自営業者の退職金づくりはどうしたらいい?


自営業者の退職金づくりはどうしたらいい?

山田 静江先生 (やまだ しずえ) プロフィール
 
  • 65歳までに3,000万円を目標に
  • 少額からでいいので、なるべく早くスタートする
  • 税制優遇のある制度を利用する

斉藤友男さん(仮名)のご相談

自営業で収入はそれなりに安定しているのですが、年金は国民年金だけですし、会社員のように退職金がないので老後の生活費が不安です。貯蓄は現在約1,500万円ありますが、子どもの学費にと考えています。

どんな金融商品で、いくらぐらい準備したらいいか、教えてください。

35歳、自営業。妻35歳(青色専従者)、 子8歳、6歳の4人家族。
世帯年収 : 手取りで約650万円

家計の状況(単位:円)

収入 手取り 6,500,000
収入計 6,500,000
支出 住宅関係費 1,500,000
食費 720,000
光熱費 240,000
通信費等 180,000
子ども費 480,000
レジャー費 400,000
自動車関連費用 408,000
夫こづかい 360,000
生命保険料 432,000
雑費 216,000
貯蓄 1,500,000
支出計 6,436,000
差引残高   64,000

国民年金だけでは老後は赤字
税優遇がある積み立てで準備しましょう

自営業者で国民年金だけに加入していた場合、65歳からもらえる年金は、40年間保険料を納めた場合の満額受給で792,100円(平成20年度価格)です。夫婦合わせても、月額にして13万円を少し超えるくらいです。一方、60歳以上の高齢者無職世帯の平均的な支出は25万~28万円です。節約して暮らしたとしても、年金だけでは10万円以上不足することになります。

毎月10万円、年間で120万円ずつ預貯金を取り崩しながら生活していくとすると、65歳からの20年間で約2400万円です。このほか不意の出費への備えを500万~600万円とすると、65歳時には最低でも3,000万円程度は準備しておきたいところです。

なるべく早く、継続的に

目標が3,000万円というと、金額を聞いただけで貯めるのをあきらめてしまう人もいるかもしれません。しかし資産形成に早道はありません。少しずつでも継続して貯めていくことが大切です。金利が低いとはいえお金を預けておけば利息がつきます。複利効果(利息が利息を生む)を考えると、運用期間が長いほど(貯め始めるのが早いほど)積立額は少なくてすみます

たとえば1,000万円を利率1%で貯める場合(年複利運用)、毎月の積立額は30年なら約24,000円で済みますが、20年では約38,000円、10年では約80,000円もの負担になります。金利が高くなれば、その差はますます大きくなります。

斉藤様は、すでに1,500万円貯めていらっしゃるので、資産形成の第一歩はクリアしています。次のステップとして、税制優遇制度がある積み立て手段の利用を検討してみましょう。自営業者が利用できる制度には、小規模企業共済、確定拠出年金個人型、国民年金基金があります。

税制優遇制度の利用(1)(小規模企業共済)

後述する国民年金基金や確定拠出年金は、60歳または65歳までは中途解約したり、借りたりすることができないしくみですが、小規模企業共済は、「任意に解約できる」「納めた掛金の範囲内で事業資金の貸付が受けられる」という点が大きな特徴です。

小規模企業共済は、小規模企業共済法という法律にもとづく制度で、『経営者の退職金制度』ともいわれています。金融機関などを通じて申し込みできます。

加入できるのは、「常時使用する従業員の数が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主または会社の役員等」です。

掛金は月額で、1,000円から70,000円までの間(500円単位)で決められ、手続きをすればいつでも増額・減額ができます(減額するには「収入の減少」や「病気・けが」などの理由が必要です)。また掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。

なお小規模企業共済は、国民年金基金と確定拠出年金(掛金合計で年間816,000円まで)とは別枠で加入できます

小規模企業共済で注意が必要なのは、受取額が「理由によって異なる」という点です。

  1. 「共済金A」事業をやめたとき(個人事業主の死亡や会社等の解散も含む)、 最も受取額が多くなる。
  2. 「共済金B」会社の役員等が病気やけが・死亡で退職するときや、15年以上掛金を納めて65歳以上になったときに受取れる。共済金Aよりやや金額は低くなる。
  3. 「準共済金」事業を妻や子に譲渡したり、自分の意志や任期満了で会社役員を辞めたりしたとき受け取れる。掛金相当額にちょっとプラスになる程度の額。
  4. 「解約手当金」自分の意思で解約したり掛金を12ヶ月以上滞納したりしたときの受取額。納付期間が短期間なら、払った掛金を下回る金額しか受取れないことがある。

共済金は一括受取りなら「退職所得」、分割受取りなら「公的年金控除対象の雑所得」扱いになります。分割受取りは60歳以降に受取るときに選べます。遺族への支払いは相続税の対象ですが、他の死亡退職金と合計で「500万円×法定相続人の数」までは非課税になります。なお解約手当金は、65歳以上の任意解約は退職所得扱いですが、それ以外は一時所得扱いになります。

資金繰りに使えるという点でメリットがある制度ですが、平成16年4月から、予定利率が2.5%から1%に下げられたため、受取額も以前より少なくなっています。

〔小規模企業共済制度の概要〕

税制優遇制度の利用(2)(確定拠出年金個人型=DC)

DC個人型は、国民年金に加入し保険料を納めている人(自営業者とその妻)と、DCを含めた企業年金がない会社に勤めている人が加入できます。加入資格がないなどの条件を満たしていない限り、60歳までは引き出しできません

掛金の限度額は、個人型のうち自営業者など国民年金加入者は、国民年金基金の掛金と合計で月額68,000円(5,000円以上1,000円単位で自由に設定可能、減額も可能)で、全額「所得控除(小規模企業共済等掛金控除か社会保険料控除)の対象になります。

掛金は、窓口となる金融機関が提供する金融商品(預金・保険・投資信託)の中から、自分で選んで運用します(1つでも、複数でもOK)。運用期間中、運用益は非課税です。

受け取りは70歳までに受け取りを開始すれば、一時金でも年金形式でも、その組み合わせでも構いません。税金の扱いは小規模企業共済とほぼ同じで、年金形式では雑所得扱いとなり、「公的年金控除」の対象に、また60歳以降に一時金で受取ったときには退職所得となり「退職所得控除」が受けられます。遺族への支払いに対する課税は、小規模企業共済と同じです。

個人型の場合、運営管理機関(金融機関)などに払う手数料が月額で300~600円かかります。手数料は掛金から天引きされ、残った分を運用します。手数料は加入する運営管理機関(銀行や保険会社、証券会社など)で異なるので、必ず確認してください。

窓口となる運営管理機関を選ぶときのポイントは、「運用商品の種類」「手数料」「利用しやすさ」の3つです。中でも制度の中でどういう運用商品(預金・積立型保険・投資信託)を選べるのかは重要です。

〔個人型確定拠出年金〕

税制優遇制度の利用(3)(国民年金基金)

自営業者など国民年金の第1号被保険者が、基礎年金に上乗せして加入できる2階部分の年金が『国民年金基金』です。受取額や方法を「いくつかの選択肢の中から選べる」点、そして加入するときに「受取れる額が決まっている」点が大きな特徴です。

住んでいる地域(地域型基金)で、または、同業種・同職種ごとの基金(職能型基金)に加入しますが、引っ越したときや職種変更時には、各基金を移動できます。

年金には、80歳まで遺族保証がある「A型」遺族保証がない「B型」の2タイプの終身年金と、もらえる期間が異なるⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3タイプの確定年金があり、これらを組み合わせて加入します。

組み合わせには、加入年齢などによって、つぎのようなルールがあります。

  1. 1口目は必ず終身年金を選ぶ。
  2. 2口目以降は自由に選べるが、確定年金が終身年金(1口目含む)を超えないこと。
  3. 1口目の年金月額は、35歳までに加入すれば3万円、45歳までなら2万円、 50歳までなら1万円が基本。
  4. 2口目の年金月額は、35歳までに加入すれば1万円、50歳までなら5000円

35歳男性が誕生日のすぐあとに、たとえば1口目⇒A型(終身:遺族保証あり)「3万円」、2口目以降⇒Ⅰ型(確定型:65歳から15年間)「5000円」×4口で加入すれば、65歳から80歳までは毎月5万円、80歳を超えると3万円の年金(月額)が、国民年金基金から受取れ、80歳までに死亡したときには遺族に遺族一時金が支払われます。このケースで掛金月額は、33,820円です。

掛金を59歳11ヶ月まで払った場合、掛金合計額は約1,014万円。これに対して80歳までの受取額は約900万円と受取額の方が少なくなってしまいます。ただし85歳まで生きれば約1,080万円受け取れるなど、長生きリスクには対応できます。運用面ではメリットは少ないのですが、掛金は所得控除の対象となるので、小規模企業共済や確定拠出年金同様に税金が安くなります。

掛金は、加入したときの年齢と選んだ年金の組み合わせで決まりますが、上限は、確定拠出年金の掛金と合計で月額6万8000円です。全額、所得控除の対象になります。

〔国民年金基金のしくみ〕

各制度にはそれぞれメリットデメリットがあります。老後資金準備に回せる金額の範囲で上記を組み合わせて利用するのも1つの方法でしょう。