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井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール |
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高野秀昭さん(53歳 仮名)のご相談
このたび半年間入院していた実家の父親の退院が決まり、自宅介護が始まります。以下の「経緯と現状」のとおり、現在の父の状況は芳しくはありません。実家は、私の家から電車で2時間ほどの距離にあり、私も妻も会社勤めで、実家からの通勤も同居も難しいところです。母親も数年前に股関節と腰を手術し要支援1の判定と身体障がい者手帳を受けており、杖がないと歩行もできないため、父親の介護の負担も心配です。
私には兄弟がおらず、できる限りのことを考えたいのですが、どんな準備をすれば良いのか見当がつきません。具体的なアドバイスをお願いいたします。
高野秀昭さん(仮名)の家族のプロフィール
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高野さんの父親の心身の経緯と現状
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自宅介護では、各方面に頼れるセーフティーネットをつくり、少しずつ柔軟に準備をすることが大切です。
セーフティーネットづくりは、生活の「負担を減らす」ことがポイント
高野さま、ご相談ありがとうございます。お父さまのお身体やお母さまのご負担は確かに心配ですね。こういう時には、「頼れるところは頼る」、「生活の負担を減らす」という気持ちを持つことが大切です。心身の状態が変われば、それに応じて暮らし方も変わるのが自然です。「家族なのだから、全てを家族が抱える」と考えるのではなく、「家族だからこそ途中で疲弊しないよう、心身に余裕を残しておかなければならない」と考えましょう。
そのために、具体的に次のような生活の見直しを検討されてみてはいかがでしょうか。
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① デイサービス(デイケア)を利用する
お父さまのケアマネージャー(ケアマネ)からも提案があると思います。お母さまの日中の負担を減らすためにも、週に数回程度は半日間、できるだけ体を動かすプログラムのあるデイサービスを探してもらいましょう。通所リハビリ機能のあるデイケアを選択する手もあります。お父さまは自力で入浴するのが困難かと思いますが、家族による入浴介助はもちろん、訪問入浴等の介護サービスを利用するよりも、デイサービス等で入浴を済ますのが負担も少なく安心できます。 -
② 通院には移動介助と送迎のNPOを利用する
手術を受けた病院への通院は定期的に必要でしょう。病院が近所でない場合は毎回付き添うのも負担が大きいので、NPO等に依頼する手もあります。依頼先によりさまざまですが公的介護保険よりも使い勝手が良く、送迎、院内付き添いと移動介助、医師とのやりとりの報告、次回検査予約までを依頼可能なNPOもあります。 -
③ 内科等の「かかりつけ医」は訪問診療に切り替える
逆に近所に「かかりつけ医」がある場合、通院から訪問診療や訪問看護に切り替える方法もあります。通院より多少は費用が高くなると思われますが、例えば内科等で処方薬もある場合、提携している調剤薬局の薬剤師等の方も一緒に訪問してくれます。家族も一緒に話が聞けるのも利点でしょう。訪問診療を実施しているクリニック等を利用する際には、これまでの「かかりつけ医」に相談し紹介状を頂きましょう。 -
④ ゴミを戸別収集に切り替える
集合住宅と異なり、一般的に戸建ての場合は決められた集積場所へ曜日ごとに分別したゴミを出しに行かねばなりません。地域の収集頻度にもよりますが、オムツは溜まると相当な量と重さになります。近いとはいえ自宅から離れた集積場所へ毎回何往復も行うのは重労働です。行政により有無や利用条件が異なることもありますが、「高齢者等戸別収集」を利用できれば、週一回等の決められた日に分別の手間なく、玄関先まで回収に来てくれます。気になる場合は役所に問い合わせてみましょう。なお、回収日に玄関先にゴミが置かれていない場合、高齢者宅内で事故が起きていないかを確認してくれることもあるので、見守り策にも繋がります。 -
⑤ ヘルパーを利用する
食事の支度や洗い物、洗濯、掃除等の家事のうち、他人に任せても良いものから、順次、任せるのも良い手です。例えば、立ち上がったり屈んだりするのが重労働となるトイレや風呂場の掃除を依頼するだけでも負担は意外と軽減できます。ただし、家事に関するヘルパーを利用する場合、原則として、誰の介護保険を適用するのかで提供できる空間に制約があります。例えば、父親は自宅の風呂を利用せずトイレは両親で共有する場合、父親でなく母親の介護保険を適用すれば風呂とトイレの両方(時間に余裕があれば居間や母親の居室も)の掃除を依頼できます。1時間程度のサービスを週に1~2回の頻度で依頼すれば十分でしょう。 -
⑥ シルバー人材センターを利用する
庭の手入れや片付け、室内の大掃除、大工仕事等をシルバー人材センターに依頼する方法もあります。原則1割等負担の介護サービスより高くなる可能性もありますが、公的介護保険のような制約はないので、依頼できる事柄は幅広く時間的な制約もありません。大掛かりになるものは1日単位での利用も可能です。
セーフティーネットは、家族の負担を減らすとともに、色々な人が出入りするので見守りに繋がります。また、始めは慣れず気苦労もあるかもしれませんが、時間をかけて交流を重ねて信頼や親しみを感じるようになれば、要介護者の方だけでなく家族にとっても、人付き合いを広げることになります。社会との分断や孤立は悪循環を生む元凶です。人と話す機会を意識的に増やすことは、良い気分転換にもなるでしょう。
準備は一気に大がかりにおこなわず変化の様子もみながら徐々に
介護のケアプランの柱は、一般的にデイサービス(デイケア)やヘルパー等のソフト面の活用と、介護用具や手すり等のように要介護者の方が暮らしやすい住宅を整えるハード面の活用となります。ハード面は、貸与(レンタル)、購入、住宅改修に分けられ、要介護者の状態等に応じてケアマネージャーの方と相談しながら選択します。以下はその参考例です。
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① 自宅介護スタート時
介護用具等は、最初から購入や改修するのではなく、使い勝手を試したり、心身の変化に合わせて柔軟に変更できたりする貸与(レンタル)中心で様子をみながら準備するのが無難です。特に改修は、原則として要介護者ごとに通算20万円が介護保険制度の自己負担割合で利用できる上限なので、勝手がわからない段階で枠を使い過ぎないことも重要です。なお、要介護者の寝室は動線を考慮しトイレに近い部屋に変更するのが良いでしょう。その他、ハード面の主なポイントは、以下のとおりとなります。-
電動昇降機能のある介護ベッド
オムツは毎晩、夜中に交換する必要があります。また、パジャマの着替えを補助する際にも、リクライニングやベッド自体が昇降する機能があれば介助者が腰を屈める必要がなく負担が軽減します。 -
手すり
ベッドから起き上がる際の手すり、トイレまでの動線を補助する手すり、トイレ内で体を支える手すり、靴とスリッパの履き替えの際に必要な玄関の手すり、玄関を出て門柱から道路停車中の車に乗り込むまでの手すり等、生活上の動線にあわせて必要な手すりを検討してもらいましょう。 -
歩行補助用具
入院中のリハビリで慣れた形式のものが基本です。衛生面を考えれば、外出時のシルバーカー(ストッパー付きの4輪手押し車)、居宅内は歩行補助器(4本脚の持ち上げ型歩行器等)と分けるのが良いでしょう。なお、シルバーカーの種類によっては貸与不可もあり、その場合は購入することになります。
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② 要介護認定の更新を受ける直前
高野さまのお父さまは要介護3の判定で、特別養護老人ホーム(特養)の入所基準である比較的重度な状態です。寝たきりか車椅子移動かつ要全介助等の事由で、入院中は要介護度が高くなる傾向があります。初回認定の1年後には要介護度の更新が必要ですが、更新で要介護度が低くなると月額あたりの利用限度額も低くなります。更新前の介護度のままサービスを受けていると限度額を超過してしまうこともあり得ます。一定期間が経てば、必要な手すり等の位置等もわかってきます。最低限必要な部分を、改修にて変更するのも一つの方法でしょう。 -
③ そのほかの自宅のバリアフリー化のための措置
高齢者が転倒しやすいのは目に見えにくいミリ単位での段差です。畳や敷居やじゅうたん等の些細な段差の解消をするためのスロープ器材や滑り止め、目につきやすい蛍光テープの利用、寝室とトイレを繋ぐ動線上に人感センサー付きライトを設置するなど、築年数の古い家屋でも工夫をすれば100円ショップやホームセンター等でも手に入る用具でバリアフリー施策をすることも可能です。
自宅介護を迎えるための居室づくりは一気に行わず、心身等の変化に合わせて柔軟に、徐々に対応するのがポイントです。長くその家で暮らしてきた方なのですから、時間ととともにまた慣れてくることがあるかもしれません。また、過保護な措置はせず、以前のように機能しなくなった部分だけを補助する程度がちょうど良いケアだと思われます。
専門家等への相談もフルに活用しましょう
自宅介護は、最初の1か月程度が最も大変といわれます。
高野さまのお父さまのように長期で入院されていた場合、入院生活とのギャップから逆に自宅が暮らしづらいこともあり得ますし、慣れていないこの頃はご家族の負担も相当なものになり得ます。また、上述したように介護のケアプラン策定や各種セーフティーネットの構築など、自宅介護スタート時はやらねばならないことが満載です。お母さまのサポートのためにも、ひと段落着くまでご実家に戻るのが安心ですが、高野さんのお勤めの会社で介護休業制度等をどう利用するのか、上司や人事部門の方ともよく相談されてください。
また、介護全般の相談相手はケアマネとなりますが、ケアへの考え方や性格的にどうしても合わない場合もあり得ます。ケアマネだけでなく介護事業所の変更も可能ですので、地域包括支援センター(包括)の窓口にも接点を持つことをお勧めします。
高野さまのお父さまの場合、自宅に戻ることによる当面の大きな懸案は、認知症の症状がいくらか改善するのかどうか、オムツに頼らずトイレで問題なく用を足せるように戻れるかどうかと思われます。ご家族の心労が溜まってきたら、デイサービスの数日間宿泊版であるショートステイの利用や、場合によっては特養等の施設入所も選択肢に入れる覚悟が必要になるかもしれません。
現在、高野さまのお母さまは要支援ですが、原則、要支援のケアマネは包括のスタッフか、包括から要請を受けた介護事業者のスタッフです。包括は、高齢者の抱える困りごとからその家族の抱える悩みまで相談できる場であり、地域の各種サービスの情報が集約される場です。何よりお母さまの心身の状態を一番よく知る専門家の1人です。お母さまのケアマネの方にも相談されると良いでしょう。
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