第6回:銀行の預金


近年、金融商品の問い合わせの中で、銀行の預金に関する質問が多くなりました。なぜ銀行の預金に関する質問をする人が多いのか、首をかしげる人も多いかもしれません。最近までは、銀行の預金といえば安全な運用方法の代名詞でもありました。しかし、最近は預金といえども商品のことをよく知らないと元本を割ってしまう可能性のある商品が出ており、それに伴いトラブルの件数も増えているのが実情です。そこで、今回は、銀行の預金の1つ「仕組預金」を取り上げてお話をしたいと思います。

銀行の定期預金なのに元本割れ!?

高田さんは50歳のサラリーマン。高田さんは大手電機メーカーに勤務していましたが、50歳で退職し子会社で再雇用となったため、まとまったお金を退職金として受け取りました。高田さんは運用リスクをあまり取りたくなかったので、できれば安全な金融商品で運用をしたいと考えており、そのためいろいろな銀行の定期預金を調べていました。ある日、新聞を見ていたところ、以下のような広告が目に飛び込んできました。

【図1】

この預金は長く預ければ預けるほど金利が高くなるというもので、他の銀行の定期預金だと1年定期で0.2%前後なので、かなり利回りが高いようです。満期が5年で最長10年まで。定期預金ならば安全ですし、子会社で再雇用になるのですぐに退職金を使わなければならないというわけでもなかったので、5年満期の定期預金に決めました。そして4年半が過ぎました。ところが、ここで思いがけない事態が起きます。

半年後に満期を迎えるので、お金をおろす手続きを確認しようと思い銀行に問い合わせてみると、銀行からは「お金をおろすことはできません。もしどうしても、というのであれば『解約扱い』となり、元本割れをする可能性がある」とのことでした。そして、何より一番びっくりしたのが、「どれくらい元本割れをするかは、そのときになってみないとわからない」という説明でした。

預金なのにおかしいのではないかと聞くと、そのことはパンフレットに書いてあるとのこと。びっくりしてパンフレットをよく読むと、確かに以下のように書いてあります。

  • 満期日は5年後からは当行が1年ごとに延長を判断します
  • 原則として満期まで途中解約できません。途中解約をした場合は元本が割れる可能性があります
  • 解約時の市場環境等によっては大きく元本割れをする可能性もあります

結局その年はお金をおろすことができず、それから更に2年間たってようやく「銀行の判断」で満期を迎えることができました。しかしその2年間は、当初計画していた海外旅行も我慢しなければならず、しかもいつ満期が来るかがわからない中で将来の資金計画を設計できなかったため、大変不便な生活を強いられてしまいました。

仕組預金って何なの?

そもそも仕組預金とは、そもそもいったいどんなものなのでしょうか。

仕組預金は、一般的な定期預金に「デリバティブ」といわれるオプション取引が組み合わされて作られた預金です。先ほどの例でいえば、現在の都市銀行における定期預金であれば0.2%ぐらいですので、5年満期で年1.5%の利回りというのは高い金利で魅力的です。そして、元本も満期まで預ければ保証されます。

ただし、仕組預金の場合、満期は銀行の都合で変更されてしまうリスクがあるため、5年満期のつもりで預けても銀行が判断すれば10年満期にまで変更されてしまうこともあります。

では、なぜこのような仕組みになっているのでしょうか?

消費者の立場から考えると理解しづらいのですが、銀行の立場から考えると理解できます。例えば、5年後に銀行が預金者以外から1.5%より低い金利でお金を借りることができれば、銀行は預金者から借りるよりも有利なので、預金者以外からお金を借りようとします。

したがって、なるべく早く預金者にお金を返したいので、5年満期とします。逆に、銀行が預金者以外から2%を超えるような高い金利でしか借りることができない場合、預金者から借りた方が有利なので、満期を延長するのです。

つまり、仮に5年後に金利が大きく上昇したとしても、銀行が満期を延長したら従わなければなりません。例えば将来、日本の金利がインフレなどにより3%に上昇したとしても、解約することができないため、1~2%程度のリターンしか得ることができず、しかもその場合、市場金利は高くなっているはずですので、満期は恐らく延長される可能性が高くなると思われます。

また、銀行側からは途中解約を認めておらず、解約をした場合は大幅に元本が割れる場合があります。この商品は見方を変えると、高い金利を実現できる理由は「金利変動リスクを預金者に転嫁しているから」に他ならず、これを銀行において「預金」として販売されることに対して賛否両論があることも事実です。

もちろん、満期まで預ければ元本に加えて高い利息を受取れる保証があるのですから、満期延長にともなう解約のリスクを承知の上で、余裕資金で行うのであれば検討に値する金融商品といえるでしょう。ただし、“預金”という名称ではあるものの、リスクのある“投資商品”でるという認識を持つことは必要です。

このようなリスクのある商品が銀行で販売されるということは、昔であれば考えられないことでしたが、日本の金融界では約10年前の1996年から2001年にかけて大幅に規制緩和が行われ、投資信託などのリスクのある商品や保険商品の窓口販売が段階的に認められるようになってきました。

仕組預金もその一環で認められた金融商品の1つと言えます。ただ、まだまだ銀行が勧めるものであれば安全と思う人も少なくありません。そのため、金融庁も2007年9月30日に「金融商品取引法」による規制を厳しくしており、この規制の中には投資性の強い商品に対する十分な説明義務などが盛り込まれ、仕組預金に関してもその対象となっているため、最近では契約前にリスクに関する説明が慎重に行われるようになってきたようです。

それでも、消費者の立場からすれば「銀行」に対して「安心・元本割れなし」というイメージがあり、特に「預金」と聞けば、安全だろうと思う人も多いでしょう。

しかしながら、時代は規制緩和の方向に変わりつつあり、したがって消費者側も「銀行で扱っているもの全てが安全とは限らない」ということをしっかりと認識する必要があるのです。

一番のリスクは「知識不足のリスク」

最近の金融はいろいろな商品が出てきており、自分で判断するのが難しい商品が増えているのもまた事実です。金融商品には、以下の様々なリスクがあります。

【図2】

リスクの種類 説 明
信用リスク 債券や株式などにおいて、国や企業が破綻した場合にお金が戻ってこない恐れがあること。
為替リスク 円高や円安など、為替の変動によって投資額が増減する恐れがあること。
価格変動リスク 株式や満期前の債券など、価格が上下することで投資額が減少する恐れがあること。
金利変動リスク 金利が動くことにより、利息が多くなったり少なくなったりすること。

例えば住宅ローンの変動金利の場合、金利が上昇するリスクがある。
流動性リスク 必要なときに換金できない可能性があること。
知識不足リスク 金融の知識が不足していると、金融商品の仕組みやリスク・リターン の関係を
正しく理解できないため、リスクを被る或いはリターンの チャンスを得られないこと。

この中で、一番気をつけなければならないのは「知識不足のリスク」です。

もしご自身が投資の分野にあまり詳しくなければ、信頼できるファイナンシャルプランナーを探すのも良いでしょう。いずれにしても、最近では自分ではなかなか判断のつかない商品が出てきているので、判断が難しい場合もあるかとは思いますが、投資をされる以上は“自己責任”が原則ですので、ご自身が納得行くまで説明を求め、「自分の理解できない商品には投資をしない」ということが大切です。

執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。

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