第53回:公的介護保険はどのような場面で使うの?


最近、大手介護サービス事業者による介護報酬の不正請求が発覚し、介護保険制度が注目されました。こうした形で介護保険制度が注目されるのは残念なことですが、高齢化が進む日本において、介護保険制度は日々重要性を増してきています。

介護は、自分自身や家族など、誰でも身近に起こる可能性があり、関心度の高い問題です。その一方で、「実際に介護の場面に出くわすまでは、どのような場面で、どのようなサービスが受けられるのかほとんどイメージがわかない」という方も多いと思います。そこで、今回は、介護保険で受けられるサービス内容や、介護保険の利用シーンについて解説したいと思います。

介護保険制度の加入者と給付対象者

まず、介護保険制度における加入者(被保険者)及び給付対象者について、簡単に説明します。

【加入者】
介護保険制度には、40歳以上の人が加入します。65歳以上の加入者を「第一号被保険者」、40歳から64歳までの加入者を「第二号被保険者」と呼びます。

【給付対象者】
介護保険制度による介護サービスを受けるためには、市町村に申請し、「要介護・要支援認定」を受ける必要があります

要介護・要支援度は、図1のように、介護を受ける人の心身の状態に応じて、7段階に区分されています。このいずれかの状態に該当する場合、介護保険の給付対象者となり、介護サービスを利用することができます(非該当となった場合でも、要支援や要介護になるおそれが高い場合には、予防介護サービスを利用することができます)。

なお、要介護認定の際、第一号被保険者は、要介護状態となった原因を問われないのに対し、第二号被保険者は、図2にある特定の病気に伴って要介護状態となった場合のみ給付の対象となります

<図1:要介護度別の認定基準>

状態区分 認定基準
要支援1 基本的な日常生活はほぼ自分で行えるが、要介護状態にならないように何らかの支援が必要
要支援2 要支援1の状態より基本的な日常生活を行う能力がわずかに低下し、何らかの支援が必要
要介護1 立ち上がり・歩行等に不安定さがみられ、排泄・入浴等に部分的介助を要する
要介護2 立ち上がり・歩行等が自力ではできない場合が多く、排泄・入浴等に部分的または全介助を要する
要介護3 立ち上がり・歩行等が自力ではできず、排泄・入浴等に全面的な介助を要する
要介護4 日常生活を行う能力がかなり低下しており、全面的な介護が必要な場合が多い。
尿意・便意がみられなくなる場合もある
要介護5 日常生活を行う能力が著しく低下しており、全面的な介護が必要である。
意思の伝達がほとんどまたは全くできない場合が多い

<図2:特定の疾患一覧>

1 初老期認知症:アルツハイマー病、脳血管性痴呆、神経変性疾患、感染症によるもの
2 脳血管疾患:脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、硬膜下血腫など
3 筋萎縮性側索硬化症
4 パーキンソン病
5 脊椎小脳変性症
6 多系統萎縮症
7 糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害
8 閉塞性動脈硬化症
9 慢性閉塞性肺疾患: 肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎
10 両側の膝関節または股関節の著しい変形を伴う変形性関節症
11 慢性関節リウマチ
12 後縦靭帯骨化症
13 脊柱管狭窄症
14 骨折を伴う骨粗しょう症
15 早老症(ウェルナー症候群等)
16 末期がん

介護保険制度には、どのようなサービスがあるの?

介護保険制度によるサービスには、在宅サービス施設サービスの2つがあります。

在宅サービス

自宅で介護を行う場合、在宅サービスを利用します。在宅サービスには、図3のように、「訪問介護や訪問入浴など自宅に居ながら受けるサービス」、「デイサービスなど施設を利用して受けるサービス」、「福祉用具貸与など介護をする環境を整えるためのサービス」があります。介護保険はサービスの給付が基本ですが、特定福祉用具購入費(図3の17)と住宅改修費(図3の18)については、現金での給付となります。

<図2:特定の疾患一覧>

自宅に居ながら受けるサービス
1.訪問介護
(ホームヘルプ)
ホームヘルパーが家庭を訪問し、食事や排泄・入浴などの介護や、掃除・洗濯・食事の準備や調理、買い物などの生活援助を行うサービス
2.夜間対応型訪問介護* 夜間に、ホームヘルパーが家庭を訪問し、介護や身の回りの世話をしてくれるサービス
3.訪問入浴介護 看護師やホームヘルパーが訪問し、組み立て式の浴槽を持ち込んで入浴の介助を行うサービス
4.訪問看護 主治医の指示に基づき看護師等が家庭を訪問し、訪問看護計画に従って療養の世話や診療の補助をしてくれるサービス
5.訪問リハビリテーション 主治医の指示に基づき、理学療法士や作業療法士などが家庭を訪問し、リハビリを行ってくれるサービス
6.居宅療養管理指導 医師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士などが通院の困難な人の家庭を訪問し、生活上の管理・指導を行ってくれるサービス
施設を利用して受けるサービス
7.通所介護
(デイサービス)
日帰り介護施設(デイサービスセンターや特別養護老人ホームなど)に通い、食事や入浴、リハビリテーション、レクリエーションなどを受けられるサービス
8.認知症対応型通所介護
(デイサービス)
日帰り介護施設(デイサービスセンターや特別養護老人ホームなど)に通い、認知症高齢者に配慮した日常生活上の介護や機能訓練を受けられるサービス
9.通所リハビリテーション
(デイケア)
介護老人保健施設や病院、診療所に通い、心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるためのリハビリテーションを受けられるサービス
10.短期入所生活介護
(福祉系ショートステイ)
特別養護老人ホームなどに短期間入所し、食事、入浴、排せつなど日常生活上の世話や機能訓練を受けられるサービス
11.短期入所療養介護
(医療系ショートステイ)
介護老人保健施設や介護療養型医療施設に短期間入所し、医学的管理のもとで看護、介護、機能訓練、その他の日常生活上の介護を受けられるサービス
12.小規模多機能型居宅介護 身近な地域の施設に通所、または、短期間入所して介護や機能訓練を受けたり、居宅において訪問介護を受けられるサービス
13.認知症対応型共同生活介護
(グループホーム)**
比較的安定した認知症の高齢者が、介護スタッフの支援を受けながら、少人数(5~9人)で共同生活を送りながら、日常生活上の介護や機能訓練を受けられるサービス
14.特定施設入所者生活介護 介護保険の特定施設として指定を受けた有料老人ホームなどに入所している人が要支援・要介護認定を受けたときに、入浴、排泄、食事などの介護や機能訓練、療養上の世話を受けられるサービス
15.地域密着型特定施設入居者生活介護 介護保険の特定施設として指定を受けた小規模な有料老人ホームやケアハウスなど(30人未満)に入所している人が要支援・要介護認定を受けたときに、入浴、排泄、食事などの介護や機能訓練、療養上の世話を受けられるサービス
介護する環境を整えるサービス
16.福祉用具貸与 日常生活の自立を助けたり、機能訓練に用いるための福祉用具や介護者の負担を軽くするための福祉用具を借りることができるサービス
例)車いす、車いす付属品(クッション、電動補助装置など)、特殊寝台、特殊寝台付属品(マットレスなど)、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり(据え置き型など工事を伴わないもの)、スロープ(工事を伴わないもの)、歩行器、歩行補助杖、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト(つり具部分を除く)

17.特定福祉用具購入費の支給

日常生活の自立を助けたり、介護者の負担を軽くするために購入した特定福祉用具(入浴や排せつのために用いる貸与になじまない福祉用具で厚生労働大臣が定めるもの)の購入に対し、申請に基づいて介護給付費が支給される

18.住宅改修費の支給

介護に必要な手すりの取り付け、段差の解消などの小規模な住宅改修を行う場合に、厚生労働大臣が定めた住宅改修の種類であれば改修後、介護給付費が支給される

※1上記サービスのうち、「*」がついているものは、要支援1,2の場合には利用できません。また、「**」がついているものは、要支援1の場合には利用できません(図4についても同様)。
※2施設に入所して介護サービスを受ける場合には、在宅サービスは利用できません。
※3要支援の場合のサービス名称は一部省略しています。要支援の場合には、要介護度が比較的軽度の人向けのサービスが提供されます。また、予防効果のあるサービスが導入されています(図4についても同様)。

施設サービス

自宅での介護が困難な場合、施設サービスを利用することになります。施設サービスは、図4のように、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設に入所して、介護や看護などを受けます。

<図4:施設サービス一覧>

施設に入所して受けるサービス

1.特別養護老人ホーム
(介護老人福祉施設)*

常時介護が必要で、自宅では介護が困難な人が、入浴、排せつ、食事の介護、その他日常生活上の世話等を受けるための施設

2.地域密着型特別養護老人ホーム
(介護老人福祉施設)*

常時介護が必要で、自宅では介護が困難な人が、入浴、排せつ、食事の介護、その他日常生活上の世話等を受けるための小規模な施設(定員30人未満)

3.介護老人保健施設*

病状が安定した人が、リハビリに重点を置いたケアが必要な場合に入所する施設。医学的管理のもとに介護や看護を行い、家庭復帰を目指す

4.介護療養型医療施設*

急性期の治療が終わり、病状は安定しているが、長期間にわたり療養の必要な人が入所する施設。療養の管理、看護、医学的管理下での介護、機能訓練や必要な医療が受けられる

実際のサービス内容については、介護事業者ごとに特徴がありますので、利用する際にはしっかりと確認することが必要です。

住宅火災保険は、主に火災に関する補償にまとが絞られた保険です。それに対して、住宅総合保険は、住宅火災保険よりも補償の範囲が広く、水災や盗難なども対象になりますが、保険料は住宅火災保険よりも割高になります。

受けるサービス内容はどのように決める? また限度はあるの?

それでは、これらのサービスの中から、どのサービスを、どれくらい受けることができるのでしょうか? 介護保険では、要介護度に応じて、介護サービスの支給限度額が定められています。この支給限度額の範囲内で、利用者の希望、身体の状況や住まいの状況から、家庭環境にあった利用計画(ケアプラン)を作成し、サービスを利用します。

ケアプランの作成にあたっては、各サービスの費用と照らしながら、利用者の要介護度に応じて、適切なサービスを選択する必要があります。そのため、通常、介護保険の専門家であるケアマネジャーと相談しながらケアプランを作成します。このケアプランにおいて、限度額の範囲内でサービスを利用する場合、利用者の自己負担額は原則1割ですが、限度額を超えてサービスを利用する場合には、超えた部分は全額自己負担となります。

状態区分 要支援1 要支援2 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
支給限度額 49,700円 104,000円 165,800円 194,800円 267,500円 306,000円 358,300円
自己負担額 4,970円 10,400円 16,580円 19,480円 26,750円 30,600円 35,830円

※住宅改修費、特性福祉用具購入費は、それぞれ別枠で支給上限額が定められています。
※支給限度額は、地域ごとに異なります。

事例で見る介護保険の利用シーン・・・

ここで、介護保険の利用シーンのイメージを掴んでもらうために、どのような場面で、どのように介護サービスを利用するのか、いくつか事例を紹介したいと思います。なお、事例中の費用例については、地域、要介護度、事業者ごとに異なりますので、参考としてご覧ください。

事例1:骨折をして「要介護1」に認定されたAさん(75歳)

Aさんは、この度、散歩の最中に転倒し、骨折してしまいました。手術を行いましたが、歩行の際には杖や手すりが必要となり、また、入浴時など部分的な介助が必要となり、「要介護1」の認定を受けました。Aさんは、ケアマネジャーと相談し、転倒防止のために、自宅の廊下や浴室へ手すりをつけるための「(1) 住宅改修費」の活用と、「(2)福祉用具貸与サービス」を利用して4点杖のレンタルを行うことにしました。

<費用例-要介護度に関わらず共通>

(1) 住宅改修費 原則、現住所につき20万円を限度額とし、利用者がその1割を自己負担
(2) 福祉用具貸与サービス 自己負担はレンタル費用の1割

事例2:脳梗塞の後遺症で「要介護2」に認定されたBさん(55歳)

Bさんは、脳梗塞で倒れ、右半身麻痺と軽度の失語障害の後遺症が残り、「要介護2」の認定を受けました。これまでBさんの娘が身の回りの世話をしていましたが、この度娘がパートに出る事になりました。Bさんは、ケアマネジャーと相談し、娘が働きに出る週3回、施設で食事・入浴等の日常生活の支援やリハビリテーションを行ってくれる「(1)通所介護(デイサービス)」を利用することにしました。また、友人の結婚式のために娘が2日ほど家を空ける間、「(2) 短期入所生活介護(ショートステイ)」を利用することにしました。

<費用例>

(1) 通所介護
(デイサービス)
・通常規模の事業所、6時間以上8時間未満、要介護2の場合:
1回につき8,458円(自己負担846円、送迎込み。食費、日常生活費等は別途全額自己負担。その他、入浴の加算などあり)
(2) 短期入所生活介護
(ショートステイ)
・特別養護老人ホーム(併設型・多床室)、要介護2の場合:
1日につき7,964円(自己負担796円、滞在費、食費、日常生活費は別途全額自己負担)

事例3:認知症が進行し、「要介護3」に認定されたCさん(80歳)

Cさんは、数年前より認知症の症状が出始めましたが、この度、トイレや入浴が困難になるなど症状が進行し、「要介護3」と認定されました。Cさんには子供がいますが、皆遠方に住んでおり、また仕事を持っているため、Cさんの介護が難しい状況です。そこで、CさんとCさんの家族はケアマネジャーと相談し、寝たきり状態や認知症により、常に介護が必要で、自宅では介護が困難な人が入所する「(1)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」に入所することにしました。

<費用例>

(1) 介護老人福祉施設
(特別養護老人ホーム
・平均利用月額、要介護3の場合:
296,000円(平均利用者負担月額53,700円、介護サービス費、居住費、食費の負担額含む。
その他、日常生活費は別途全額自己負担)

事例4:脳卒中で、「要介護5」に認定されたDさん(65歳)

Dさんは、この度、くも膜下出血で倒れ、1ヶ月程度入院した後退院しましたが、左半身麻痺が残り、歩く事も困難な状態となり、「要介護5」と認定されました。Dさんは1人暮らしですが、住み慣れた自宅でなんとか生活したいと考えています。そこでDさんは、主治医や理学療法士などと相談し、自宅で看護やリハビリを受ける「(1)訪問看護」と「(2)訪問リハビリテーション」及び、食事や洗濯、トイレなど身の回りの介護や生活援助を受けるための「(3)訪問介護(ホームヘルプ)」と「(4)訪問入浴介護」を利用することにしました。

<費用例>

(1) 訪問看護 ・訪問看護ステーションから訪問する場合(30分未満):
1回につき、4,454円(自己負担 446円)
・病院または診療所から訪問する場合(30分未満):
1回につき、3,594円(自己負担 360円)
(2) 訪問リハビリテーション 1回につき、5,240円(自己負担 524円)
(3) 訪問介護(ホームヘルプ) ・身体介護:30分以上1時間未満 4,309円(自己負担 431円)
・生活援助:30分以上1時間未満 2,229円(自己負担 223円)
※早朝・夜間・深夜などは加算あり
(4) 訪問入浴介護 ・全身入浴:1回につき13,400円(自己負担 1,340円)

まとめ

以上、介護保険制度のサービス内容や具体的な利用シーンについて見てきましたが、実際に自分や家族の介護問題に直面すると、経済面だけではなく、精神面でも様々な不安を抱える事になります。そのため、予め、介護保険制度のサービス内容や利用場面を知っておくことで、万一のそうした事態にも備えることができるかと思います。

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
杉田ゆみか

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