第4回:子どもの生きる力を培う金銭教育の現場から ~『おかねの楽校』~


終身雇用制や年功序列賃金制度が崩壊し、何ごとにも「自己責任」が問われるようになり、親の世代からも「こういうことを子どもの頃から学んでおけば……」という声をよく耳にします。そのせいか、お小遣いの与え方など、子どもとお金のかかわりに保護者の関心も高まっています。そこで今回は、ユニークなカリキュラムで1年を通して金銭教育を行っているNPO法人おかねの楽校をご紹介いたします。


小学生向けの金銭教育を行うNPO法人おかねの楽校は、子どもたちに健全な金銭感覚と正しい知識を身につけてもらうという趣旨から、ファイナンシャル・プランナーの有志を中心に、平成17年4月から活動を開始しました。

平成17年度の第1期『おかねの楽校』は、千葉県松戸市教育委員会サタデー・コミュニティ・スクール事業ならびに文部科学省地域子ども教室事業として開校し、今年で第3期目となります。平成19年度は4月21日に開校し、来年の2月まで計13回の授業を行う予定です。

ほかの金銭教育とは違う『おかねの楽校』の特徴は?

(1)1年を通して学ぶ
夏休みになると、各地で金銭教育のイベントが開催されますが、ほとんどが1回限りのイベントで終了です。『おかねの楽校』のように年間のカリキュラムが決まっていて、お金にまつわる、様々なことを学ぶところは珍しいでしょう。
例えば、以下のようなことがカリキュラムの中に含まれています。

  • お小遣いを計画的に使えるようにバランス感覚を養う
  • お金を殖やす手段を学ぶ
  • 将来、ローン地獄や自己破産などに陥らない方法を学ぶ
  • 金銭知識を身につける過程で、仕事の意義や社会の仕組みなどを学ぶ

カリキュラムの順番としては、最初にお小遣いのことやお金の仕組みについての基礎を学んだ後、お仕事体験、お金の管理、将来の夢や仕事についてまで学べるようになっています。

(2)正しい知識と判断力を培う
「子どもにお金の話なんて!」と思われる方も多いと思います。『おかねの楽校』のスタッフも、ただ単にお金の運用テクニックを教え込んで、投資家予備軍を育成しようなどと思ってはいません。『おかねの楽校』の目的は、豊かで幸せな人生を歩むために必要な“お金の正しい知識”と“お金の健全な使い方を実行するための価値判断力”を培うことです。そして自分の将来については自らが考え、有意義に生きるためのトータルな学習をしています。

机上の勉強だけではなくて実際に体験する

子どもたちに「お金はどこから来るのか?」と尋ねると、銀行や消費者金融の名前を挙げる子もいます。子どもたちは、親が一生懸命働くことによってお金が入ってくるということをよく理解できていない、あるいは考えたことがないという子も多いのが実状です。そこで、お金は労働の対価であることを身をもって体験してもらうために、毎年夏祭りを利用して屋台を出すことにしています。卒業した子どもたちもこの体験から自分が地域のコミュニティの一員であることを感じとり、働くことの大変さと喜びを知り、そして労働から生み出されたお金の大切さなどを体感しています。

今年も、例年と同じように6月の『おかねの楽校』では、夏のメインイベントについての話し合いが行われました。そのメインイベントが、子どもたちが夏休みの盆踊り大会で屋台を出店するというものです。商店街や町会(自治会)などの地域のコミュニティとのコミュニケーションを通して、金銭知識を身につけていくことが目的です。



実際に出店する屋台の企画、計画、仕入れ、準備、販売、決算までの一連のビジネスを子どもたちが体験し、利益が出たらその中からお給料が支払われます。

6月の授業では、3チームに分かれて企画、計画について話し合いが行われました。スタッフの助言を参考にしながら、どんな屋台を出店するのか? その屋台を出すにはどんなものが必要か? どうすればたくさん売れるのか? など、リーダーを中心に活発な意見が出され、その結果、今年は「カレーライスとアメリカンドッグ」「焼き鳥とジュース」「フライドポテトとスーパーボール」の3店を出すことに決まりました。

次回の7月の授業では、実際に仕入れを体験します。地域の商店街に出向き、子どもたち自身が仕入れ値の交渉をしたり、売れ残りが出ないように販売個数を決めたりしていきます。売り上げの目標も子どもたちが考えます。

擬似体験やシミュレーションゲームではなく、実際に体験するからこそ、机上の勉強も活きてくるというわけです。

自分の口座を開き自分でお金を管理する

屋台が終わった後の授業では、収支決算を兼ねてまとめが行われ、お給料が一人一人に手渡されます。もちろんチームごとに売り上げも経費も違いますから、お給料には多少の差が出ます。お給料の少し高いチームはどこが良かったのか? 反対に、低いチームは何が原因だったのか? などを話していくと、「うちのチームは広告宣伝に力を入れたから売り上げが良かったよ!」とか「うちのチームは予想以上に経費が多くかかったから利益が少なかったよ!」などの意見が出てきて、お店を経営するということから、お店の仕組みや経済の仕組みを自然に学んでいきます。

その後、手にしたお給料袋を持って、郵便局に自分の口座を開設に行きます。開設の用紙も自分で記入し、窓口に提出します。昨年度の子どもたちは、全額入金する子もいれば、一部を手元において残額を入金する子もいて、初めての経験でドキドキしている様子でしたが、自分の通帳を手にした時には笑顔で少し誇らしげな表情をしていました。たとえ千数百円のお給料でも、実際に自分で働いて得たお金ですから、子どもにとって大きな喜びでしょう。自分名義の口座を開くことで、お金の管理に関心を持ち、さらに金融機関の利用の仕方なども学べます。

仕事をしてお金を得る(稼ぐ)ことを学んだ後は、このようにお金を「貯める・殖やす」ことを体験するようになっており、段階を追って正しい知識が身につくようなカリキュラム構成になるよう工夫されているのです。

子どもたちの1年後はどう成長している?

1年間のカリキュラムを修了し、卒業した子どもたちの保護者に、スタート時と卒業時の子どもたちの様子についてうかがってみました。すると、「欲しい物は買えばいいという考えから、どうしたら買えるのか、それは本当に欲しい物なのかを考えるようになった」「欲しい物を買うために自分でお金を貯めるようになった」「お金を考えて使うようになった」「将来のことを少しは真剣に考えるようになった」と、子どもたちが成長した様子を聞くことができました。

また、保護者からも「親として将来のことやお金のことなどをしっかり子どもに伝えていきたいと思ってはいましたが、真剣に向き合って伝えるのは難しいと考えていましたので、良い機会となりました。親身にご指導いただきましてありがとうございました」という感謝の言葉をはじめとして、様々なお礼の言葉もいただきました。

ますます広がる金銭教育活動

金融広報中央委員会が2005年度を「金融教育元年」と位置づけてから3年目に突入し、子どもへの金銭教育も全国で様々な活動が活発化しています。

その中にあって、NPO法人おかねの楽校のオリジナル版「おこづかいゲーム」が子どもには大人気で、昨年の夏休みには日本経済新聞社主催でゲームを開催し、大盛況に終わりました。ゲームには、お金を通じた体験がふんだんに盛り込まれており、子どもたちが楽しみながらお金について学べる仕組みになっています。今年の夏も関心を持った会社、団体から、問い合わせやイベント依頼が数多く寄せられております。

また、2007年度からNPO法人おかねの楽校の活動に賛同した石川県のファイナンシャル・プランナーたちが『おかねの楽校』を開催しています。ほぼ同じカリキュラム構成で、夏祭りでの屋台出店もあります。このように、少しずつ仲間を増やしながら、いろいろな街で『おかねの楽校』を開催し、もっと多くの子どもたちと一緒に学びたいと考えています。

近年、振り込み詐欺や悪徳商法など、お金がらみの事件が多発しています。その原因として、お金に対する正しい知識と健全な金銭感覚の欠如が挙げられるでしょう。大人になる前にお金に関する知識や感覚を身につけておけば、自分をしっかりコントロールできる、お金に惑わされない人間になれると私たちは確信しています。『おかねの楽校』のような場を通じ、金銭教育活動を各地にどんどん広げていくことが私たちの願いです。

執筆:海野千絵(うんの ちえ) ファイナンシャル・プランナー(CFP)、キャリアカウンセラー(CDA)
外資系損害保険会社、FP会社を経て、2003年に独立。
現在、マネープラン・キャリアプランの両面から総合的にライフプラン(夢や目標)
実現のためのサポートを行う。
そのほか、セミナー講師、執筆などを通してマネー・キャリア情報を発信している。