第75回:会社員・公務員・自営業・・・働き方で社会保険はどう違うの?


会社員(正社員、契約社員、派遣社員)、公務員、自営業(請負、SOHO)、パートやアルバイト(フリーター)など、働き方の多様化が進む一方で、収入面での格差が問題になっています。この働き方による違いは、単に収入面だけでなく、社会保険に関しても大きな格差が生じています。

社会保険とは、国が管理監督者となって行っている保険給付制度で、病気やケガ、老齢や介護、失業などの「もしも」のときに、加入者(被保険者)やその家族に対して保険給付を行い、生活を保障するというものです。本制度は、日常生活の中で安心して暮らす上で最も基本的なものであり、自分が現在、どのような社会保険に加入しているかを把握することは必要です。また、就職や転職、退職、起業・独立などの際には、加入する社会保険が大きく変わりますのでご注意ください。

今回のコラムでは、多様化する働き方によって異なる社会保険制度の概要についてチェックしてみましょう。

働き方によって社会保険制度は大きく異なる

身近な社会保険の対象となるものには、ケガや病気、障害・死亡、老齢・介護、失業などがありますが、これに対して加入できる制度は、働き方によって異な り、保険給付の内容も異なります。例えば、下記の表のように、自営業者などの場合、災害補償保険(労災等)や雇用保険はなく、また公的年金も会社員や公務 員のような上乗せ部分はありません。一般に、社会保険の給付は、会社員や公務員は手厚い一方で、自営業者やフリーターなどは薄いため、自営業者などは万一 に備えて民間の保険に加入するなどの自助努力がより重要になってきます。

なお、公務員の場合は、公務員独自の法律が適用される公務災害・通勤災害の補償や退職後の保障などがあり、多少の違いはありますが、会社員とほぼ同様の給付内容となっています。

<表1:働き方によって異なる社会保険制度>

社会保険の種類 公務員 会社員 自営業者など 公務員や会社員の配偶者
災害補償保険(業務上のケガ・病気) 国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法 労働者災害補償保険 国民健康保険(実費負担)
医療保険(業務外のケガ・病気) 短期共済給付 健康保険 国民健康保険 健康保険・共済の被扶養者としての給付
雇用保険(失業等) 国家公務員退職手当法など 雇用保険
年金保険,(障害・老齢・遺族) 国民年金(2号)、共済年金(長期共済給付) 国民年金(2号)、厚生年金 国民年金(1号) 国民年金(3号)
介護保険 公的介護保険制度(40歳から加入、給付は原則65歳~)

上記の表は、最も基本的な内容ですので、大まかなイメージをつかんでいただければと思います。では、次に、それぞれの保険内容を見ていきましょう。

労災保険の保険料は事業主負担、自営業者などは加入対象外

会社員などが加入する「労働者災害補償保険(労災保険)」は、業務上および通勤途上の事故の際に給付されます。病院での治療費は全額労災保険でまかなわれ、治療費の自己負担はありません。この保険は、他の社会保険制度とは異なり、保険料は事業主の全額負担で、賃金を支払われている労働者はすべて保険の適用を受けるため、いわゆる正社員だけでなく、パートやアルバイトなども労災保険の適用を受けます。

<表2:労災保険の給付の例>

保険事故の内容 業務災害の場合 通勤災害の場合
病院で治療を受けた 療養補償給付 療養給付
会社を休み、賃金がもらえない 休業補償給付、傷病補償年金 休業給付、傷病年金
障害が残った 障害補償給付 障害給付
死亡した 遺族補償給付、葬祭料 遺族給付、葬祭給付
介護が必要 介護補償給付 介護給付
健康診断で異常が発見された 二次健康診断等給付

なお、公務員の場合は、国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法などの適用があり、業務・通勤時の疾病・傷病のための「療養補償」や休業時の「休業補償」などがあります(保険料負担はなし)。また、自営業者には業務上のケガや病気に限った社会保険からの給付はありませんので、業務外のケガや病気と同様、国民健康保険で病院にかかることになり、治療費の3割は自己負担することになります。

会社員の方が加入する健康保険には病気による休業中の給付も

日本の公的な医療保険制度は、下記の表のように、主なものとして健康保険、共済組合、国民健康保険の3つの種類があります。どの保険についても、傷病に関する基本的な給付内容には大きな違いはなく、原則、治療費の3割(年齢によって異なる)は自己負担することになります。これに対して、違いが大きいのは、病気やケガでの休業中の生活保障があるかどうかです。健康保険や共済組合では、病気やケガによって仕事を休み、報酬が得られない期間に生活費を保障するための「傷病手当金」が支給されますが、国民健康保険にはこのような給付はありません。

また、保険料負担の面からみると、健康保険や共済組合は労使折半ですが、国民健康保険は全額自己負担です。さらに、健康保険には「扶養」の制度があり、家族は保険料を負担することなく「家族療養費」等の給付を受けられますが、国保には「扶養」の制度はなく、家族も収入に応じて保険料を負担することになります。

<表3:公的医療保険の種類>

保険種類 保険者(運営主体) 対象・概要
健康保険 全国健康保険協会(協会けんぽ) 主に中小企業の社員等
健康保険組合(組合管掌健康保険) 大企業等の社員等(健康保険組合は、大企業が単独で、あるいは同種同業の中小企業が集まって作られている。また、保険料は健保組合毎に異なり、健保組合によっては給付の上乗せがある)
共済組合 国家公務員共済組合 国家公務員等
地方公務員共済組合 地方公務員等
国民健康保険 市区町村 自営業者、アルバイト、学生、無職等(健康保険や共済組合などの職域保険に加入していない一般国民すべてが対象)
国民健康保険組合 特定の業種の自営業者等(国民健康保険組合は、理美容業、サービス業など特定の職種の事業者が集まって作られている)

雇用保険は、会社などに雇用されて働く人が対象

雇用保険は、原則として、適用事業所(労働者を一人でも雇用する事業所)に働くすべての労働者が対象となり、一方で自営業者は雇用されていないため、雇用保険の対象外です。また、公務員の場合は、国家公務員退職手当法や各地方公共団体の条例などの適用があり、雇用保険の適用はありません。一般に、雇用保険というと、失業手当のイメージが強いですが、失業中の生活費等を補償する求職者給付の「基本手当」のほか、高齢者や育児休業者の雇用の継続を促進するための給付や教育訓練給付など大きく分けて4種類の給付があり、具体的な内容は下記の表のようになっています。

<表4:雇用保険からの主な給付>

給付の種類 給付金・手当等
求職者給付 基本手当、技能習得手当、寄宿手当、傷病手当
就職促進給付 再就職手当、就業手当、常用就職支援手当
雇用継続給付 高年齢雇用継続基本給付金、高年齢再就職給付金
育児休業基本給付金、育児休業者職場復帰給付金、介護休業給付金
教育訓練給付 教育訓練給付金

公的年金は働き方で大きく異なり、会社員や公務員の方は2階建て以上

日本の公的年金制度では、20歳以上の国民はすべて国民年金保険の被保険者とされており、下記の表のように、働き方によって主に3種類の「被保険者」に分けられます。その支給される年金には、老齢・障害・死亡(遺族)を原因とするものがあり、国民年金からは基礎年金(老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金)が支給されます。

<表5:日本の公的年金制度>

    企業年金※ 職域部分  
厚生年金 共済年金
国民年金
第1号被保険者 第2号被保険者 第3号被保険者
自営業者など 会社員 公務員 第2号被保険者の配偶者(専業主婦など)
保険料は全額自己負担 保険料は労使折半 保険料負担なし

※企業年金・・・確定拠出年金(企業型)、厚生年金基金、適格退職年金、確定給付企業年金など

<表6:年金給付の種類>

年金給付 国民年金 厚生年金 共済年金
老齢給付 老齢基礎年金 老齢厚生年金 退職共済年金
障害給付 障害基礎年金 障害厚生年金
障害手当金
障害共済年金
障害一時金
遺族給付 遺族基礎年金
寡婦年金
死亡一時金
遺族厚生年金 遺族共済年金

上記の表のように、会社員や公務員などの第2号被保険者の年金は2階建て、あるいは3階建てとなっていて、基礎年金に加えて、厚生年金(共済年金)や企業年金等が支給されるため、充実しています。

これに対して、自営業者などの第1号被保険者の年金は、国民年金の基礎年金のみとなっており、老後生活を考えた場合、老齢基礎年金が満額で受給できても年額で792,100円(平成21年度価格、月額では約6.6万円)のため、公的年金だけで生活するのは非常に難しく、自助努力がより求められます。ただし、第1号被保険者の場合、さらに保険料を負担して、付加年金や国民年金基金、確定拠出型年金(個人型)に任意加入して、将来の年金額を増やすことも可能です。

なお、第3号被保険者については、「第2号被保険者(会社員、公務員等)の配偶者」であることが要件となっており、自営業者の妻が専業主婦であっても「第3号被保険者」とはなりません。そのため、自営業者の妻の場合、第1号被保険者として国民年金の保険料を負担する必要があります。

40歳以上の方はすべて介護保険の被保険者

介護保険は、40歳以上の国民に加入義務があり、65歳から(特定の病気により介護状態にあれば40歳から)介護サービスが原則1割の自己負担で受けられる公的な保険制度です。他の社会保険制度とは異なり、給付内容に働き方による違いはありません。

介護保険において、保険者は市区町村であり、被保険者は第1号被保険者(65歳以上)と第2号被保険者(40歳~64歳)に分けられます。第1号被保険者には、65歳の誕生日の前日の属する月の初めに介護保険被保険者証が届けられ、申請して要介護・要支援状態と認定されれば介護サービスの利用が可能です。また、第2号被保険者の場合、介護サービスが利用できるのは、老化が原因とされる特定疾病の患者で介護が必要と認定された場合のみであり、例えば交通事故等で要介護状態となっても、65歳になるまでは介護サービスの利用はできません。

<表7:介護保険の被保険者>

被保険者 第2号被保険者(40~64歳) 第1号被保険者(65歳以上)
介護サービスの利用対象者 老化を原因とされる特定疾病(16種類)の患者で介護が必要と認定された場合のみ利用可 要介護、要支援状態と認定されれば利用可
保険料の計算方法 健康保険:標準報酬×介護保険料率 所得段階で分けられた定額保険料(市区町村が設定)
国民健康保険:所得割・均等割等の人数比による按分
保険料負担 加入している医療保険の保険料に上乗せして徴収される 一定額以上の年金受給者は年金から天引き(特別徴収)。それ以外は普通徴収
利用料の負担 自己負担額は原則1割 自己負担額は原則1割

働き方が変わった時などはご注意を・・・

一般に、同じような職種や仕事内容であったとしても、働き方によって、社会保険の保険料や給付内容は大きく異なります。また、独立して自営業などになられた時は、社会保険料の負担が大きく変わって、慌てたという話をたまに耳にします。

人生において、「もしものこと」はいつ起こるかわかりません。就職や転職、退職、独立・開業等を考えておられる方はもちろん、加入している社会保険の内容がよく分からないという方は、今一度、加入している制度の仕組み、具体的な給付内容、相談・申請の窓口などを確認しておくとよいでしょう。

2009年8月
大林香世(CFP®)

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