目次
30歳を目前にした共働き夫婦です。
これからマイホームプランはどう考えればよいですか?
井上 信一先生 (いのうえ しんいち)プロフィール |
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栗山渉さん(29歳 仮名)のご相談
今は二人で働いています。マイホームも欲しいし、将来的には子供も欲しいのですが、収入や暮らし方が変わっていくことに不安があります。
いくらぐらいの住宅を購入するのが良いのでしょうか?
また、そもそもマイホームプランをどう考えていけばよいのでしょうか?
ご相談者のプロフィール
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暮らし方に合わせたマイホーム選びが大切。
住み替えや購入後の維持費まで含めて長期プランを考えましょう。
住み替えや購入後の維持費まで含めて長期プランを考えましょう。
1.マイホームに何を求めるのかを考えてみましょう
栗山さん、ご相談ありがとうございます。
やはりマイホーム取得は憧れですよね。同時に、お金のことや生活環境の変化に不安もお持ちのこと。そのような矛盾を抱える方は少なくはありません。ですが、本来、「憧れ」と「不安」が共存している状態は理想的な状態とはいえません。ならば、まずは「理想的な住まい」は何か、その優先順位を考えてみてはいかがでしょうか? マイホームに憧れを抱く理由は、資産の「所有欲」だけではないはずです。ご相談の言葉の中にもある、家族の希望する「暮らし方」。これを実現できるような住まいが、答えに繋がるのかもしれませんね。
例えば、「働く」ことに求めるのは、「収入」以外にも、「やりがい、自己実現、社会への還元」等々もあるかと思います。 “ストレスなく働きやすい環境をずっと満たせる住まい”が、1つの理想でしょう。その際、通勤に便利な環境と週末に家族とのんびり暮らせる環境とでは、どちらの優先度が高いのかは人それぞれ。決めるのは、栗山さんと奥さまなのです。
また、将来は「お子さま」のご希望もお持ちのこと。学びや遊びの充実した周辺インフラ、あるいは住戸の間取りや広さなど、“お子さまがすくすく育ってくれるような住まい”が、最も大切になるかもしれませんね。
さらにもっと先の、老後に「家賃負担を考えなくて済む」暮らし方の優先度が高そうなら、“子が独立した後の夫婦2人が老後も安心に、便利に暮らせる住まい”が理想です。こうなると、再び暮らしの中での「利便性」が重要なポイントになってきます。
そして、マイホーム取得に際し、本来考えておくべき課題、すなわち、「住宅家屋の寿命を考慮した取得時期」の問題や、「ローン完済年齢を考慮した借入額や返済方法」の問題や、そもそも「住み替えを念頭においた処分方法(売却や賃貸化の価値、建て替え等)」の問題までを熟慮しておく必要性が高くなります。
あるいは、「暮らし方が変わることへの不安」が大きいのであれば、変化の少ない住まいを選ぶのがベターか、そう思っている間はそもそも住まいを変える時期ではないのかもしれません。
いかがでしょうか。マイホーム取得を考えるということは、買った後の暮らしやすさの満足度がいかに高くなるのかを考えるということに他なりません。
どのような選択をしても後悔せず、「住めばそこが都(みやこ)」の感覚で、選んだ選択の中で充実した暮らしを工夫し、発見し、つくりあげていく心の持ち方は大切です。
でも、ライフステージや家族構成に応じて快適な住環境は往々にして変わるものです。ライフステージに応じて住まいを移すのがベストですが、残念ながら買った値段より高い値段、最低でも同額で売れる物件や取得方法を探すのは非常に難しいのも現実。
どのステージでの暮らしをピークに置くのか、そしてできればそのピーク後の選択肢が、なるべく豊富に残るようなマイホーム選びを考えることが大切といえます。
2.マイホーム取得にかかる総費用を理解する
「希望や理想」を考え整理することは口でいうより案外と難しいものです。むしろ、「不安」に注目し、その不安を少しでも減らすアプローチから考えるのが現実的かもしれません。
マイホーム取得に関する不安は多岐に及びますが、「金銭面の不安」がその筆頭でしょう。マイホームを買ってしまったがために家計が困窮し暮らし方が変わるのは避けたいところ。長引く低金利状態で、金融機関から借りられるお金が思ったより多く、期待以上の物件を買えてしまうことも珍しくありません。でも、ここは慎重に「買ってもいいのか」と考え、いま買えるマックス(MAX)でなく、その後のライフステージに訪れるかもしれない「住み替え」も念頭におくミニマム(MIN)とのバランスで検討するのが無難だといえます。
その際に参考になるのが、マイホーム取得にかかる総費用をしっかりと捉えること。住宅販売価格(物件予算)だけが費用ではないことを理解しましょう。
住宅購入に伴う総費用とは、図の上から順に、諸経費・借入金(利息)・借入金(元本)・頭金・購入時諸費用の5つに分けられます(厳密にはこの額から、購入当初10年間の年末借入残高に応じた住宅ローン控除額を引いた金額となります)。
住宅販売用パンフレットに記載されている販売価格は、このうち借入金(元本)と頭金を合わせただけの表面的な物件予算に過ぎません。仮にマイホーム取得後50年住み続けるとすれば、この50年間でかかる総額が本当の住宅購入総費用となります。よくある賃貸住宅との比較をする場合は、50年分の賃料総額(敷金・礼金・更新料含む ※敷金の一部は返還)と、この50年間の住宅購入総費用とを比べることになります。
また、継続的にかかる費用(後払いの住居費)は上から3つの合計ですが、住宅ローン完済後も保有中には諸経費がずっとかかります。マイホームを取得(「保有」)しても、家賃のように「利用」のための費用はかかり続けるという認識を持っておきましょう。
これらを理解したうえで、生涯の住まいについて考えねばなりません。
3.絶えず、単年度PLと生涯CF、および万一に備えたBSをチェックする
最後に、住宅購入に伴う総費用を軽減するためには、そもそも「物件予算」を抑えるほか、「住宅の取得方法」に留意する必要があります。例えば、頭金をより多く準備すれば、同じ物件予算でも借入金を減らせ、それに伴い借入利息や購入時諸費用を減らせます。ですが、頭金は多ければ良いという単純な話ではありません。生きていく上では住居費以外にも多くのお金が必要で、中には一度にまとまった出費を要すこともあります。一時的にでも手元の蓄えを大きく減らした結果、必要な出費を賄えなくなったり、本来は不要な別の借金をするのは本末転倒です。
また、「借りられる金額」でなく「返せる金額」を重視すべきであり、その目安として、ローン返済額と諸経費の合計を、現在の家賃の水準や手取り年収の概ね20~25%に抑えるべきという考え方もあります。ですが、これも購入時点での目安のひとつに過ぎず、長期的にみて「それでよし」という根拠にはなりません。
こうしたバランスを図るためにも、極力毎年の収支(PL:損益)を黒字に維持するよう心がけるとともに、適宜、保有金融資産の長期的な推移(CF:キャッシュフロー)を試算し、問題がないかチェックすることが肝要です。さらに、住み替えや万一のマイホーム精算の際に思わぬ事態とならぬよう時価総資産額(BS:バランスシート)を良好な状態に保つことも必要です。そのためには、住宅時価(いま売った場合の価格)と金融資産保有額の合計が、負債(住宅ローンの残返済総額)よりも多くなる状態
住宅時価+金融資産>負債
を維持できているかのチェックが必要です。
家庭の運用も、会社の経営のようなPL・CF・BSといった会計(アカウンティング)が求められるのです。
さて、やや難しい話も書いてきました。
繰り返しになりますが、何より大事なのは自分の選択に後悔しない気持ちの持ち方です。
そしてそれを裏付けるためには、長期的かつ広範囲なプランを練ることといえますね。