増やすとともに資産枯渇時期の後退(投資可能な期間の長期化)を適宜検討します。

キャッシュフロー推移モデルパターン1「老後に資産が枯渇していくが、現役中に余裕資金が見込まれるケース」

モデルパターン2 課題-運用目的と運用スタンス例

早急な対策が必要となる事例です。例えば教育費や住居費等の負担が集中して貯蓄が少なくなると、ショッピングクレジットや担保不要のローン等を多用しがちになります。こうなると当然、利息を含め実質的な出費額が増すので収支状況が益々悪化します。最悪、家計が破産してしまうケースもこのような悪循環からくることも多いのです。

具体的にこのようなパターンが予測される場合は、苦しい状況は一時的なものと目を伏せず、徹底的な収支改善による貯蓄増大を図り、少なくともモデルパターン1の状態にまで少しずつでも戻すことを検討するのが優先課題です。スタンスとしては、必然的に預貯金商品が中心の、低リスクで安全確実な方法による積立運用となるでしょう。
また、投資に関心がある場合でも、例えば家族旅行等のレジャー資金やマイカー等の耐久消費財購入資金等で、予め使うことを見込んでいるものを目的とした少額・短期運用に留めるのが求められる基本スタンスです。運用成果が芳しくなかった際もスパッと諦めて換金し、旅行や自動車等のランクを落とすくらいの割り切り感が必要です。

キャッシュフロー推移モデルパターン2「数年先に資産の枯渇が懸念される深刻なケース」

モデルパターン3 課題-運用目的と運用スタンス例

収入の多寡に関わらずこのパターンのように貯蓄が少なめで、かつあまり大きく増減しない方が最近増えています。良くいえば収入水準に応じて適度に支出が抑えられているのですが、悪く考えれば将来のイベントの予測が立てづらく、これをあまり見込んでいないため、不意の環境変化で予測が大きく変わりやすいのが懸念される課題です。
このようなケースでは明確な運用目的を見つけにくい場合も多いのですが、やはり将来に向けた準備はしておきたいところです。
預貯金商品であれ投資商品であれ、ある程度まとまった金額で行うほど運用効率は上がりますので、そのための種金づくりが目的となります。貯蓄商品で行っても何ら問題はありませんが、コツコツ型の積立投資がこのタイプに求められるスタンスでしょう。

いかがでしょうか。今回のご相談では、成田さんが3事例のいずれかに該当するのかどうかはわかりません。ですが、キャッシュフロー予測をベースに捉えれば課題が見えやすくなります。この課題こそライフプラン実現に向けた“目的”です。是非ともキャッシュフロー表を作成することからご検討下さい。

キャッシュフロー推移モデルパターン3「収支環境の大きな変化に弱いケース」

NISA以外の手段も視野に入れる

運用の目的やスタンスが定まったら、次にその手段を検討します。
NISAは確かに魅力的ではありますが唯一の選択肢ではありません。様々な手段を考えることが大切でしょう。 なお、基本的な制度概要は今回触れませんので以下URLをご参照下さい。

・ 政府広報オンラインHP
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201306/3.html

例えば、老後資金づくりが優先されるべき目的である場合、会社員であれば確定拠出年金制度(企業型・個人型)も非常に有効な手段として考えられます。
また、成田さんの奥さまのような個人事業主の方は、国民年金基金と確定拠出年金(個人型)を併用して利用することができるほか、別途、小規模企業共済制度にて任意の積立で老後資金形成を行うこともできます。

これらの制度は共に、受取時にも一定の課税優遇制度がありますが、何より、運用額(拠出金)の全額が所得控除の対象になることが最大の利点です。

投資の元手は自分の収入から拠出します。一般的な投資であれ運用益が非課税になるNISAであれ、所得税や住民税が引かれた後の手取り(after TAX)収入からの投資です。一方、運用額が所得控除になるということは、その額が多ければ多いほど課税対象である税引き前の所得(before TAX)を減らせ、その分、所得税や住民税が軽くなるということです。平たく言ってしまえば将来の資産形成のためのお金を経費のように扱えるということ。この税額軽減分を実質的な運用利率として考えると無視はできないところです。この機に改めて見直してみてはいかがでしょうか。

現状、NISAはあらゆる面で制約の多い制度です。貯蓄をしたい方や貯蓄を優先すべき方はもちろんですが、投資においても、利用できる金額を超えて行いたい場合、利用可能な投資期間より長く行いたい場合、NISAでは扱っていない商品に投資したい場合など、多くの方は従来の課税扱いの投資を並行して行うことになると思われます。
成田さんのように、今後の課税口座で生じる利益を相殺できる“譲渡損失の繰り越し控除分”が残っている場合は尚更です。
いずれにおいても、貯蓄を含め自身の資産運用をトータルで捉えることが大切です。 まずはあまり深く考えずに始めてみれば、その後のキャッシュフローがどう変化するかで、NISAに求めるものが何かを見つけることができるかもしれませんね。

NISAを活用する場合には

話をNISAに戻し、改めて押さえておきたいポイントを考えてみましょう。

さて、NISAとは、2014年から2023年の10年間、専用口座への年間入金合計が100万円(手数料除く)以内なら、その後に時価がいくらになろうと5年間は課税不問とする制度です。また、この期間内であれば、過去のNISA口座から時価100万円までを新年度の入金分としてロールオーバーすることも可能です。

つまり、口座内の資金が2倍に増えようが逆に半分に減ろうが税金は関係なし。かつ、NISA以外の投資の売買とは切り離されるのですから、端的に言えば投資で上手くいった時は恩恵無限大ですが、損失を被ると全く意味のない制度です。

※ ただし、これらは現行制度を踏まえたものです。現在、制度の恒久化、課税関係や取引口座の利便 性向上、対象商品の拡大等を求める声が挙がっており、制度が改正されれば該当しないものもあり ます。

このことから、一般的に次のような利用法や注意点が考えられます。

NISAでは投資期間が限られます。損失は出せないので、最長5年という発想はこの際忘れ、利益が出ればいつでもいったん換金しても良いと思われます。売るか持ち続けるかを迷った際は、たとえその後に値下がりしても良いのか自問してみましょう。

もし投資した資金が目減りしていたら、理論的には最長14年間はロールオーバーして回復を待つことも可能です。
※ 2014年~2015年の入金分が最長14年、以後入金分は1年ずつ短くなります。2014年入金分の場合、 5年目の2018年末に翌年分としてロールオーバーし、その4年目の2022年末に2度目のロールオー バーにより、さらに5年間延長させることが可能です。

しかし、投資において避けたいのは失敗を引きずってチャンスを逃すことです。投資できる金額や期間が限られる制度ですから潔く損失は出し、新たな投資に目を向けたいところです。

毎年の投資額については、当然100万円の上限まで行うのが合理的とは限りません。投資は買値より売値が高くなってこそ意味があります。よって、投資商品が割高になっているタイミングではあえてNISAでの新規投資を抑えるのも一考です。
ただし、マーケットが総悲観の時に逆に値上がりを期待できる投資信託(ベア型)や、マーケットの変化に合わせて投資対象や投資スタンスを変える投資信託(リスクコントロール型等)も登場しています。これらは面白い選択かもしれませんね。

また、NISAでは株式の配当金や投資信託の分配金も非課税の対象です。よって配当重視でいくのも1つの方法ですが、換金時期に値下がりしていては元も子もありません。
どれほどの方が意識するかわかりませんが、NISAでは投資時期も換金時期も一律です。2014年に始めた分は5年目の2018年に多くの方が一度は換金を意識することでしょう。つまり、その時に値下がりする可能性も想定しておくべきです。

最後に

NISAでは、為替差益を狙える外国株式や外国投資信託を選べる金融機関もあります。また、株式累積投資(るいとう)や投資信託の自動積立が可能な金融機関のほか、単元株未満で個別株式に投資できるところや希望する投資金額を指定できるところもあります。
繰り返しにはなりますが、そういった手段から入るといかにも目移りしがちです。ですが、投資期間の長短や積立で行うべきか否かの運用のスタンスをまず定めるようにして下さい。求められるスタンスは、目的が何であるかによっておのずと見えてきます。
そして、もし投資が上手くいかなくなった際には、そういう時にこそキャッシュフロー表を見直し、いつまでなら、いくらの損失までなら可能なのか、目的の再確認を心掛けるようにしましょう。

こちらも併せてご覧ください。

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