第13回:銀行業務とリスク管理 ~新BIS規制の適用が遅れて邦銀が喜んだ訳~


BIS規制(バーゼル合意)とは? ~バーゼルⅠ~

国際業務を行う銀行の自己資本比率に関する国際統一基準のことで、バーゼル合意ともいいます。
BIS規制(バーゼルⅠ)では、G10諸国を対象に自己資本比率の算出方法(融資などの信用リスクのみを対象とする)や最低基準(8%以上)などが定められました。自己資本比率8%を達成できない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされます。

BIS規制は、国際間における金融システムの安定化や銀行間競争の不平等を是正することなどを目的として1988(昭和63)年7月にバーゼル銀行監督委員会により発表され、1992(平成4)年12月末(日本では1993年3月末)から適用が開始されました。
また、日本の金融機関が自己資本比率を計算する場合には、自己資本に有価証券の含み益の45%を参入することが認められました。

国際統一基準が出来た背景は、1980(昭和55)年以降、国際金融市場は飛躍的に拡大しましたが、その一方では、累積債務の深刻化や増加するデリバティブ取引のリスク管理などが問題となっていました。
そして、米国での大手銀行の倒産をきっかけに、システミック・リスク(金融機関が破綻した場合の影響が世界規模で波及すること)が懸念されるようになりました。経営破たんした金融機関には、自己資本比率の低下という特徴がみられたため、国際金融市場での取引の安全性を考慮したバーゼル銀行監督委員会は、国際業務を営む銀行に対して、国際統一基準として自己資本比率を8%以上維持するよう、規制を求めました。これがBIS規制(バーゼル合意)です。

日本の金融機関は当時、海外市場で積極的に融資を行っていましたが、自己資本比率は低いものでした。そのためBIS規制導入により自己資本増強のための融資内容の見直しが必要となりました。

 BIS規制(バーゼルⅠ)では、G10諸国を対象に自己資本比率の算出方法(融資などの信用リスクのみを対象とする)や最低基準(8%以上)などが定められました。自己資本比率8%を達成できない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされます。

新BIS規制 ~バーゼルⅡ~

バーゼル銀行監督委員会は、国際社会における金融システムの複雑化を踏まえ、

  • 最低所要自己資本比率規制(リスク計測の精緻化)
  • 銀行自身による、経営上必要な自己資本額の検討と当局によるその妥当性の検証
  • 情報開示の充実を通じた市場規律の実効性向上

を3つの柱として策定されました。バーゼルIIでは、達成すべき最低水準(8%以上)はバーゼルIと変わらないものの、銀行が抱えるリスク計測(自己資本比率を算出する際の分母)の精緻化が行われました。わが国では、2006年度(平成18年度)末から(先進的なリスクの計測手法を採用する一部の銀行は翌2007年度末から)バーゼルIIに移行しました。

新BIS規制改定 ~バーゼルⅢ~

バーゼルIIIは、金融危機の再発を防ぎ国際金融システムのリスク耐性を高める観点から国際的な金融規制の見直しに向けた検討が行われた結果、合意が成立しました。
具体的には、金融危機の経験を踏まえ自己資本比率規制が厳格化されることとなったほか、定量的な流動性規制や過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率が新たに導入される予定で世界各国において2013年(平成25年)から段階的に実施され最終的には、2019年(平成31年)初から完全に実施される予定になっています。

具体的にはBIS(国際決済銀行)は、新BIS規制(バーゼルⅢ)でG20の国々に対し、

  • 新自己資本比率で2倍以上の16~20%
  • 現在は安全資産としている国債のリスク資産化までを協議

国債のリスク資産化は、ユーロの南欧債の暴落とユーロの金融危機から出てきたものです。
国債のリスク資産化が決定すれば、国債を大量にもつ日本の金融機関は、自己資本比率を満たせず国債を売らなければならなくなります。

世界の金融機関が、過剰に持っている国債を売るとどうなるか?
これは、金利高騰から世界に金融危機をもたらします。
1980年代末の日本の大手銀行へのBIS規制(自己資本規制8%)の適用は、金融機関の株売りを促し、日本株を暴落させました。当時は、株価の含み益が銀行の自己資本と見なされていたからです。

今度は国債です。現在、国債はリスク資産とはされていません。
現在は下落した国債を金融機関が持っていて、満期まで保有すると言えば、時価との差の含み損があっても額面で評価していい。大きく下がった南欧債(PIIGS債)でこれが問題になっています。

国債も株のように、時価評価すべきだとBISが決めれば世界の金融には巨大な津波のような衝撃が走ります。世界の国債は6,000兆円(世界のGDPの1年分)もあり、ほとんどは金融機関が持っているからです。

今回、規定の適用は延期されました。一番喜んだのは邦銀だと思います。

世界の国債は6,000兆円(世界のGDPの1年分)もあり、ほとんどは金融機関が持っているからです。


執筆:チームM 代表 松井信夫(ファイナンシャルプランナー)CFP®
株式会社ウィム 代表取締役。NHK文化センターをはじめ、全国各地で年100回以上のセミナーを行う人気ファイナンシャルプランナー。
“プロのノウハウを分かりやすく”をモットーに、ジェスチャーを混じえて説明するセミナーは、笑いあり、涙あり、飽きさせない語りが評判です。
顧問契約のお客様へのコンサルティングでは、リーマンショック、ギリシャショックなど数々の金融危機の中でも、お客様の資産を増やし続けてきた実績が有名。
著書に、『金融時事用語辞典』(共著、金融ジャーナル刊)、『銀行では絶対に 聞けない資産運用の話』(書肆侃侃房刊)がある。
チームMの本部は銀座6丁目の株式会社ウイム内にあり、毎月全国からFPや金融関係者が知識向上、スキルアップ等の為に集まり、相互研鑽を行っています。

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