第7回:飛び込み出産


出産は人生の中でとても重要な大イベント。できれば安心できる状態で子供を産みたいと誰もが思うことです。しかし、出産にかかる費用は決して小さな額ではなく、分娩や検診・検査については通常は健康保険の対象外のため、何かとお金がかかるもの。そのため、最近では検診に行く回数を減らしたり、あるいは出産する病院を決めていなかったりというケースも増えています。しかし、こうなると赤ちゃんの命はもちろんのこと、お母さんの命まで危なくなってしまう可能性もあるのです。そこで、今回は出産にかかる失敗事例ということでお話をしたいと思います。

飛び込み出産の悲劇

A子さんは24歳のOL。夫は同い年で、フリーターをしています。1年前に結婚をし、幸せな生活を送っていました。ほどなく2人には子供ができ、二人の幸せは絶頂となるはずでした。しかし二人は経済的も決して楽ではなく、妊婦検診は健康保険も対象外のため1回あたりにかかる5000円~1万円もの検診料は大きな負担となります。最初のうちは検診に行っていたA子さんも、受診するたびに結果はいつも「正常」。なんだか時間もお金も無駄に感じるようになり、検診に行かなくなってしまいました。さて、妊娠から7ヶ月が経過したある日のことでした。突然お腹に激痛が走って出血してしまい、急いで救急車を呼びました。ところが、救急車の中では救急救命士が必死に病院に連絡をするものの、受け入れてくれる病院は見つかりません。ようやく2時間後に受け入れてくれる病院が見つかりましたが、搬送先の病院で結局赤ちゃんは死産。しかもA子さんは子宮摘出までしなければなりませんでした。子供を失っただけでなく、今後赤ちゃんを授かることができなくなってしまい、A子さん夫婦はもちろんのこと、A子さん夫婦のご両親にとっても大変悲しい出来事となってしまいました。

急増する飛び込み出産

近年、飛び込み出産は増加の一途をたどっています。以下の図をご覧下さい。

<図1>神奈川県基幹病院での飛び込み出産件数

2007年9月18日の読売新聞に掲載された記事によりますと、飛び込み出産はここ数年で急増しており、神奈川県産科婦人科医会が同県内8か所の基幹病院で扱った飛び込み出産は、2003年に20件だったのが04年で28件、05年39件、06年44件と年々増加。2007年のデータは公表されていませんが、100件を超えていると予想されています。

しかし、これは本当に危険なことだと言わざるを得ません。日本医科大学産婦人科の過去10年間のデータのよりますと、未受診41例のうち、約1割にあたる4例が死産。低出生体重児(2500グラム以下)の割合が13例あり、全体の31.7%と全国平均の9%よりはるかに高く、また1000グラムにも満たない超低出生体重児の赤ちゃんも3例ありました。特に1000グラム未満の赤ちゃんは肌もまだ薄い状態で、頭はミカンくらいの大きさしかありません。最先端医療が救命できる限界の大きさで、たとえ無事だったとしても、何ヶ月も保育器の中で治療しなければなりません。

一方、飛び込み出産を受け入れる病院の立場からすれば、通常は妊婦の受け入れの際には、妊娠が何週目になっているのか、あるいは合併症の有無などを基に、設備や医師の数などを勘案しながら自分の病院で受け入れ可能かどうかを判断しているため、母体と胎児の状態が全く分からない妊婦を安易に引き受けることは出来ないという事情があります。また、とくに未受診妊婦の場合は、先ほどお話をしたように赤ちゃんや母体が危険な状態である確率が高いため、死産などの場合に訴えられるケースも多いことなどを考えると、ますます受け入れに慎重にならざるを得ないという事情があるのです。

以上のように、非常な危険を伴いますので、検診は必ず行う必要があり、これを怠ることは非常に危険であることを認識しておかなければならないのです。

出産費用はこれだけかかる

では、なぜ検診に行かない人が増えているのでしょうか。

神奈川県の8つの基幹病院において検診を受けに行かない人の理由を聞くと、以下の通りとなっています。

<図2>神奈川県基幹8病院における飛込み出産の理由

飛び込み出産301人から聞いたところ、約半数の146人が「経済的理由」から検診を受けないという人が約半数を占めます。では、出産費用は実際にどれくらいかかるのでしょうか。ここでは、分娩と検診の金額について注目します。

出産のときにもらえるお金

出産育児一時金 35万円
※健康保険の場合、この他に付加金がもらえる場合がある。
出産にかかる費用

検診費用 10万円前後
入院・分娩費用 30~40万円
費用合計 40~50万円


1回あたりの検診料がだいたい5000円~1万円。最初の6ヶ月間は月1回、その後は2週間に1回、臨月になると1週間に1回となり、平均するとだいたい14回。検診費用の合計は平均10万円前後。この他に入院・分娩の費用が平均で30~40万円程度ですので、合計で40~50万円。ただし、出産する病院や、個室にした場合の差額ベッド代などによっては、さらにお金がかかる場合もあります。

一方で、出産育児一時金が35万円もらえます。そのほかに、健康保険に加入している場合は出産育児一時付加金がもらえる場合も数万円から十数万円程度もらえることもあります。

飛び込み出産は激減なるか!? 妊娠中の検診無料化を政府が検討中

出産育児一時金や付加金のほかにも、自治体によって検診料の一部負担が行われていますが、現状はどれくらいの検診費用を負担してくれるかについては自治体によって違います。しかし、経済的な理由などにより未受診妊婦が増えている現状を踏まえ、2008年8月22日、舛添厚生労働大臣は妊婦検診料を原則として全額負担し、2009年4月からの実施を目指すことを発表しました。これにより、10万円前後かかっていた検診料は支払う必要がなくなる可能性が出てきました。また時期は未定ですが、出産育児一時金も35万円から更に増額することが検討されることも明らかになりました。

これらの施策は、飛び込み出産を減らすための施策としては非常に有効でしょう。ただ、これで全てなくなるというわけではありません。検診をしっかりと受けるのは親としての責務ですし、またそれを行わなければ大変危険なことも認識していただきたいのです。「検診に行かない」というのは、「病院嫌いの人が風邪を引いても病院に行かない」というものとは事情が違うのです。何かあった際には赤ちゃんだけでなく、自分の健康にも影響があるのですから、将来親になるお父さんやお母さんにもしっかりと考えて行動をとって欲しいものです。

執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。

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