第4回:実はそんなにもらえない!?離婚による年金分割


今年(2007年)の4月から年金分割制度がスタートしました。ここ数年、離婚率が減少しているのは、この年金分割を待っている人が多いからではないか、とも言われています。ドラマ「熟年離婚」が2005年にはやり、世の中の主婦層から大いに共感を呼び、それに伴い、年金分割の相談は増えてきました。

しかし、そんな年金分割によりバラ色(?)の生活を夢見る奥様方がいらっしゃるとすれば、現実はそんなに甘くありません。実際はいくらぐらいもらえるのか、実例を基にシミュレーションを行ってみましょう。

主婦Aさんからの相談

Aさんからの情報

  • 現在59歳専業主婦、子供なし
  • 夫も59歳。18歳から勤めており、現在の年収は約500万円。
  • 35歳のときに結婚。夫婦生活は24年。
  • Aさんは結婚前はフリーで翻訳の仕事をしていたため、厚生年金加入期間はゼロ。
  • 一度試算をしたところ、将来もらえる年金は年間約360万円。

私もドラマ「熟年離婚」を見て共感した一人です。年金分割制度がスタートすることを知って、これからは少しでも自由に生きたいと思い、ひそかに楽しみに待ち続けていました。2年ほど前に、試算したところ、将来もらえる年金は年間合計で360万円とのことだったので、もらえる年金はその半分の180万円となり、月平均で15万円ぐらいもらえるものだと思ってました。

ところが先日、知人に詳しい人がいて相談したところ、何ともらえる額は毎月10万円弱。しかも、この金額も裁判で最大限、私の意見が認められてこの金額とのこと。肩の力がガクっと抜けてしまった気分です。説明も難しくてよく分からず、どうしても納得がいきません。一体なぜこんな金額しかもらえないのでしょうか。

回答

2007年4月から施行された年金分割制度の概要を見てみましょう。
大きな特徴としては以下の3点です。

  • 分割の対象となる年金は、厚生年金(或いは共済年金)のみである。
  • 分割の対象となる期間は、婚姻期間のみである。
  • 離婚時の分割についてはお互いの合意が必要で、合意に至らない場合は裁判所にて判断が下される。

次に、年金がどのようになっているのかを見てみます。
年金は、大きく分けて3階建ての構造になっています。図で示すと以下の通りです。

今回年金分割の対象となっているのは、あくまで「厚生年金(共済年金)」のみになります。 もう少しこの中身を詳しく見ていきましょう。離婚前にそれぞれ支払われるAさんと旦那さんの分は以下の通りとなります。

Aさん…1階部分の6.5万円のみ
Aさん夫…1階6.5万円、2階10万円、3階7万円
つまり、2階部分のみしか対象になりません。

年金30万円/月の内訳

次に、その10万円は旦那さんの42年分の厚生年金にあたります。婚姻期間は来年でも25年ですので、10万円のうちの25/42である約6万円しか対象になりません。
つまり、6万円の半分にあたる3万円が上乗せされ、9.5万円ということになります。
さらに言うと、この9.5万円はAさんが最大もらえる額ということになります。本人たちの間で合意に至らなかった場合は裁判となるわけですが、この場合は当然この額より減額されるケースもあるわけです。

ファイナンシャルプランナーからの一口アドバイス

Aさんのように、もらえる年金が全て半分になるわけではありませんので注意が必要です。 ちなみに、2008年4月からは厚生年金は自動的に分割されることになるのですが、この年金はあくまで2008年4月以降が対象となるため、制度開始後に離婚をする人にはほとんどメリットはありません。

また、年金は加入状況によってもらえる額が大きく違ってきます。自分がどれくらいもらえるのか気になる方は、夫に内緒で年金額を調べることができます。社会保険庁に自分の年金手帳と婚姻を証明するもの(戸籍謄本など)を持っていくと、夫に分からないように年金額を教えてくれます。

この年金分割制度は国の事情から!?

ところで、この制度がスタートすることにより、国にもメリットがあることをご存知でしょうか。
これには、2つの大きな理由があるのです。

 1. 女性が離婚した場合、生活保護の対象者が増えてしまう
 2. 夫の死亡後は、妻に遺族年金を払い続けなければならない

まず、1点目の生活保護についてです。
長年専業主婦だった女性が離婚すると、もらえる年金は満額でも80万円弱。
これでは1ヶ月あたり67,000円にも届かず、やがて生活保護の対象となってしまう可能性が高くなります。そこで夫婦の年金を分割して、妻の増えた年金でなんとか生活費をまかなえるのであれば、国としては社会保障費を大幅に減らすことができるわけです。

また、2点目の遺族年金についてです。
平均寿命から見ても明らかなように、一般的には女性の方が長生きです。従って、離婚をしなかった場合は、夫の死亡後に、国は遺族年金として夫の厚生年金の3/4を支払わなければなりません。そこで、離婚して年金を分割しておけば、最高でも1/2になるため、国としては支出を抑えることができるわけです。

国は決して年金の支払いを減らすために熟年離婚をあおっているわけではないのでしょうが、制度ができた背景には「財政支出を抑えたい」という国の考えも見え隠れします。

最後に

年金が分割されても、増える年金はそれほど多くないというのが実態です。離婚を前提に考えるのではなく、むしろこの機会を「夫婦の関係を見直す良いチャンス」と捉えてみてはいかがでしょうか。

60歳を過ぎたら、それぞれが趣味や生きがいをみつけて生活をするのも良いですし、孫の世話をしながら子育ての大変さや楽しさを思い出すこともあるかもしれません。長い歴史を築いてきた夫婦です。制度に振り回されることなく、「自分たちらしさ」を考えてみてはいかがでしょうか。

執筆:中島智美(なかじま ともみ)CFP®
保育士、幼稚園教諭からファイナンシャルプランナーへ。現在は、個別相談業務のほか、FP養成講座やセミナー講師として活動中。大学、専門学校でも講師として「大学生のためのお金の講座」等を担当するほか、起業家のための個別相談やセミナーも行う。瀬戸内寂聴さんのような、どんな相談にものることのできるFPを目指し日々修行中。著書「熟年離婚のマネー相談」ぱる出版

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